第0012撃「メタ氏、舌を挿れられそうになる!!」の巻

1989年の7月下旬。
小生は放課後いつものように、
我らが基地、写真部へ寄りました。
部室である暗室には冷房は通っておらず、
2機のミニ扇風機ががんばってフル稼動しています。
〈自叙伝第0007撃〉で書いたように、
男性器を模写した紙を部室に何枚も吊るしていたことのある、
二歳年上の3年の下田先輩(仮名)と二人きりでした。

「夢野、ちょっとそこ座って」と、
下田はポテチを食べながら指示してきました。
部室内には木製の箱のような、
背もたれのない小さな椅子が幾つか置いてあります。
「みみの穴、舐めさせて」と突然下田が言ってきました。
正直なところ、小生は耳を舐められるのがイヤというより、
耳掃除を怠っていたので、
舐められることでマズい味でもされたら、
「夢野は汚い」とキモがられることを恐れ、
なかなかそこの椅子に腰かけることを渋っていました。

そうこうしているうちに時間が経ち、
「おつかれさんでーす」と悪友の多坂(仮名)が、
ドアを開けて陽気に入ってきました。
「おお、多坂エエとこに入ってきた、
ちょっとそこ座り!」
らんと眼を輝かせた下田が多坂に命じました。

多坂は訳もわからず言いなりになって椅子に座ると、
下田が多坂の片方のみみの穴に尖らせた舌を挿れました。
「ひゃー!」と多坂のやつが悲鳴をあげます。
多坂はほんとうに嫌がっているのか、
迂闊にも悦んだりすると「ヘンタイ」と思われかねないので、
いちおう嫌がっている表情をしているのだろうか。

そこへ黒人ジャズシンガーのような顔の渡瀬部長(仮名)が、
部室に入ってきました。
「下田ぁー!ナニしとるんや!
多坂に変なことするなー!」
多坂は魔性の女の餌食になっているところを、
渡瀬部長の一喝で阻止されたのでした。

そんな下田先輩はある日、
彼女の同級生の不良男子に性的乱暴をされたのか、
倒れこむように部室に亡命してきたことがありました。
まもなく不良男子がやってきて、
ドンドンッというより、
ガンガンと激しくドアを暴打してきました。
ドアには簡易ながらも鍵をかけてあります。
小生たち数名の写真部員は、
台風が過ぎ去るのを待つように、
ひたすらおとなしくしていました。

1学期の終業式、
明日からは待ちに待った夏休みだ!
写真部での挨拶を終えて、
いったん3階へあがり、
冷房ですこしひんやりした廊下を、
小生はひとりで1階へ降りようとしていました。
人気のない廊下で一人の女子生徒とすれ違いました。

元橋ゆきみちゃん(仮名)でした。
ゆきみちゃんと二人きりの廊下。
「夢野ー」
ゆきみちゃんが小生を上の名前で呼びかけたことに、
ショックを受けました。

2歳の頃からお互いに下の名前で呼び合っていた想い出は、
いったいなんだったのだろう……。
小生はがっくりと肩を落としながら家路をたどりました。
線路沿いの自販機で、
チェリオの500mLのでかい缶ジュースを買う。
ぐびぐび…、といっきに喉に流しこみました。

夜、テレビの歌番組で心にしみいる曲を知りました。
松任谷由実の「anniversary」。
早速、シングルのカセットテープを
翌日商店街のレコード店へ買いに走るのでした。

Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/21Mhxw8PyEiiMqz3DhdpWQ?si=UgpkgBI6TnCEyYju05u5HQ
YouTubeで聴くhttps://youtu.be/hIOuyyiCh8g

続く。果てしなく続く……。

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昭和50年代に大阪市に生まれた男が描く、 すぐに読めるライトエッセイ(軽い読み物)を お楽しみいただけると幸いです。 平成時代の穏やかな…

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