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病気中でも素晴らしいものを生み出せるというおすすめの本 5選

私の父方の祖父は41歳で亡くなったそうです。もちろん会ったことはありません。父が中学2年生の時でした。

昔の人にはありがちと思われるかもしれませんが、祖父は暴力を振るう人だったそうです。それも酒を飲まないのに暴力を振るっていました。

酒が入ろうが入るまいが暴力は暴力といえばそうなのですが、若い人が何のきっかけかわからず突然暴力を振るうというのはそれなりに珍しく恐ろしいことではないでしょうか。そんな祖父は町議をしていて、将来は町長を目指していたのだと父は言っています。家にはお手伝いさんもいて地元では小さな名士だったようですが、御多分に漏れず、祖父が亡くなった後は家名は衰退の一途です。

そんな祖父の死因は”腸の癌”だったと亡くなった祖母から伝えられています。父は大腸がんだったのだろうというのですが、私は私と同じクローン病を患っていたのではないかと思っています。クローン病から消化器系の癌を発症することがあるようです。また、大腸癌に比べれば小腸、十二指腸の癌はさらに治療が難しいということです。

クローン病自体発見が難しい病気ですし、50年以上前のことなのでその病気自体思いつくお医者さんも少なかったのではないかと思います。

様々な消化器官に症状が現れ、栄養が吸収しにくいという病気で調子のよい感じがするときもあるので、祖父も長年病気とは思っていなかったのかもしれません。しかし、猟をしても自分がとってきた獲物を食べず、魚を釣っても自分ではあまり食べなかったと聞くと、我儘とかそういうことではなく、私みたいに下痢症でお腹の調子が悪くて周囲にあまりそのことを言えなかったのではないかと想像しています。

この病気の人は、男性の方が多く、遺伝の関係があると言われています。栄養が吸収しにくいので痩せている人が多いようなのですが、私はそんなに症状がすすんでいないのかどうか(手術もしたし、そんなことはないと思いますが)、見た目に痩せておらず、子供の頃からおかゆで3日過ごしてもあまり痩せるということがない体質でした。だから、祖父も痩せにくい体質で自分も周囲も病気に気づかなかったのではないかと想像してしまうのです。

奥さんに突然切れて暴力を振るう、町議をしていたけれども特に家業に精を出すこともなく、仕事もそこそこ、そんな人間だったらしいですが、地元ではそれなりに慕われたようです。昭和元年生まれの田舎育ちですが、高校を出て農業学校(今の大学の農学部)を出ています。

他人からは一部”のひゅたん”に見えていたようですが、同じ病気かもしれない私が考えるに祖父は病気を抱えてそれなりに頑張って生きたんじゃないかと思います。尊敬すべき人かはおいといて、きっと努力はしたのです。

今、有名なスポーツ選手やその他テレビに出るタレントさんたちが鬱病等を発表すると、応援するメッセージとは別に、厳しく非難する声がネットで聞かれるようです。「うつ病ならそんなに素晴らしいパフォーマンスができるはずがない」「うつ病はやりたくない仕事の言い訳にすぎない」などというものです。

しかし、小説家に限っていえばそれこそ鬱病や他の病の最中に素晴らしい作品を生み出した方が多くいらっしゃいます。近年でも、うつ病を公表された作家の方は多いのではないでしょうか。鬱病といえば大抵は躁うつ病で元気に見える(空元気だからよくない)時があると以前読んだことがあり、私の身近にいた人は数人しか知りませんが、躁うつ病でした。躁のときに活動するのか否かは定かではありませんが、私が一時期甲状腺機能低下症を患っていたとき、「血圧がずっと低いままだと死んでしまうので、ポーンと血圧があがったりする、それで亢進症だと考えてしまうお医者さんが多い」と担当の先生に言われました。今の病気もちょっと調子いいなと思うことがあるので、心も体も浮き沈みがあるのだと思います。心のストレスが身体的な病に直結することがあっても、それで仕事や一流のパフォーマンスができないかはそれとこれとは別ということもあるのではないでしょうか。もちろん、まったく働きたくもなくなり、人とも会わずうちに籠ってしまう人もいると思うので、一概には言えません。

しかし、一概には言えないからこそ、他人のことを憶測で厳しく糾弾する風潮は下火になってほしいと願っています。

以下紹介する作家がうつ病を患ったと思われる方々ですが、紹介する著作物が鬱病期に書かれたものであるかという判断は除きます。というより、鬱病期に”も”、素晴らしい作品を書いた作者の作品を、わざわざ鬱病期に書いたから素晴らしいという称賛をする必要がないと思うからです。ましてや病気が深刻になって死んでしまった人もいるのですから、そうした称賛は失礼だと個人的には思います。

たまたまなのですが、本を紹介するとなぜか男性ばかりになってしまいます。女性の作品もたくさん読んでいるので、いつか紹介したいです。

1.「こころ」 夏目漱石

高校の頃、教科書に載っていて暗い話だと思いました。特に同じような時代の他の作家の作品も教科書に載っていたので、なぜ「こころ」ばかりを授業で長々と学習する必要があるのだろうと思っていました。何より自殺を扱った作品なので、高校生に教えるにはシビアな内容ではないかと思います。クラスメイトの人たちは「作品自体はそのまま読んだら面白いと思わなかっただろうが、学校で解説されると興味深くなった」という人がちらほらいました。私もそういう部分がなかったわけではないですが、書店で平積みするのであれば夏目漱石の作品は他にあると思います。読書感想文におすすめする意味が解りません。作品自体はすばらしいのですが、「お嬢さんに一点のシミもつけたくなかった」という主人公が語った手紙の意味を私は大学の講義で知りました。その意味を知らずして、また知ったところで結婚が遠い中高生には共感しにくい話ではないでしょうか。高校で曖昧に教えられ、そのまま読書感想文を書くよりも、大学で学んだ方が興味深く読めると思います。夏目漱石ならやはり他の作品から入るべきでしょう。大学は社会学系の学部に進んだので、文学部に進めばよかったなあとその時思いました。

2.「恩讐の彼方に」 菊池寛

芥川賞や直木賞の創設に関わった方ですね。文藝春秋が若い作家のために作られた雑誌だったそうなので、今はだいぶ赴きが変わりました。作者の言葉が古いので、この作品以外は時代劇大好きの私も読みにくく感じて挫折したりしています。確か主人の奥さんと関係を持って、主人殺しの大罪を負って逃げるという逃亡者の話だったと思います。設定はシンプルで昔にしてもよくある話です。でも、そこからが読ませますよね。ただ贖罪のために一生を費やしたのか、生きるために贖罪を求めたのか、その判断は読み手によって分かれるところかもしれません。私は前者で考えたいです。罪を犯したとしてもその人の性格や生き方すべてが否定されるわけではありません。赦されない罪もあると思いますが、いつだって人は犯罪者になりうるのではないかと思うこともあります。罪を犯した後に、人はどうやって生きるのでしょうか。立場は違いますが、病を得た今、私も今後どうやって生きようかと常々思います。

3.「霧と夜の隅で」 北杜夫

精神病を患っていた方としては一番有名な方ではないでしょうか。親交のあった作家の阿川弘之さんは、北杜夫さんを引っ張り出すために何度も対談をさせられたと面白おかしく書かれていました。またその北杜夫さんや遠藤周作さんとの3人の対談が面白いんですよね。一番年上で、一番長生きしたのが阿川弘之さんです。でも、いつも「もう死んでしまうんだ」と言っていたという北杜夫さんも天寿を全うされました。私の祖父よりはずいぶん長生きでした。人生って不思議なものですね。北杜夫さんの作品は北杜夫さんの不思議な精神世界が繁栄されています。私は少し読みにくいなと思うことも多かったのですが、母がファンでたくさん作品を購入していたので、それなりの数読んでいます。その中でも芥川賞を取られたこの作品が一番印象に残っています。読んだ年齢が作者の書かれた年齢と近かったからかもしれません。

4.「陰気な愉しみ」 安岡章太郎

非常に短い作品なので、中味を言いたくないですね。生きることの惨めさと滑稽さを素直に表した作品と言えばいいでしょうか。私は非常に共感しました。これも確か、芥川賞を受賞した作品ではなかったでしょうか。芥川賞というと難解な話が多く、私もじつは敬遠しがちなのですが、いくつかは読みやすく非常に共感したり感動したりした作品もありました。近年では「苦役列車」「火花」などが印象に残っています。

5.「伊豆の踊子」 川端康成

これはですね。私の経験なのですが、高校生くらいの男の子が不思議と好きな作品なんですよ。「雪国」もそうですが、なんでなのかよくわかりません。私はちょっと暗い話かなとおもうのですが、確かに情景描写が綺麗なんですよね。私の感性が足りないのでしょうか。弟なども高校生の時、教科書に全部載っていなかったと言って、図書館で借りて繰り返し読んでいました。塾講師をしていた頃も好きな作品にあげる生徒が多かったです。私はどうしても物語性ばかりに目がいきがちで、さらりと流れる川端康成の文体にはなじまないのですが、私が感動したというより、実体験として豊かな感性を育てる可能性がある作品としておすすめします。

その作家が躁鬱の病にかかっていたかは知らなかったけれども、その作家の方が元気がなかった時の作品に励まされたり感動したりしたという方はじつは結構いらっしゃるのではないでしょうか。スポーツでも、芸術でも、話芸でも、その人がただ病を患っているからといって治療に専念しろと糾弾するのは間違っています。病というのはそもそも治る保証もないのです。みんながみんな、わたしや祖父のような"のひゅたん"で良いのですか?

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