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島内颯太郎はエグい

2020年ここまでの広島を振り返る中で、一番に出てくるのが「リリーフ陣の崩壊」というワードではないかと思います。

開幕して1か月半が経過した8/8に、初の1点差勝利を手にしたことから分かるように、終盤にリードをした展開でもリリーフ陣が追い付かれるもしくは逆転されるケースが頻発し、とにかく接戦を勝ちきれないチーム状況でした。

今は塹江敦哉、フランスアといった両左腕が勝ち試合のリレーを任されますが、その他はまだまだ流動的で心許ない状況は続いています。

そんな中、リリーフ陣の中でも一際光放つ投球を見せているのが島内颯太郎です。
7/7に一軍昇格後、1試合6失点を喫した試合がありましたが、それ以外では無失点を並べ続け、徐々に首脳陣の信頼も勝ち取りつつあります。
そんな島内について、昨年からの改善点やいまだ残る課題、将来像等を以下にて考察していきます。

1.昨年からの変化点

昨年も25試合に登板し、K%26.0で被打率.196と既にその能力の高さの一端を示していましたが、今年は一段とレベルアップに成功し、K%41.0で被打率.098と昨年以上の支配力を見せつけています。

そこで昨年からどこが進化したのかについて、触れていきたいと思います。

①球威の向上+空振り率の向上

昨年からの進化は、何といってもストレートの球威向上及び球質向上にあります。

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昨年既に平均で148.8㎞を記録していたストレートは、更に球速を伸ばして149.6㎞と150㎞に迫る平均球速を叩き出しています。
加えて、昨年は7.2%だった空振り率が今年は12.1%までその数値を伸ばしており、よりボールがホップするようになったことで、昨年のNPB平均8.4%を大きく上回るところまで数値を上げてきました。
被打率も.122と、実に80%近くストレートを投じていながらこの数値ということが、その質の高さを物語っています

なぜここまで球威や質を向上出来たのかという点を考えてみると、今年から新たに開設された個々に対してラプソードを用いたデータ分析や技術指導を行う「2.5軍」の存在が大きくプラスに働いたようです。

>これまで一連の動作で投げていたフォームから、足を上げた際に「ワンテンポ置く感じ」と右足にためを作ってから投球動作に入る新フォームに挑戦。「コントロールしやすくなったし、しっかり体重移動をすることができてきた」。9日の2軍練習試合オリックス戦では自己最速の157キロを計測した。

開幕前の2.5軍に在籍している間に、上記のように一度ためを作るフォームに変更したことで、より大きな力をボールに伝えられるようになり、最高/平均球速の向上に繋がったようです。

②フォークの質向上

ストレートの球速や質は上記のように向上しましたが、昨年は頼れなかった変化球の質も向上させており、武器となるボールとなっています。

中でも際立つのが、昨年も被打率.000と全く打たれなかったフォークです。

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ストレートの平均球速の向上とともに、変化球の球速も向上しており、フォークも2.8㎞アップの135.7㎞まで高速化させています。
そして被打率は今年も.000のまま、前年21.4%だった空振り率も36.6%と、母数が少ないとはいえ昨年のNPBNo.1の空振り率を誇ったドリスの29.6%を上回る数値を叩き出しているのは、驚異的と言って差し支えないと思います。

このような高速化や空振り率向上をもたらしたのは、こちらも2.5軍で使用されるラプソードによって、今までは可視化されなかったデータを可視化できたことが大きかったようです。

2.5軍でデータや映像解析を担当する飯田哲矢スコアラーのブログ「イイダラボ」によると、これまではフォークのリリースポイントがストレートより低く高さがなかったために、打者にストレートと同じ軌道に見せることが出来ていない状態だったそうです。
その課題を可視化出来たことで、リリースポイントを上げる改善に取り組み、開幕前の5月にはストレートと同じリリースポイントで投じることが可能になりました

上記のような改善により、よりストレートと軌道を似せることが可能になって、大幅な空振り率の向上に結び付いたのでしょう。

③球質の変化によるフライボーラー化

以上のように開幕前に在籍していた2.5軍でのトレーニングにより、球速や球質に変化が生じたことが分かるかと思います。
これにより、島内が打たれる打球性質にも変化が生じました。

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昨年はGB/FBが1.26とゴロ性の打球が多かったのが、今年はGB/FBが0.63と逆にフライ性の打球が多くなっており、フライ系の投手に変貌を遂げています。
ストレートでフライ性の打球を打たせることが多く、ストレートによりホップ成分が大きくなったのが、この変化に寄与しているのでしょう。
加えて全体の空振り率が17.4%と、バットにボールを当てさせない投球もできています

リリーフ投手としては、試合終盤に登板する場合だと、守備側に不測の事態や不運が生じやすいゴロ系の投手よりも、一発を浴びるリスクこそ少々秘めながらも確実にアウトが奪えるフライ系の投手の方が好まれます。
ですので、この変化はここから更に重要な場面を担うことになる可能性もある島内にとっては良い変化と言えるのではないでしょうか。

2.残存する課題

このように圧倒的な投球を続ける島内ですが、まだまだ課題が多いのも事実です。

ではどんな課題がいまだに残っているのか、以下にて確認していきます。

①コマンド能力の欠如

奪三振能力こそ圧倒的な島内ですが、一方でBB%は16.4と決して良くはなかった昨年の15.0をも下回る数値となっており、四球の多さが目に付くところです。
Zone%は45.8%とリーグ平均の44.9%と同等のレベルで決して低いわけではないため、ストライクとボールがはっきりしてしまうアバウトな制球力が四球の多さの要因なのでしょう。

加えて、捕手の構えたところにボールが行くケースも少なく、ゾーンには投げ込めどもコーナーに狙って投げ込むことはできず、ボールを制御できていないケースが散見されます。

勝ち試合に投げることとなると、打者を押し切る単純なボールに威力だけでなく、無駄な走者を出さない最低限の制球力も必要となるため、ここは今後に向けての課題となるでしょう。

②投球割合の偏り

その他に投球データで大きく気になる点としては、投球割合のストレート偏重ぶりです。

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昨年も74.4%もストレートを投じる偏重ぶりでしたが、フォークの質が向上したにもかかわらず今年は更に割合を上げて、78.3%もストレートを投じています
これだけ偏りがありながら、トータルでの被打率が.100を切る数値で抑えているのは称賛に値しますが、フォークもしくはスライダーをもっと効果的に使えれば、もっと楽に投球を進められるかもしれませんし、相手打者も投球を絞りづらくなるように思います。

ただこの島内のように、ストレート偏重の投球割合で長年成績を残し続ける投手もいます。
それは西武の増田達至です。

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増田も常に60%以上のストレートの投球割合で推移し、今年に至っては島内以上のストレートの投球割合を誇っていますが、それでもクローザーとして12球団No.1ともいっていい安定感を見せています。
変に変化球の投球割合を増やすよりも、もしかすると島内の目指すべき姿はこの増田のように分かっていても牛耳れるストレートを投げ続けることなのかもしれません。

そのために、最低限のコマンド能力は身に付けて欲しいところです。

3.今後の起用法

最後に今後の起用法について考えて、本稿の締めとしたいと思います。

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ここまでの12登板で競った状況での登板は、8/6のヤクルト戦で1点ビハインドでの登板のみで、現状は点差の空いた場面での登板が主となっており、リリーフ投手の序列としては低い位置にあることが分かります。

>劣勢での登板が続く中、佐々岡監督は「いろいろと試してみたい」と“勝ちパターン入り”も視野に入れるほど評価は高まっている。

しかし、先日の登板後の記事に佐々岡監督の序列を上げることを匂わせるコメントが掲載されており、今後は厳しい場面での登板も増えてくることになりそうです。

単純にボールだけ見ると、勝ち試合でも通用しそうなものは見せていますが、少し気になるのは昨年4度ホールドシチュエーションでの登板があり、いずれも四球絡みで思うような投球が出来ずホールドを付けられていない点です。

メンタル面に問題があるのかは分かりませんが、リード時になると途端に投球が乱れる様子を見せているのは、今後厳しい場面で登板するにあたって不安材料です。
ただ今後自身の評価を高めていくには避けて通れない壁なので、自分のボールに自信を持ってこの壁を越えていってもらいたいものです。

データ参照:1.02-Essence of Baseball(https://1point02.jp/op/index.aspx)
      データで楽しむプロ野球(https://baseballdata.jp/)

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #島内颯太郎 #リリーフ


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