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【読書】『世界の児童文学をめぐる旅』池田正孝

2020年10月に発行された最近の本です。著者は、文学とは違う専門(中小企業論)を大学で教えながら、ヨーロッパの児童文学の舞台をめぐって写真を撮り、日本各地でスライド上映会をしてきたという方。その積み重ねをもとに生まれたのがこの1冊です。

私がこれを読むことにしたのは、『ツバメ号とアマゾン号』など、アーサー・ランサム作品の主要な舞台であるイギリス湖水地方が取り上げられていたからです。

私は子どものころ、アーサー・ランサムの本が大好きでした。

今でも、ランサムのことが出ている本や雑誌があると反応してしまいます。イギリスの湖水地方は、日本でも「訪れてみたい旅行先」として、また「ピーター・ラビットの舞台」として名前を目にすることがしばしばありますが、「アーサー・ランサムの物語の舞台」として日本のメディアに取り上げられることはほとんどありません。

これまでは、2010年に発行された雑誌『Coyote』の特集として出ていたのが、日本のメディアで「ランサムの湖水地方」が扱われた最新のものだと思っていました。

それが、2020年発行のこの本により、ぐっと最近の様子を知ることができるようになったのです。

この本の中で、ランサム作品の舞台としての湖水地方に触れているのは8ページ。短いと言えばそうですが、全部で20以上の作品の舞台を紹介する本なので、ひとつあたりの分量は大体これぐらいのものです。山を背景にしたコニストン湖や「ハリ・ハウ」(のモデルとなった建物)のボートハウスを撮った写真などが出てきて、こんな場所でジョンやナンシーたちの冒険物語が繰り広げられていたんだとイメージしやすいです。作品が書かれた背景やランサムのエピソードを紹介する文章と、随所に織り込まれた写真がうまくかみ合っていて、読み応えある8ページでした。

この本でほかに取り上げているのは『ピーターラビットのおはなし』『くまのプーさん』『秘密の花園』『トムは真夜中の庭で』『ニルスの不思議な旅』『星の王子さま』など、よく知られた作品ばかり。いずれも、文章と写真が巧みに組み合わさっています。

著者は、イギリスの作品が多くなったことについて

英国の作家が書く物語にはその背後にリアルな舞台や場所が存在し、彼らのそうしたものへの執着ぶりがきわだっています。そしてその点こそが、読者が作品をイメージする上でとても効果をあげているものと思われます。(P218)

と書いています。ランサム作品についていえば、まさにその通り。だからこそ、自分の中に築いたイメージと実際にモデルとなった場所を、こうした本で比べてみたくなるのだと思います。


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