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土地の歴史と作品と

秋になると各地でアートプロジェクトが盛んに開催されるのですが、個人的に好きなもののひとつに「滋賀近美アートスポットプロジェクト」があります。
リニューアル整備に向けて長期休館中の滋賀県立近代美術館ですが、その期間中に美術館を飛び出して滋賀県内の各地で滋賀にゆかりのある若手作家を呼んで毎年アートプロジェクトを行うというものです。

2018年の第1回は長浜市。羽柴秀吉が築城した長浜城のほか、北国街道の宿場町としても栄えたところ。今もレトロな街並みが残っていてこのときも多くの観光客で賑わっていました。

黒壁スクエアと呼ばれるエリアのなかにある建物を会場にして「散光/サーキュレーション」が開催されました(2018.9.22-10.21)。

このときは河野愛さん、薬師川千晴さん、度會保浩さんが参加。シックで落ち着いた空間に寄り添うようにクオリティの高い作品が並んでいました。
第2回は「Symbiosis(シンビオス)」というタイトルで、高島市安曇川町の泰山寺野という場所で行われました(2019.9.21-10.20)。
この泰山寺という地区は戦後に入植者によって開拓が行われて生まれた場所なんだそうです。この展示がなければ知ることがなかった土地の歴史が垣間見えてとても印象深い展示となりました。

会場となった「田中邸長屋」も、元は近くの亜炭鉱の飯場として使われて、入植者が譲り受けたあとは家畜を飼育したり納屋として使ったりしていた建物なんだそうです。外観からして味わいがあるのですが、近づくと屋根の上に銀杏の実が落ちているのが見えたりして、その光景がたまらなく素敵だと感じました。

無骨なほど素朴な空間に石黒健一さん、藤永覚耶さんの作品が並べられていました。

特に石黒さんはこの建物の持ち主である田中さんをリサーチした作品を出されていて、よりこの場所の歴史を感じることができました。
建物の隣の立派な林には井上唯さんの作品が展示してありました。

私が現代美術にのめり込むきっかけになったのは芸術祭だったのですが、そのときも現代美術の向こうにその土地の歴史が感じられるところに惹かれたんだったな、と改めて原点を確認することとなりました。

そして3回めとなる今年。今年は東近江市の能登川駅すぐそばでの開催されました。

「エンドレス・ミトス」というタイトルが付けられた今回。「ミトス」というのはギリシャ語で「糸」という意味があって、「ミトコンドリア」の語源(「ミト」の部分)にもなっているそうです。
糸がキーワードとなっている今回。会場のある東近江市を含めた湖東地方では麻織物の生産が昔から盛んで、「近江上布」と呼ばれて近江商人も取り扱っていたのだとか。

自転車の一時預かりとして使われていた建物を舞台に、今年も3組のアーティストが土地の歴史を踏まえた作品を制作されていました。
小宮太郎さんはファブリカ村という工房でもらった糸や布を使った作品を発表されていました。

おなじみの高速回転する作品、今回は東近江市の山奥、奥永源寺にルーツがあると言われている「木地師(きじし)」の手引き轆轤という技術に焦点を当てています。木地師とは轆轤などの工具を使って木工品を作る人のことで、織物の機械の製作にも携わっていたそうです。
いくつかある平面作品のひとにはこちらも能登川のかつてのシンボルである水車が描かれていました。

藤野裕美子さん。能登川や奥永源寺を歩いて目に止まったものを混ぜ込んだペインティングです。

スタッフの方から教えてもらったのですが、裏から見るとまた見え方が変わって面白いです。画像だとちょっとよく分からないですけどね。

武田梨沙さんはテキスタイル出身の作家さんです。もちろん使用しているのは麻の糸で、まっさらな白が輝いているかのようにきれいで美しかったです。

係の方に伺ったのですが、この建物、自転車の一時預かりとして使われる前というか、もともとは銀行として建てられたものなんだそう。

奥の小宮さんの作品が掛かっている白い壁の辺り、あそこに金庫室があったそうなんです。今となってはまったく想像ができない、、、驚きました。
さて。せっかくなんだし、近江の麻織物についてもっと知れないかなと思い、東近江市のお隣、愛荘町に足を伸ばしました。

近くを通っている新幹線に向けてアピールしているのか大きく「近江の麻」という看板が掲げられていました。
こちらは近江上布伝統産業会館の旧館。現在使われているのがこちらです。

こちらは旧愛知郡役所の建物を使用したレトロな外観。とても素敵な建物でした。実際のところ館内は麻製品を扱うショップがメインで資料展示などはなかったのですが、代わりに「奉安殿」という戦前に御真影や教育勅語を保管するために使われていた建物(もちろん戦後は多くが解体されました。ここに残された経緯は不明だそう)を見ることができて新しい発見がありました。戦前にはそんなものがあったんですねえ。

ほかにも能登川へ寄る前には五個荘金堂町にも足を運びました。近江商人発祥の地とも言われていて、昔ながらの街並みは重要伝統的建造物群保存地区に指定されているそうです。

ということで、ちょっとした小旅行気分を味わうことができました。
現代美術を通して滋賀の歴史の一端を感じることのできるこの「滋賀近美アートスポットプロジェクト」、次はどこだろう?と来年以降の展開が早くも楽しみとなっています。今後も継続して続けていっていただけるといいなあ。

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