森唯斗

各球団のクローザー管理~2019年版~

長いシーズンを戦っていく上で、リリーフ運用は非常に重要な要素となってくることは、よく知られていることと思います。勝ち試合で信用のおける投手ばかりを起用するような、偏ったリリーフ運用を行っていると、疲労が溜まってきてパフォーマンスは低下し、大事なシーズン終盤に勝ち試合を拾えなくなるでしょうし、逆に信用のおけない投手を積極起用するのも、目先の勝ち試合を落とす確率が高まるため、そのバランス感覚は非常に難しいところです。

そんなリリーフ運用の中でも、試合の最後を締めるクローザーと呼ばれる投手の運用は、セーブシチュエーションや同点の9回以降と登板する場面が限定されてくるため、起用するポイントが一定にならないセットアッパーの運用よりは幾分かやりやすいのではないかと感じます。

ということから、逆にクローザーの登板管理をしっかりできていない球団は、稚拙なリリーフ運用となっている可能性が高いとも言えるのではないでしょうか?

実は2018年版についても、以前のnoteにてまとめているのですが、2019年版はよりパワーアップさせた形で、各球団のクローザー管理についてまとめていこうと思います。

1.2018年振り返り

2019年の各球団のクローザー管理を振り返る前に、まずは2018年の各球団のクローザー管理について振り返っていきましょう。

クローザー管理の指数として採用したのが、クローザーとしての登板の内、セーブシチュエーションやホールドシチュエーションを除いた場面での登板数を計測し、そこから割合を算出したものです。その割合が低いほど重要な場面に絞った登板が出来ているということで、クローザーの登板を管理が出来ていると言えるでしょうし、逆に割合が高いとそこまで重要ではない場面で登板しているケースが多いということで、クローザーの登板を管理出来ていないということになるでしょう。

上記のような前提の認識を持っていただいたところで、振り返りに入りたいと思います。

セリーグ

1.阪神 15.5%
2.横浜 15.8%
3.ヤクルト 27.1%
4.巨人 27.8%
5.広島 29.4%
6.中日 34.4%

上記結果から、セリーグは阪神・横浜のきっちり管理のできていたグループとそれ以外の管理のできていなかった4球団のグループという、2グループに大別できそうです。

この結果を見ると阪神と横浜については、投手運用が優れていたと言えそうですが、それだけでなく勝ち試合で起用できるようなリリーフ投手の枚数の多さによって、4点差や5点差という微妙な点差でもクローザーを起用しなくてもよいという要素も考えられます。実際阪神は守護神ドリスに加えて、藤川球児・桑原謙太郎・能見篤史、横浜は山崎康晃に加えて、パットン・三嶋一輝・エスコバー・三上朋也・砂田毅樹と二桁ホールドを挙げた投手がおり、勝ち試合で起用できる投手が多くいました。ですので、きっちりクローザーを管理していくには投手運用のみならず、信頼のおけるリリーフの枚数を増やしていくことが重要と言えましょう。

パリーグ

1.日本ハム 13.3%
2.オリックス 14.3%
3.ソフトバンク 17.9%
4.ロッテ 21.3%
5.楽天 22.6%
6.西武 23.2% 

一方パリーグは、セリーグと比較すると%が低い数値を記録しており、レベルの高いクローザー管理が行われていることが窺えます。

山田修義の月間最多登板記録の樹立や、前年72試合登板を果たした岩嵜翔の故障離脱や加治屋蓮の72試合登板に代表されるように、酷使によってネット上では叩かれることの多かったオリックスやソフトバンクのリリーフ運用ですが、ことクローザー運用については優秀な数値を叩き出しています。この辺りもセリーグで優秀な数値を叩き出した阪神や横浜と同様に、勝ち試合で起用できるような信頼のおけるリリーフ投手が多くいたためと言えましょう。

ということから、勝ち試合で起用できるようなリリーフ投手を増やすことが、クローザーの負担軽減には重要であり、その先として運用によって負担を減らしていくというフェーズがあるのではと結論付けたのが、前稿となります。

このような前提の上で、本当に枚数を増やせば運用が改善されるのかという点に着目しながら、2019年のクローザー運用を確認していきたいと思います。

2.2019年セリーグ

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1.阪神 16.4%(前年比+0.9%)
2.広島 24.6%(前年比-4.8%)
2.中日 24.6%(前年比-9.8%)
4.巨人 25.4%(前年比-2.4%)
5.横浜 27.9%(前年比+12.1%)
6.ヤクルト 28.8%(前年比+1.7%)

まずはセリーグから確認していきますが、前年は阪神と横浜の管理できているグループとその他4球団の管理できていないグループという括りでしたが、2019年は管理できている阪神と管理できていないその他5球団という括りへと変化していることが分かります。

2−1.横浜の数値悪化

2019年は横浜が前年比+12.1%となっており、管理できているグループからできていないグループへ転落したのが大きなポイントでしょうが、なぜここまで数値が悪化してしまったのでしょうか?

ポイントとしては大きく2点。前年と比べ枚数の少なくなった信頼の置けるリリーフと、調整登板の多さでしょう。

信頼のおけるリリーフの枚数減については、前年二桁ホールドを挙げた三上と砂田が故障と不調に苦しみ、パットンも22ホールド挙げながら防御率5.15とイマイチ信用しきれなかった点が大きいと考えられます。石田健大や国吉佑樹の存在はあったものの、石田は先発とリリーフを行ったり来たりの起用で国吉も今一つ安定感に欠けるきらいがあり、どうしても三嶋・エスコバー・山崎の3名への比重が前年より重くなってしまいました。実際この3名の合計登板数が前年比+36試合の206試合となっていることが、それを如実に物語っています。やはり信頼のおけるリリーフの枚数が増えなければ、クローザーへの負担は増えるということなのでしょう。

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調整登板の多さについては、前年一度もなかったビハインド時の登板が2試合あり、6点差以上での登板も前年の1試合から5試合と大幅に増加しています。ビハインド時の登板から振り返ると、いずれも連敗中で登板間隔が一週間空いたためということなので、チーム状況の影響が大きそうです。6点差以上の登板を振り返ると、開幕戦や逆転サヨナラを許した次登板といったしっかり意図を持った起用となっているため、特段問題はないように思います。

ただ登板間隔について確認してみると、中6日以上空いて登板したケースは、2018年2019年ともに7度と変化はないため、この辺りは投手コーチが三浦大輔になったことで、方針に少し変化が生まれた可能性があります。また登板間隔の平均は2.4日(2018年)→1.9日(2019年)と2019年の方が低いため、登板が過密になる時とそうでない時との差が激しかったと言えましょう。さすがに調整登板を0にすることは難しいでしょうし、接戦の数をあえてコントロールするなんてのは不可能でしょうから、調整登板増についてはある程度仕方ないと言えるのではないでしょうか。

2-2.中日の数値良化

横浜では上記のように、リリーフの枚数の問題・投手コーチの入れ替わり・チーム状況によって数値が悪化してしまいましたが、逆に中日は前年比-9.8%と大きな改善に成功しています。その要因についても考えてみると、信頼の置けるリリーフの枚数増と首脳陣の交代による運用の変化が大きいのではないでしょうか。

前年は二桁ホールドを挙げた投手が、祖父江大輔・鈴木博志・佐藤優・岩瀬仁紀の4名いたものの、最多ホールドが祖父江の17ホールドと、これといった投手を作り切れなかったために、クローザーの負担を軽減することが出来ませんでした。加えてクローザーが実に3度も変わるなど、固定できなかった点もマイナスに働き、接戦(3点差以内)での勝率はリーグワースト2位の.447と脆さも覗かせています。

そんな状況でしたが2019年は様子が一変し、ロドリゲス・Rマルティネスといった外国人リリーバー、福敬登・藤嶋健人の新戦力の台頭によって信頼の置けるリリーフの枚数が大きく増えることとなりました。これにより、2019年も2度クローザーが交代しましたが、負担は抑えられた状態で運用をすることが可能となったのです。特に開幕当初クローザーを務めていた鈴木博は、14.3%と非常に低い数値に抑えられており、接戦が多かったこともありますが理想的な運用が出来ていました。しかし接戦を勝ちきれないことも多く、接戦時の勝率は.447と前年と変わらない数値に終わっています。この辺りは来季に向けた課題となってくるでしょう。

このような変化は、森繁和政権から与田剛政権への移行による側面も大きいのではないかと考えられます。2019年から中日の指揮官は与田となったのは周知の通りですが、コーチ陣も大きく変わり、投手コーチも近藤真一・朝倉健太体制から阿波野秀幸・赤堀元之体制に変化しました。これによって、リリーフマネジメントに対する考えが大きく変わったのだと推測されます。

実際、中日のことはこの人に聞いておけば間違いないロバートさんの上記noteを参照させていただくと、リリーフ運用については「若手投手の抜擢」や「3連投をシーズン終盤まで避ける」というマネジメントがなされていたようで、やはり前年とは異なるマネジメントが行われていたことでクローザー管理も前年から大きく向上したのでしょう。

2-3.広島は?

わが広島も最後に確認しておくと、2019年は中崎翔太がクローザーから降格し、フランスアが新クローザーの座に就くという変化はありましたが、前年比-4.8%ですからクローザー管理は向上したと考えられます。

ただ過去に上記noteにて検証した通り、根本的な運用には変化は見られず、2019年は前年と比べ中村恭平や菊池保則のリリーフとしての戦力化があったために、数値としては良化しているのではないかと考えられます。あとはそもそも前年より同様のシチュエーションが少なかったという事情もあるのでしょう。実際、2018年は17度あった9回の守備を迎える際に4〜5点リードのシチュエーションが、2019年は13度と減少しており、その減少分が数値の低下に影響を及ぼしたことは間違いないと思われます。毎年上記のようなシチュエーションを作り出すことをコントロールすることは基本的に出来ないでしょうから、5%くらいの数値の動きなら誤差の範囲内と考えても良いのかもしれません。

3.2019年パリーグ

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1.ソフトバンク 7.6%(前年比-10.3%)
2.楽天 11.8%(前年比-10.8%)
3.オリックス 11.9%(前年比-2.4%)
4.ロッテ 15.0%(前年比-6.3%)
5.日本ハム 27.0%(前年比+13.7%)
6.西武 27.7%(前年比+4.5%) 

続いてパリーグを振り返っていきますが、前年と同様にセリーグと比較すると低い数値が並んでおり、パリーグの中ではセリーグ1位の阪神がようやく5位に入るようなレベルの高さです。もしかするとこの辺りも、セリーグとパリーグのレベルの差を生んでいる一つの要因なのかもしれません。

3-1.ソフトバンク・楽天の数値大幅良化

そのパリーグの中でも、前年比で数値を大幅良化させたのが、ソフトバンクと楽天です。特にソフトバンクはこの2年を通じては初の一桁のパーセンテージを記録する、圧巻のクローザー管理を見せつけました。

なぜここまでのクローザー管理が出来るのかについて要因を追っていくと、やはり信頼の置けるリリーフの枚数が増えたことが非常に大きいのではと感じます。

前年は二桁ホールドを挙げた投手が加治屋・嘉弥真新也・モイネロの3投手のみでしたが、2019年はモイネロ・甲斐野央・嘉弥真・高橋純平の4投手が二桁ホールドを挙げることとなりました。この4名に加えて、武田翔太も9ホールドをマークし、椎野新や松田遼馬も戦力となるなど、間違いなくリリーフ陣の層は厚くなっています。これによって、クローザーの負担を分散することが可能となったのでしょう。実際、モイネロ・嘉弥真・武田がセーブを記録するなど、負担を分散出来ていたという点は数値からも窺い知れます。

加えてソフトバンクが他球団とは一味違うのは、上記以外の加治屋・奥村政稔・泉圭輔といった勝ちパターンではない投手たちを、9回守備時の4〜5点差というシチュエーションで送り込めていた点にあると考えられます。この辺りの大胆さが、リリーフの枚数を増やすことにつながり、これだけの低い数値へと導いたのでしょう。

これだけ見るとソフトバンクのリリーフ運用は、非常に優れているように見えますが、2019年も前年から引き続き叩かれるケースが多かったように思います。ついでにそれはなぜなのかについて考察してみると、不要と思われる場面での登板が散見されるためだと思われます。甲斐野や高橋純といった勝ちパターンの一角と計算されているであろう投手が、登板間隔が開いたわけでもないのにビハインドの場面で投入されているケースが多く見られるのです。

数値で確認すると、甲斐野は実に13度のビハインドの場面での登板があり、高橋純も初ホールドを挙げて以降9度のビハインドの場面での登板があります。リリーフ陣の層は厚いだけに、この辺りの運用を改善出来れば、より良い運用となるのではないでしょうか。

続いて楽天も減少幅で言うと、ソフトバンクを上回る−10.8%を記録しています。2019年は松井裕樹をクローザーに固定出来たことも大きかったのでしょうが、それ以上に大きかったのがこちらもリリーフ陣の底上げの成功でしょう。

森原康平・ブセニッツ・宋家豪・ハーマン・青山浩二・高梨雄平・松井裕樹と実に7名が二桁ホールドを記録する充実ぶりを見せつけました。これだけ枚数がいるわけですから、ハーマンが抜けた中でも松井の先発転向を許容するだけのものは揃っているわけです。

このようにパリーグで数値が良化したチームを見ても、やはり信頼の置けるリリーフの枚数を増やすことがクローザーの管理には非常に大きな効果をもたらすことが分かるでしょう。

3-2.日本ハムの数値大幅悪化

上記のように大幅良化したチームもあれば、大幅に悪化したチームもありますが、大幅悪化したチームの一つが日本ハムです。前年は中々クローザーが固まらず、4人の投手のやり繰りによって一年間回し切り、12球団トップの13.3%と非常に良い数値も叩き出したいたのですが、2019年は一変して両リーグでもワーストクラスに落ち込んでいます。

リリーフの枚数的にはトンキンのマイナス分を、ヤクルトから移籍してきた秋吉亮が補って余りあるほどの活躍を見せたため、前年比では大きな変化はありません。にも関わらず大きく落ち込んでしまった要因としては、投手運用に定評のある吉井理人コーチのロッテへの移籍も大きいでしょうし、リリーフ陣全体の役割分担が曖昧になっていた点も大きかったと考えられます。

実際、吉井コーチが加入したロッテも大幅ではありませんが、数値を改善させていますし、クローザー管理以外の運用面でも非常に高い評価を受けています。という点から考えても、吉井コーチの移籍は多少なりともクローザー管理面にも影響を与えていたのでしょう。

またリリーフ陣全体の役割分担が曖昧になっていたという点については、セットアッパーの宮西尚生とクローザーの秋吉はガッチリと固まっていましたが、ロドリゲス・石川直也といったそれ以外の投手は起用する場面を限定しない流動的な運用を行っていました。特にロドリゲスなんかは顕著ですが、オープナー採用の煽りで、セットアッパーをやったと思ったら、第二先発で起用されたりと役割が二転三転することとなりました。このような形で、各々の役割の線引きが曖昧となり、クローザー役の投手が9回で4~5点リードしているような状況でもマウンドに上がる役割を包括的に担うことになったのではないかと推測します。

上記記事によると、「リリーフ陣の“無駄づくり”を減らしてほしい。今日はオープナーなのかどうなのかの情報がブルペンに欲しい」との宮西のコメントがあり、何となく首脳陣側とブルペン陣の意思疎通が図れていなかったことが伺えます。この辺りの曖昧さが、クローザー管理の悪化を招いてしまったのでしょう。

4.まとめ

前年とも比較しながらクローザー管理について見ていきましたが、重要なのは2点。信頼の置けるリリーフの枚数をいかに増やせるかという点と、増えた枚数を生かした柔軟な運用を行えるかという点となるでしょう。結論としては前回と変わりませんが、前年との比較を実施したことで、よりそれが強固なものになりました。

最後にホールド数(リリーフの層の厚さ)と記録なし登板割合の相関関係を確認して、本稿の締めとさせて頂きます。

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クローザーの記録なし登板割合と二桁ホールドを記録した投手/二桁ホールドを記録した投手のホールド数総計/チームホールド総計の3つのパターンについて、相関係数を算出したものが上記となります。ホールド数と記録なし登板割合が中程度の負の相関(一方が増えればもう一方が減る)を示しており、リリーフの枚数を増やすことである程度クローザーの負担を軽減できると言えることを示唆した結果となっています。

ですので、まずは信頼の置けるリリーフの枚数を増やすために、様々な施策を行うのが良いのでしょうし、そこから負担を分散させるような運用を行うことで、クローザーのみならずより強固なリリーフ陣をより長く築くことが出来るのではないでしょうか。

#野球 #プロ野球 #リリーフ #クローザー #管理

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