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ゆめいろさがしメンバー中岡尚子が模索する音の世界(中岡尚子インタビュー①)

【プロフィール】 
中岡尚子(なかおかひさこ)
1999年生まれ。 音と身体の関わりを模索し、音響作品の制作と演劇やダンスなどの舞台作品および映像作品のサウンドデザインを行う。東京藝術大学音楽環境創造科学部4年次在学。
Portfolio : https://lit.link/hisakonakaoka

 1. 音響との出会いと作品制作

——初めに、音楽環境創造科を受験した理由を聞かせてください。
もともとピアノをやってたり音楽教室に通ってたりしたこともあって、昔から音楽に親しみがありました。音楽環境創造科っていう新しい学科があるっていうのは親から教えてもらったんだけど、その頃に丁度説明会があったから参加して。その時にすごい楽しそうだなと思って惹かれて、目指すようになったかな。

——現在は亀川研究室で音響を専攻されていますが、初めから音響に興味を持っていたんですか?
どの専攻も初めは同じくらい興味があった。当時は迷いながら音響を選んだ感じもあったけど、今は初めから音響だったなって思う。ピアノを弾いてる時に、「こういう音を出したい」っていうのがあったら、自分の体を使っていろいろ練習してタッチを変えてみたりするじゃん?そうすると「こういう体の使い方をしたらこういう音が出るんだ」って分かるようになって、今度はそれを本番で弾けるように体が覚える練習をしなきゃいけない。たくさん体を使って変化させてた音色を、音響だったら周波数とかのちょっとした数値をいじる事で変えられて、更にそれをパソコンで「command + S」したらデータを保存出来て…みたいな事がほんとに衝撃的で。自分が演奏して出す音と、自分が音響的なデザインをして出す音は、それぞれ同じ音を出したい気持ちでも自分自身の感覚が全然違って面白くて、今はその感覚で作品を作ったりするようになりました。

——ピアノが結構軸になっているんですね。他にはどんな事を考えて制作していますか?
体を使わなくても音を変えられるっていう特徴とか性格があるのが音響作品なんだけど、データを保存して繰り返し同じものを再生出来るって事がなんか引っかかってたりもして。録音したものを扱うっていうのはどういう事なのかなって考えると結構面白い。例えば、録音したものを再生するという事は、過去のものを未来に向かって再生するという事だけど…とか考えて、録音だからこそ生まれる引っかかりみたいなものを大切にして、音作品とかサウンドインスタレーションとかを作ってます。

——中岡さんの作品では、私たちにとってどこか機械的なイメージのある「音響」というツールを通して、その対極にありそうな日々の生活音や自然的な音などを扱っているように感じていたので、今のお話を聞いてすごく納得しました。
もともとプラン立ててるわけじゃないんだけどね。自分の中ですごい大事だと思ってるのが音を聴くときの身体感覚で、例えば普段カフェとかにいて周りの音が大きくてすごくザワザワしてるのに、目の前の人に意識を向けて耳を澄ませてみると周りが気にならなくなるとか、自分の耳が選んでるっていう状況が面白いなと思って。あとは、音を聴いて何か見えないものを想像出来たりするように、耳から入る情報で身体が記憶を辿ったりするのが面白いから、自分自身が経験したところから想像して作品を作ってる事が多いかもしれない。

——制作をする上で、影響を受けている作品などがあれば教えてください。
今の関心で考えると、音の作品よりは舞台作品に影響受けてるなあ、と。それとインスタレーションに影響受けてて。今すごく大事にしてるのが、太田省吾さんっていう劇作家の「水の駅」っていう作品で、それは沈黙劇で誰も喋らないのね。ポタポタって壊れた蛇口から水が流れて来たりして、でもそれはサウンドインスタレーションではないし音の作品でもないんだけど、その音があるから静寂が際立つとか、そういう事をすごく考えさせられる。あと、ゆっくりで耐えられないって思ってしまうくらいものすごくゆっくりな作品で、それは2メートルを5分で歩くほどの速さとも言われてるくらいなんだけど。自分がピアノを弾く時も、ゆっくり練習するって大変だったなあとか思い出して、速さで誤魔化しが利く事が、ゆっくりだとずっと集中してなきゃいけないし、ずっと緊張感を保ってなきゃいけないし。そういう速さや速度についてすごく考えさせられて。だからずっと太田省吾さんの作品の事を考えながら著作を読んだりしてて、どうやって舞台で人と反応していくのかとか、何を見たらつい耳を澄ましてしまうのかとか、そういう身体の反応を考えさせてくれます。

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2. 最近の制作と今後について

——以前仲町の家で行った展示について教えてもらえますか?
2年生のアートパス(毎年12月に行われる「千住Art Path」という音楽環境創造科の制作/研究展)で制作した4チャンネルの「エオリアンダンサー」っていう作品を4.1チャンネルにリミックスして、ほぼ真っ暗みたいな中で展示しました。アートパスの時には出来なかった暗いところで耳を澄ます感覚を誘発できたらいいなと。ダンサーに鈴とかビーズとかを付けてもらって、それを録音して音だけでダンスを表現する作品だったんだけど、人間の身体を音だけで表現出来るんだなっていうのが面白くて。アートパスで展示した時は、演習室だし防音室だったから「展示」って感じになったけど、仲町の家はもともとそこに住んでた人もいるような環境だから、そこでは人の気配みたいなのもがもっと生きるかもしれないなと思ってちょっとずつ変えた感じです。

——現在も仲町の家で展示をしていますよね。それについても聞かせてください。
 今展示しているのは「2番目の風を右に曲がって」という作品で、初めて3人で合同制作をしています。また仲町の家で展示するってなった時に、次は誰かと一緒にやりたいなと思ってたから、声をかけてみて。私はそこでしか出来ない作品にしたいと思ってたんだけど、声をかけた2人もそれにすごく共感してくれて、仲町の家についてのリサーチから始めました。同時に、その空間に対してどう反応したらいいのかっていうのも話し合ってたんだけど、話し合いがとにかく多くて、いろいろ広げすぎて「どうしよう!」ってなっちゃったり(笑)。だから実際に作り始めたのはほんとに展示が始まる直前だった。展示する部屋が6畳の茶室だったから、茶室についてとかその文化的背景とかをリサーチしたかな。それから、仲町の家がもともとは誰かの家で、でも今は展示をしたり外から人が集まるような場所になってたりっていう複数の顔を持ってる事が面白くて、じゃあ私たちはこの部屋をどういう顔に出来るのかな、って考えて。「ここはこういう場所だ」って認識する人の関係性を崩したり構築したりっていう事をしてみようと思って、それが今回の作品では結構形になったかなあ。

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Nakacho Art Series 2021 # 3
中岡尚子 / 堀江幹 / 伊藤明日奈《 2番目の風を右に曲がって 》
会期:2021年7/10(土) - 8/23(月) 
   土日月祝 10:00-17:00 OPEN / 入場無料
   ※8/14(土)-16(月)は夏期のお休み
場所:仲町の家・音まちミリオン座(茶室)
WEB:https://nakachoartseries20.wixsite.com/nas2021

——そうなんですね!卒業制作の方はどうですか?
まあまあ決まってるようで決まってないんだけど…(笑)。インスタレーションでスピーカーについて考えてみようと思って。今までのインスタレーションは、再生したら全く同じものがループするって感じだったけど、卒制ではもっと演劇的なパフォーマンスも加えたくて、スピーカーを役者に見立てた演劇を作ろうと思ってます。誰かが喋った声をスピーカーで出せるっていうのが、人の声が乗り移って憑依してるみたいに思えてきて、そうするとスピーカーがひとつの身体みたいにも感じられて。しかもちゃんと指向性があるから、「ここから喋ってる!」って思って聴いてしまうし見てしまうから、スピーカーを役者だと思う事も出来るかもしれないなって考えて、それを作品にしようと。スピーカーの身体性とそのスピーカーの霊媒性、幽霊っぽさのどちらもを複合的に考えようと思ってるから、ひとりの人間の役者と1台のスピーカーを使って、ふたつでひとつの役を演じるみたいな感じにしてみようかなと思ってます。

——楽しみにしています!ちなみに、学部卒業後の進路などは何か決まっていますか?
とりあえず今年は卒業することを目指して、大学院に進学したいなと思ってます。1番は大学院で音の制作をしたい。今は音楽学部にいるけど、もうちょっとサウンドアートの文脈からも考えて制作してみたいなと思ってて。海外の大学院に行けたらいいなっていうのが今の理想かな。ちょっとまだ迷いつつだけど。

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ゆめいろさがしとは

朗読音楽絵本を制作し、上演する団体です。東京藝術大学の学生が集まり、現代の諸問題を暗示させる動物世界の物語を描いています。

▼ゆめいろさがし公式サイト
https://yumeirosagashi.studio.site
▼ゆめいろさがし公式ショップ
https://yumeirosagashi.booth.pm

インタビュアー・椿巳莉乃
写真撮影・板倉勇人
運営・ゆめいろさがし

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