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新左腕エース・床田寛樹

2019年シーズンも開幕から既に1ヶ月を過ぎ、各チームや主力選手においては、上手く滑り出した者とそうでない者で、明暗がくっきりと分かれています。

そんな中、上手く滑り出すことに成功した選手の一人に、広島の床田寛樹の名前が挙げられるでしょう。

左肘のTJ手術から昨年の夏に二軍戦に復帰し、ここまではOP戦から好投を続け、開幕後も5試合に登板し既に4勝を挙げ、防御率は1点台を記録するなど、広島先発投手陣の救世主として見事な働きを見せています。

そんな床田について、昨年にも分析記事を書き上げましたが、一軍の舞台に戻ってきて、ここまで何が良くてここまで抑えられているのかについて、分析していきたいと思います。

1.床田の投手としての特徴

まず、床田がどのような投手であるのかを明らかにしていく上で、持ち球とその球速帯についてまとめたものが表①です。

真っスラ質のフォーシーム、亜大ツーシームのようなツーシーム、スラッター、カーブ、チェンジアップ、スプリットと多彩な球種を持っており、投球割合的にはフォーシームとツーシームとスラッターの3球種による組み立てがメインとなっています。

フォーシームの平均球速143㎞というのは、先発を務める左投手の中では、E・ロメロ、今永昇太、大野雄大、K・ジョンソンに次ぐ5番目の速さを誇り、技巧派のように見えますが、パワーも水準以上のものを備えていることが分かります。

そして、ツーシームと判定されているボールは、平均球速が133.9㎞とフォーシームの平均球速から見ると10㎞ほど遅く、打者の手元で小さく動いてゴロを打たせるというより、シンカー気味に変化を大きくした軌道で空振りや打ってもゴロを誘うようなボールとなっており、亜細亜大出身者が揃って持ち球としている「亜大ツーシーム」のようなボールです。

加えて、縦に鋭く曲がり落ちるスラッターも同じ球速帯で操っており、これらの球種でピッチトンネルを構成し、打者を翻弄する投球が持ち味と言えましょう。

次に、打たれた打球の性質や打者の反応についてまとめたものが表②です。

セルが赤く塗りつぶされているものはリーグ平均値以上の値を示しており、青く塗りつぶされているものはリーグ平均値以下の値を示しています。

K%やBB%はリーグ平均より優秀な値を示しており、三振を奪え四球も少ないという支配力のある投手であることが分かります。

打球性質の面を見ると、GB%が非常に高く、長打を浴びづらい投球が出来ていることが分かります。

真っスラ気味のフォーシームと、ツーシーム、スラッターというメイン球種を見てもGB%が高くなるのは自明の理と言えましょう。

一方で、打者の反応を見てみると、Contact%やSwStr%(全投球に対する空振り率)がリーグ平均以下であり、決してバットに当たらないようなボールを投げているわけではないことが分かります。

ですので、程よく打者に打たせることができ、球数少なく投球回を消化していけるのではないでしょうか。

2.ルーキーイヤーからの進化

上述のような投手としての特徴を持つのが床田ですが、ルーキーイヤー時も開幕ローテーション入りを果たしていたものの、ここまで支配的な投球は披露できていませんでした。

では、何が進化したために、床田はここまでの投球を披露できるようになったのでしょうか。

①全体的な球速アップ

左肘のTJ手術後、ボールを使った動作が出来ない中、ひたすら下半身を鍛えた成果か出力が向上し、全体的に球速が上昇しています。

2017年のルーキー時と今季の球速を球種別に比較したものが表③となりますが、フォーシームは2.3㎞、スライダーは2.8㎞球速が上昇していることが分かります。

球速が上昇することで、それだけ打者の投球に対する準備時間は短くなり優位に立てますし、スライダーもスラッターに近付き、打者にとっては非常に厄介なボールへと変質を遂げました。

また、球速の上昇に伴い、制球を乱すなんてことはよく耳にするケースですが、床田にはそのような気配はなく、以前のバランス感覚を保ったまま球速が上昇している点は素晴らしいの他ないでしょう。

②ツーシームの習得

ルーキー時の持ち球としては、フォーシーム、スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップの5球種でしたが、今季はツーシームを多投しています。

軌道的には亜大ツーシームのような、右打者から見ると外に逃げていく軌道を見せ、対右打者には非常に効果的なボールです。

真っスラ質のフォーシームとスラッター主体で、右打者に食い込むボールはあったものの、逃げるボールの質はイマイチでしたが、このボールをモノにしたことで右打者を苦にすることがなくなりました。

その証左として、対右打者にはここまで被打率.162と寄せ付けない投球を見せています。

どの球団も、基本的には左投手対策として右打者を並べるケースが多いため、右打者に強いというのは成績を残す上で大きな要素を占めますが、床田はそこをキチンとカバーできているわけです。

3.今後に向けての課題

ここまで出色の成績を誇る床田ですが、逆に今後に向けて解決すべき課題や不安要素についてまとめていきます。

①シーズントータルで見たスタミナ

4/13に既に完投勝利をマークし、ここまで5登板ながらも平均投球回は7回近くを数えるなど、1試合を通じたスタミナ面には問題ないことは実証済みです。

しかし、一昨年のルーキー時に肘を故障してから、復帰は昨年夏であり、プロ入り後一年間投球を続けた経験がないのが気がかりです。

TJ手術明けということもあり、投球数や投球回には気を配らなければならず、夏場以降にこれまで通りの活躍が続けられるかは現状だと疑問符を付けざるを得ないでしょう。

この点に関しては、首脳陣側のケアが必須です。

②対左打者

ツーシームをモノにしたことで、対右打者への優位性を確保した述べましたが、その一方で対左打者を見ると苦戦の跡が見られ、ここまで被打率は.300と打ち込まれており、今季ここまで浴びた2本の本塁打はいずれも左打者から浴びたものです。

なぜ左打者に苦戦しているのかという点を考えると、2点理由として挙げられるように思います。

②−1 球質

本note内で何度もフォーシームが真っスラ質と述べていますが、その球質が対左打者という観点では不利に働いているように見えます。

アウトコースに投げる分には問題ないのですが、インコースに投げる際に真っスラして真ん中寄りにボールが来てしまい、左打者には打ちやすいボールとなっているのではないでしょうか。

インコースにはツーシームを用いたいところですが、そのツーシームが小さく食い込む質ではなく、亜大ツーシームのような質のボールのため、インコースに食い込ませるのにあまり適していないことも、対左打者への不利さに拍車を掛けているように感じます。

②−2 投球コースの偏り

上述の要素に付随して起こってくる事象ですが、投球マップを見ると対右打者には両サイドを使い分けられているのに対し、対左打者にはインコースを突けていないことが分かります。

そのため、左打者はアウトコースのフォーシームとスラッターに絞りやすくなり、痛打を浴びる場面が増えているという側面もあるのでしょう。

4.まとめ

・投手としての特徴
①真っスラ質のフォーシームとスラッター、亜大ツーシームのようなツーシームの3球種をメインに投球を構成
②三振が取れ、かつ四球も少ない支配的な投球ができ、GB%が高いため、長打を浴びるリスクも低く抑えられている
・3年目の進化
①故障中のトレーニングにより、トータルで2〜3kmのスピードアップに成功
②ツーシームの習得により、右打者に対する優位性を確保
・課題
①1シーズン投げ抜いた経験がないため、シーズンを通したスタミナ面が未知数
②球質のためか、対左打者にはインコースを突けずに苦戦を強いられている

以上が、私の考える床田寛樹という投手の現在地になります。

広島は大野豊・川口和久以来、長らく日本人左腕不毛の地であり、そこに久々に現れた日本人左腕エースを張れる投手ですので、故障にだけは気を付けてその地位を確かなものにしてほしいものです。

#野球 #プロ野球 #広島 #カープ #左腕 #床田寛樹

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