見出し画像

新外国人3選手は広島にフィットするのか?~ピレラ編~

前回はリリーフ投手として期待のかかるDJ・ジョンソンについて分析していきましたが、今回はOF(外野手)をメインとしながらも2B(二塁手)をこなすこともできるUTプレイヤーであるJ・ピレラについて、選手としての特徴を探りながら、広島の現状のチームのみならず日本球界にフィットすることができるのかについて、確認していきたいと思います。

J・ピレラ R/R 183cm/95㎏ 30歳

ピレラ

身長は大きくなく、ずんぐりとした体型ながらも、内外野を守れる器用さがウリの選手です。こちらも簡単に経歴を紹介すると、2006年7月にアマチュアFAのところをヤンキース(NYY)と契約しプロ入りを果たします。その後NYY傘下のマイナーチームで着実に経験を積み、2014年にNYYでMLBデビューを果たすこととなりました。翌年には2Bのレギュラーも期待されましたが、掴むに至れずそのオフにトレードでパドレス(SD)へ移籍。そこで力を発揮することとなり、2017年には83試合に出場し、OPS.837と一定の成績を残し、翌2018年には2B/LFのレギュラー格として146試合に出場するなど順調に階段を上っていきました。しかし、2018年の打撃不振が尾を引き、2019年にはSDをDFAとなってフィリーズ(PHI)へ移籍したものの結果は残せず。そこで目を付けた広島に今オフ移籍してくることとなりました。

1.直近3年打撃成績

ここからはピレラの打撃・守備・走塁について、それぞれ分析していきますが、DJ・ジョンソンの時とは違い過去3年分のデータを基に分析を行っていきます。理由としては、単純に2019年のMLBでのプレー量が少ないのと、好成績であった2017年と一転落ち込みを見せた2018年の成績を対比的に捉えるためという名目もあります。

・基本成績

画像3

まず基本的な基本的な打撃成績から、ピレラの打撃の特色に迫っていこうと思います。過去3年分(AAA含)の打撃成績を見ると、率と長打を両立できる中距離打者という印象を受けます。2017年は10本塁打でOPS.837と中距離打者としてブレイクを果たしたものの、翌2018年はOPSは.200近く落ちるなど不振に陥りました。その後、2019年は大半をAAAで過ごすこととなりましたが、そこでの打撃成績は88試合で22本塁打、ISOは.269となっており、何かきっかけを掴んだのか長打力のある打者に変貌を遂げつつあります。ただ超打高リーグの成績という点は差し引いて考える必要はあるでしょうが。

もう少し細かな指標を覗いてみると、K%(平均21.7)とBB%(平均8.3)は平均より多少低いくらいで大きな特徴はないですが、P/PAを見るとおおよその基準となる3.84よりは小さな数値で、多少早打ちの傾向があることが分かります。全体的なアプローチとしては大きな特徴はありませんが、少し早打ちの傾向にあるということでしょう。

また、打球速度(Exit Velocity)、打球角度(Launch Angle)、Barrel%を見ると、打球角度の平均11.2に対して出場機会の多かった2017年や2018年はそれを大きく下回る打球角度となっており、打球に角度が付かないタイプの打者であることが分かります。そのためBarrel%も低くなっており、打球速度(平均87.5)やHardHit%(平均34.5)が平均以上の割には、打率や本塁打が伸びない大きな要因となっています。ただ、2019年は母数は少ないながら打球に角度が付くようになっており、AAAでも22本塁打を放っていることから、打球に角度を付ける意識を持ち始めたことが窺えます。この傾向が続くようなら、日本でも思いの外本塁打を量産するかもしれません。

・左右投手別成績

画像2

続いて左右投手別の成績ですが、こちらは明確に左投手に強さを見せていることが分かります。いずれのシーズンも左投手に対する成績が、右投手に対する成績を上回っており、左投手の入ってくるボールに強いのかもしれません。

ただ右投手に対する成績は年々低下の一途を辿っており、K%やBB%で示されるアプローチも、三振が増え四球が減るという悪循環となっています。このアプローチを見ると、日本人右投手が多く投げ込む外へのスライダーを見極められない可能性もあり、そこをしっかり捨てられるか、捨てきれず追いかけてしまうかで、日本球界での成否が分かれてしまうかもしれません。

・球種別成績

画像4

Fastball/Breaking/Offspeedの3種類に分けた成績ですが、2017年は打率.306でXWOBAは.378としっかり捉えられていたFastballを2018年は捉えきれていないことが分かります。その他の2種類の成績も低下していますが、60%以上投じられ投球の根幹となるFastballを捉えられなかったことが、打撃成績を落とした要因なのでしょう。

画像13

Fastballへの対応の詳細を確認すべく、NPBで多く見られる球速帯である140㎞~150㎞の間のFastballへの対応はどうなのかという点を確認してみると、上記の傾向と大きく変わらない結果となりました。ですので、NPBの球速帯に特別強いというわけでもないことがここから分かります。

また、打撃成績ではFastballの成績が最も良いものとなっていますが、動画を見ると、変化球を捕まえている場面が多く見られた印象なので、ファストボールヒッターというよりはブレーキングボールヒッターに分類されるのかもしれません。

画像5

もう少し詳細に球種別の成績を追っていくために、球種別のPitch Valueを用いて分析していきます。一貫した傾向は見られませんが、多く打席に立った2017年や2018年はカーブやチェンジアップに対してプラスの数値を示しているため、やはりどちらかと言うとブレーキングボールヒッターと評してもよいと思います。ただ打撃好調の2017年はwFB5.5を記録しているため、NPBに順応出来ればファストボールヒッターに化ける可能性もあるかもしれません。

・打球傾向/打席内アプローチ

画像6

最後に打球傾向や打席内アプローチを確認していきます。打球に角度が付かないことから、やはりGB%が高くグラウンドボールヒッターの傾向が出ています。ただ2019年はMLBでもAAAでもGB%がFB%を下回っており、フライレボリューションを意図したような傾向が見て取れます。その分やはりAAAで本塁打も増えていたのでしょう。

打球傾向としては、2018年を除いてPull%が40%以上を記録するなどプルヒッターの傾向を示しています。好成績を残した2017年と2019年(AAA)で引っ張った打球の割合が高く出ており、しっかり投球を引っ張れるかどうかが成績を残すカギとなると思われます。

打席内アプローチは、スイングを仕掛ける割合は平均的で、2018年にはSwStr%(空振り率)やContact%がリーグ平均以上とコンタクト力の高さを見せましたが、2019年にはいずれも大きく落ち込んでいます。おそらくFB%を意図的に高めてバレルゾーンを狙った結果なのでしょうが、MLB平均からは大きく低い結果となっており、もう少しコンタクトを意識した方向でも良いのかもしれません。

画像9

コース別打率とXWOBAも確認しておくと、2017年(左図)は9分割ゾーンの内、真ん中高めとインコース真ん中以外は打率.300以上を記録しており、どのコースも満遍なく捉えていることが分かります。ただ2018年(右図)は4隅の打率が大きく落ち、特にインローは.300以上も打率が落ちてしまっています。ただ甘く来たボールはしっかり捉えているため、甘く来るまで我慢出来るかがカギとなるでしょうか。

画像10

XWOBAでは、2017年(右図)は外のボールに強さを見せていますが、一転2018年(右図)は外のボールへの対応が弱くなっていることが分かります。新外国人選手に対して、どのチームもまずは外のボールで攻めてくるでしょうから、外のボールへの対応力の低下は少々心配ではあります。2019年はシーズンの大半をAAAで過ごしたため、どのような傾向となっていたのかは不明ですが、この傾向が継続しているようなら、適応に時間はかかるように思います。

まとめ

・アプローチは平均的なプルヒッターの中距離打者だが、直近では打球に角度を付ける意識を持ったためか長距離打者のような仕様に
・左投手には強いが右投手に弱く、外のボールへの対応も弱くなっていることから、右投手の外への投球への対応が課題
・特別ファストボールへの強さは見られず、ブレーキングボールヒッターの様子が強い

2.直近3年守備成績

画像7

守備についても同様に過去3年分の成績から確認していきますが、上記表を見ると分かる通り、様々なポジションを守ることができるUTプレイヤーです。ただ直近ではOFに専念している様子なため、菊池涼介が抜ける可能性のある2Bでの起用には慎重にならなければなりません。

以下では各守備位置ごとに、上記表の数値を基に分析していきます。最も多く守っているのはLFになりますが、過去3年の守備指標を見るとARM指標が弱いことから肩はウリとなるツールではないことが分かります。ただ守備範囲は広く、そこで数値を稼いでUZRはまずまずの数値を記録しています。直近で多く守っているRFについては、鈴木誠也の存在があるため多くの出番はないでしょうが、肩の弱さで多くの進塁を許している様子なので、あまり積極的に起用すべきではないでしょう。

2019年は起用が激減した2Bは、メインで起用された2018年にどの指標でもマイナスを示しており、あまり適性が高くないことが分かります。動画を見ても動きが緩慢なように見えるため、菊池の守備に見慣れた広島ファンからは、文句が出るのは間違いないと思われます。その他1B3Bを守った経験もありますが、そもそも出場機会が多くないため、その守備力は未知数です。2Bや3Bを無難にこなすことが出来れば、広島の弱点を埋める貴重なピースとなるのでしょうが…。

ピレラ守備StatCast

トラッキングデータから守備を見てみると、外野守備のみになりますが、落下点へのルート取りは上手くありませんが、反応の速さやスピードでそれを補っていることが分かります。ですので、脚力に衰えが出始めるここからのキャリアにおいて、守備力が足枷となってしまうことが何となく窺えましょう。

まとめ

・直近3年で、1B/2B/3B/LF/CF/RFの6ポジションを守ったUTプレイヤーだが、最も得意なのはLF
・2B守備は動きが緩慢であまり得意とはいえず、守備面で大きくマイナスを計上してしまう恐れあり
・打球への反応の速さやスピードがウリなものの、肩が弱くルート取りも上手くないため、スピード以外の面はあまりウリとならない

3.直近3年走塁成績

画像8

最後に走塁面について確認していきますが、盗塁は過去3年を見てもいずれも一桁の数値で、wSBもマイナスとなっているため、盗塁技術は然程高くないことが分かります。盗塁以外の走塁貢献を示すUBRも、2018年には大幅なマイナスとなっており、高レベルの走塁力を求める広島の野球にはあまり適合しないかもしれません。

ピレラ走塁StatCast

走塁についてもトラッキングデータを用いてみると、スプリントスピードはMLBデビュー時には非常に高いものがあったものの、2017年を頂点に右肩下がりとなっており、スピードという面はあまり期待できないかもしれません。

まとめ

・かつてはスピードがウリとなっていたものの、現在はウリとなるほどではなく、盗塁/走塁ともに上手とは言えないため、高い走塁能力が求められる広島の野球に適合するかは疑問符

4.広島にフィットするのか?

フィットする可能性中(50%)

打撃・守備・走塁という3項目から、ピレラの選手としての特徴を追っていきましたが、総合的に見て広島や日本球界にフィットする可能性は半々くらいではないかと感じます。そのように感じる要因については、下記3点となります。

①チーム待望の長距離砲と成り得る可能性を持つ

2018年までは打球に角度の付かない中距離打者でしたが、2019年にはその姿を変貌させ、打球に角度の付く長距離打者のような仕様になっていることが分かります。

そのためか、首脳陣の期待としても長距離砲としての期待もあるようで、上記記事中には朝山一軍打撃コーチからの「パワーヒッター。メインは外野かな。シンプルに強く振れる」というコメントが記載されており、その期待が窺えます。

2019年のチームは長距離砲であるバティスタの打撃成績の浮沈がチームの成績の浮沈も握っており、そのバティスタの来季以降の契約もどうなるか分からない中で、首脳陣の期待通りピレラがバティスタに代わる長距離砲の役割を果たすことができれば、チームにとっては大きくプラスに働くでしょう。本来ならもう一枚完全な長距離砲タイプの補強は必要なのでしょうが‥。

②日本球界に対応するうえでマイナス要素の多さ

ただ打撃面ではフィット出来るかどうかにあたって、不安要素も抱えています。1点目は、今季の打撃改造に伴い、投球に対してのコンタクト率は母数が少ないとはいえ大幅に悪化にしている点です。いくら長距離打者仕様とはいえ、コンタクト率や空振り大幅な悪化はハードヒットを妨げる要素にも成り得ますし、コンタクトとハードヒットのバランスを上手く取れるかがカギとなりそうです。

2点目としては、外のボールへの対応力の低さです。上述の通り、外国人打者に対し各チームが考えることは、まず外のボールで様子を見ようとなるでしょうから、そこに耐え切れず凡打を連発すると打撃を崩してしまう恐れがあります。ですので、そこをどれだけ耐えられるかが重要となるでしょう。

加えて、ブレーキングボールヒッターである点も、広島の弱点の穴埋めにフィットしていません。2019年に前年まで大きく優位性を保っていた得点力を失いましたが、その一因としてストレートをしっかり捉えられなかったという点がありました。ですので、ファストボールヒッターを1枚打線に加えたかったところですが、打撃傾向を見るとブレーキングボールヒッターのようで、日本球界の平均的な球速帯のファストボールへの対応もイマイチです。その点の解決は、田中広輔や松山竜平といった日本人打者の復調に任されたと言って良いでしょう。

③守備位置をどこで起用するのか

UTプレイヤーのピレラですが、守備位置をどこで起用するか非常に悩ましいところです。チーム事情的には穴となっている3Bで起用したいところですが、直近3年で1試合しか守っておらず、本職であるLFやRFには絶対的レギュラーや多くのレギュラー候補が控えているような状態です。

菊池がMLBへ移籍することとなると、2Bでの起用も視野に入ってくるでしょうが、守備レベルは決して高いとは言えないため、積極的な起用は憚られます。

個人的には3Bでまずは試してみて、動きが良さそうで打撃にも悪影響がなさそうであれば、3Bで起用してもらいたいと思います。それが叶わないようならば、スタメンの組み方に合わせて1B/2B/LFそれぞれのポジションで起用してもらいたいと思います。元々UTプレイヤーで売っているため、2BやLFといった慣れたポジションで動かされることには慣れているでしょうし、そうすることで、チームの野手起用の選択肢の幅が広がると考えられます。

以上のように、適応に向けて様々な課題はあるものの、直近でのMLBでの実績は十分であり、早めの獲得に動いたあたりから、球団内での期待値は非常に高いと思います。

2019年は鈴木誠也が孤立無援となるケースも多かったため、このピレラがどれだけ鈴木をサポートできるかで、チームの得点力も変わってくるでしょうし、過去にあまり例のなかった強打のUTプレイヤーですので、そのような選手として存在感を出せるかは、今後の外国人獲得の方針にも大きく影響を与えるでしょう。

データ参照 Baseball Savant(https://baseballsavant.mlb.com/)
      FanGraphs(https://www.fangraphs.com)

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #外国人 #ピレラ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?