西川龍馬-2

西川龍馬は真のコアプレイヤーとなれるのか?

2019年シーズンにおいて、広島の野手陣で最も飛躍を遂げた選手を挙げるとすると、西川龍馬の名前がいの一番に上がってくるのではないでしょうか?

プロ入りして以降の3年間、IF(内野手)として確実なレギュラーの座を掴み切ることが出来ていませんでしたが、守備への不安や丸佳浩の移籍によってOF(外野手)の層が薄くなったことにより、2019年はOFへと本格的に挑戦することとなりました。

このOFへのコンバートによって、打撃に意識をより注力することが出来たためか、それまでは眠っていた長打力が一気に開花し、自己最多を10本も更新する16本塁打を記録。また、8月にはチームの月間最多安打記録である42本に並ぶ活躍で、月間MVPに輝くなど打撃面で非常に進境著しい結果を残しました。

ポジションもセンターラインの一角となるCF(中堅手)を任されるということで、前任の丸のように、チームのコアとしての働きが今後は期待されていきますが、西川は丸のようなチームの真のコアとして、優勝へと導けるような存在と成り得るのかについて考察していこうと思います。

1.真のコアとは?

真のコアと成り得るかについて考察していく前に、そもそも真のコアとは何ぞやということを明確にしなければ考察しようもないため、ひとまず真のコアについて定義を行いたいと思います。

私の中で真のコアプレイヤーとは、「センターラインのポジションをこなし、走攻守において高次元の活躍でチームを優勝に導けるような存在」にあたる存在だと思っています。ですので、ひとまず直近数年の優勝チームから西川と同じCFを抜き出してみると、下記のようになります。

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主だったところを見ると、西川の前任のCFである丸佳浩、柳田悠岐、秋山翔吾と優勝チームには強力なCFがいたことが分かりますが、彼らの成績をベンチマークとして、果たして西川にこの3者のような成績を収めるポテンシャルがあるのかを考察していこうと思います。

2.打撃面

まずは「天才」とも評される、西川の最もセールスポイントとなるであろう打撃面について、コアレベルのものまで高められるのかを検証していきます。

現状

まず、現状の西川の打撃レベルはどの程度のものであるのかについて、確認していきます。

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2017年から3年間分の打撃成績を辿ったものを見ると、真のコアプレイヤーである3者と比較して、昨年レベルの成績でも打撃三部門やOPSといった指標では見劣りしてしまうことが分かります。ですので、元々の強みである.300近くの打率を残すことのできるミート力を維持しつつ、昨年大きく伸びた長打力をもう1ランクレベルアップさせる必要がありそうです。

また、上記表の下段の指標を見てみると、西川の打者としての特徴として見えてくるのは、GB/FB(打球に占めるゴロ打球とフライ打球の割合)から分かるゴロが多めの打球性質やContact%(投球に対するコンタクト率)やSwStr%(投球に対する空振り率)から分かるコンタクト力の高さです。

ただ、ゴロが多めとは言いながらも2019年はフライの割合を大きく増やす変化が生じています。そのために本塁打が大きく増加したのでしょう。フライの割合が大きく増加したのはシーズン途中から*のため、開幕からこの傾向を維持できれば更なる本塁打増も見込めるでしょう。

※詳細は下記記事を参照願います。

コンタクト力の高さは多くの方が抱く印象通りでしょうが、コンタクト力の高さと自身の中のストライクゾーンが広いがゆえに、ボール球を打ちに行きすぎる傾向があります。ただそれが、ワンバウンドのフォークを安打にするような打撃に結びついているため、一長一短です。

真のコアたちの特徴

続いて、真のコアと上記にて称した3名の選手について、西川の現状の打撃と比較するために彼らの打撃の特徴についてまとめていきます。

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3選手に共通する打撃の特徴を上記表にまとめてみました。見方としては、2019年の各リーグ平均をベンチマークとして、それより高ければセルは赤く、低ければセルは名前の部分の色となっています。ここから特徴としては、下記の3点が挙げられるでしょう。

①ファストボールに強い

wFA(ストレートに対する得点貢献)の数値を見ると明らかですが、3選手はどのシーズンにおいても二桁の数値を記録しており、ファストボールへの対応力の高さを窺わせます。得点力とも相関性の高いこの指標において、優秀な数値を収めることがチームの得点力向上に直接効いてくるため、優勝チームに優秀な数値を収めた選手がいることは決して偶然ではないのでしょう。

②40%付近のHard%

放った打球の強さを示すHard%については、3選手ともに常にリーグ平均レベルは常に上回り、両リーグでもトップ10クラスにあたる40%を記録することも珍しくありません。強い打球を放つことは、打撃成績に結びつきやすいことを考えると、ある意味当然の結果ではありますが。

③広角打法 どの打球方向でも打率は高い

Pullにて引っ張り時の、Centにてセンター返し時の、Oppoにて流し時の打率・OPS・Hard%をそれぞれ比較してみると、3選手どの方向においても高い打撃成績を収めていることが分かります。特にセンターから逆方向へは常に平均以上の成績は収めており、フィールドを広く活用出来ていることがハイレベルな打撃成績をもたらしているのでしょう。

真のコアへ向けた課題

では西川の現状の打撃と、真のコアたちの打撃の特徴を比べて、現時点で西川には何が足りないのでしょうか?

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真のコアプレイヤーに共通する打撃の特徴を西川に当てはめてみると、下記のような結果となります。

①ファストボールに強い→×

2018年こそ二桁の10.1を記録しましたが、2019年0.0とむしろ大きく後退する結果となっています。本塁打の動画集を見ると、後半戦の1番に座って以降はファストボールを捉えるケースも多く見られますが、全体的にはまだまだなのでしょう。ただ、前半戦ではマイナスを記録していたwFAを最終的に0.0まで戻した形なので、2020年は更なる上積みが期待できそうです。

②40%付近のHard%→×

打球の強さを示すHard%も、.300付近の打率を記録した過去2年においても平均レベルに止まっています。西川の打撃自体が常に芯を食った速い打球を放つよりも、詰まったりしながら野手のいないゾーンへ打球を飛ばしていくようなイメージですが、更なるレベルアップのためには芯を食った打球をもっと増やす必要がありそうです。

③広角打法 どの打球方向でも打率は高い→×

3選手は基本的にどの打球方向においても、高い打撃成績を収めていましたが、西川はいずれのシーズンも全方向で平均以上の打撃成績を収められていません。特に引っ張り時の成績は過去3年いずれも平均レベル以下のため、もっと引っ張った力強い打球を放つ意識が必要なのかもしれません。

このように、現状の西川はいずれも真のコアクラスの水準に至っていないことが確認できましたが、上記3項目に加えて3選手の打撃アプローチ面についても、西川と比べてどのような特徴があるのか確認していきます。

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3選手の打撃アプローチは三者三様で、コンタクト率は低いながらもストライクボール構わず積極的にスイングを仕掛けていく柳田、コンタクト率は平均クラスながらゾーンを絞ってスイングを仕掛けていく丸、コンタクト力が高くしっかりボールを見極めてミートを心がけていく秋山といった具合です。

この3選手と比べると、現状の西川はコンタクト率が高く慎重にスイングを仕掛けていくという点で見ると、秋山に近い形です。ただ唯一異なるポイントがO-Swing%(ボールゾーンの投球へのスイング率)です。秋山はストライクゾーンのボールだけでなく、ボール球もしっかり見極めてスイングしてますが、西川はボール球については積極的にスイングを仕掛けています

見逃せばボールになるような厳しいボールも、バットを合わせて安打にする打撃は、「変態打撃」として西川の代名詞となりつつありますが、真のコアに準ずる打撃力を身に付けるには、秋山のようにボールゾーンも見逃すようなアプローチも必要なのかもしれません。ただ自身の中のストライクゾーンを絞ることが、打撃に悪影響を及ぼす可能性もあるため、簡単にはいかないでしょうが。

3.走塁面

現状

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走塁面の現状を確認すると、盗塁数では過去3年毎年一桁と足を武器としている様子は見られません。盗塁以外の走塁面を評価する指標であるUBRも、2018年は2.2を記録しましたが2019年はマイナスに転落。wSBもマイナスを記録していることから盗塁技術自体も高いものではなく、現時点では武器となるツールとはなっていません

ただ、年始に放送された「プロ野球No.1決定戦!バトルスタジアム」では、ダイヤモンドを模したコースを周回しフラグを先に掴んだ方が勝利するという、ダイヤモンドダッシュとの競技で2019年のセリーグ盗塁王である近本光司に競り勝つなど、決してスピードが無いわけではないため、それを生かす術を身につけたいところです。

真のコアたちの特徴

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西川の走塁成績と同様の成績を、3選手分まとめたものを確認すると、その特徴としては、下記2点が挙げられるでしょう。

①二桁盗塁を記録できるスピード

盗塁は3選手どのシーズンにおいても二桁盗塁を記録しており、やはりセンターラインを守る外野の要として、一定以上のスピードは必要となってくるのでしょう。ただwSBはマイナスの数値を記録していることも多く、盗塁の巧拙はコアプレイヤーとして重要な要素とは成り得ないのかもしれません。

②UBRから見える高い走塁能力

走塁面の貢献度を数値化したUBRにおいては、足の故障のあった2018年以降の丸を除いていずれもプラスの数値を記録しています。チームの上位打線を任される存在として、チャンスを拡大するための高い走塁技術は、得点力の向上ひいてはチームの優勝に必要な要素と成り得るのでしょう。

真のコアに向けた課題

真のコアに向けて、上記特徴を当てはめると、下記のような結果となります。

①二桁盗塁を記録できるスピード→×

現状は3年連続で一桁盗塁と、二桁盗塁を記録するに至っていません。ただ、前述の通りスピード能力が欠けているわけではなさそうなため、その気になれば達成可能な数値でしょう。まずは積極的な仕掛けを行う必要があるでしょうし、その中で盗塁技術を磨き上げてほしいところです。

②UBRから見える高い走塁能力→×

UBRは2019年にマイナスに転じていることから、高い走塁能力を持っているとは言い難いところです。ただ、2018年には2.2を記録していることから、こちらも根本的にどうしようもないわけではないと考えられるため、実戦の中で高い走塁意識を養っていくしかないのでしょう。

4.守備面

現状

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守備面では元々IFでしたが、スローイング面に不安を抱えていたために2019年から本格的にOFに挑戦することとなったのは前述の通りです。今回はセンターラインのコア野手という点をテーマにしているため、CFを守った時のみの守備成績を抜き出しています。

LFのUZRは4.0とプラスの数値を叩き出していますが、CFとなると話は変わり、-6.6と500イニング以上守った12球団のCF11人の中でも9位と相対的にも非常に低い数値となっています。救いは転向1年目ということでしょうか。もし2020年も数値が上向かないようなら、CF守備は今後も低空飛行のままかもしれません。

真のコアたちの特徴

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こちらも西川の守備成績と同様にして、UZR系の指標を並べましたが、ここから共通の特徴として、特に挙げられるものはありません。柳田は毎年大幅なマイナスを計上していますが、圧倒的な打撃力と走塁力で埋め合わせていますし、それより打撃力や走塁力の劣る丸は守備面で利得を稼いでいます。

打撃や走塁で利得を稼げないのであれば、その分守備面で挽回する必要があるということでしょう。

真のコアに向けた課題

西川が今後柳田クラスの打撃成績を収めるようであれば、守備成績は2019年レベルでも問題ないのでしょうが、その可能性はあまり高くないでしょう。

ですので、二桁レベルのプラスの数値を記録する丸レベルとまではいかずとも、フラットレベルの秋山の数値くらいまでは少なくとも良化させたいところです。そのためには、大きくマイナスとなっているRngRの改善、すなわち打球に対する落下点までのルート取りの改善等は必須となるでしょう。

5.まとめ

・真のコアプレイヤーの打撃面における共通項
①ファストボールに強い→× 後半戦の対応力アップで2020年への期待大

②40%付近のHard%→× 芯を食った打球を増やしたい
③広角打法 どの打球方向でも打率は高い→× まずは強く引っ張る必要有
・真のコアプレイヤーの走塁面における共通項
①二桁盗塁を記録できるスピード→× 持ち前のスピードを生かす姿勢が欲しい
②UBRから見える高い走塁能力→× 実戦の中で感覚を磨いていきたい
・真のコアプレイヤーの守備面における共通項
特にないが、西川の打撃ポテンシャルを考えるとフラットレベルまで良化させることは必須

現状ではどの項目も真のコアレベルまでは至っておらず、CFとして真のコアプレイヤーとなるためのハードルは非常に高いものとなっています。特に打撃面では、これまでの自身の打撃を変革する必要がありますし、加えて更なるレベルアップも必要なため、何かを壊すような覚悟を持って取り組む必要があるでしょう。

そこまでやる必要があるかとも思われますが、2020年以降再び優勝戦線に返り咲くには、強固なセンターラインの構築は必須ですし、西川はその1ピースにならなくてはならない存在です。

そんな中ひとまず西川がロールモデルとすべきは、秋山でしょう。打撃アプローチも似た傾向を持っており、徐々に長打を増やしてきた成長曲線も参考になるはずです。またバットを寝かせるような打撃フォームも似ていますから、メカニクス的なヒントも得やすいのではないでしょうか。仮に西川が秋山のような活躍を見せることが出来れば、広島の王座奪回も視野に入ってくることでしょう。

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