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記事一覧

森に入るとき、人間の身体は否応なく変化する➖➖『マタギドライヴ』の旅 #7

 永沢さんと益田さんに連れられて、僕たちは狩り場へと案内された。ほんの少し自動車で走っただけなのに、そこはもう携帯電話の電波の入らない領域だった。僕たちは麓のキャンプ場の駐車場に自動車を停めて、改めて身支度した。そこには無数のアブが飛び交っていて、少し自動車のドアを開けただけで数匹のアブが侵入してきた。益田さんは、アブには刺される前提で来るように僕たちに指示していた。僕たちはその指示にすっかりビビってしまい、指定された虫よけスプレーの大きな缶を買ってきて、ドアを開けるときにレ

距離と技術―― 『マタギドライヴ』の旅 #6

さて、秋田への取材旅行記の続きも、週1回くらいのペースで更新していこうと思う。 僕が食べたさくら定食の馬肉は、しっかり肉肉しい歯ごたえのある牛丼屋の具のような感じだった。僕はこのときまで、この土地に馬肉を食べる習慣があることを知らなかった。小麦アレルギーの落合君は、うさぎラーメンの麺だけを起用に取り除いて具をつまみ、スープを啜っていた。 早めに食べ終わった僕は、楽天チームと永沢さん、増田さんの現地組を待つあいだ、併設された道の駅の売店を見物した。印象的だったのは、野菜など

「旅」を「観光」から解放する ――『マタギドライヴ』の旅 #5

角館から秋田内陸鉄道に乗って、僕たちは阿仁へと向かった。夏休みのせいか車内は観光客で混み合っていて、その熱気の中でガイドのおばちゃんが慣れた調子で車窓の風景を解説していった。右手に見える山はこのように呼ばれていて、次の駅を過ぎると見えてくる田んぼアートは今年のコラボレーションしている『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけが描かれているとか、その類のことだ。おそらくは定番の、下手をすれば何十年も続けられたある意味「伝統芸能」的な解説だっと思うのだけれど、正直言って僕にとってはな

落合陽一、マタギの里へーー『マタギドライヴ』の旅 #1

『マタギドライヴ』という言葉が、いつから彼の口から出始めたのか、正確には覚えていない。しかし彼の『デジタルネイチャー』という本をつくっていく中で僕と彼、落合陽一君との間では既に次は、これまで書いてきたような「世界はこのように変化する」と分析する本ではなく、変化した世界でどう生きるかを考える本にすることは、暗黙の了解として決まっていたように思う。そして編集の追い込みのころにその「次の本」には「マタギドライヴ」という名前が与えられていた。 なぜ「マタギ」なのかーー会話の中で、こ

宇野常寛より、新年のご挨拶

新年あけましておめでとうございます、宇野常寛です。 今年もよろしくお願いします。 昨2023年は単著4冊、編著一冊と結果的にものすごく働いた1年でした。もっと早く出る予定のものが遅れに遅れてしまったり、急にいただだいた企画などが重なった結果なのだけど、自分でも予想外の忙しさだったのですが、ここ数年でいちばん手応えのあった1年だったと思います。 どの仕事も、それぞれの理由で気にいっているのですが、特にはじめて中高生向けの本を書いた『ひとりあそびの教科書』と、はじめての小説の

【要旨】#宇野常寛 著. #ひとりあそびの教科書. #河出書房新社 (2023)

序章 一人遊びの薦め グローバリゼーションとコンピュータの発達が組み合わさった世界で最も大事になるもの・・・個個の想像力 【一人遊びの4つのルール】 ・人間以外のものごとに関わる ・違いがわかるまでやる ・目的を持たないでやる ・人と比べない、見せびらかさない 第1章 街に走りに出てみよう 競技スポーツ     :他の誰かに勝つことが目的になっている。 ライフスタイルスポーツ:身体を動かすことそのものを楽しみ、運動するこ             とそのものが目的になっ

「ひとり」で遊ぶことを忘れてしまった大人たちへ

宇野です。しばらく有料マガジンの更新ばっかりになってしまってごめんなさい。心を入れ替えて、このnoteも更新していこうと今日、思いました。 そしていきなりの告知で申し訳ないですけれど、本日4月26日に僕の新刊『ひとりあそびの教科書』が河出書房新社から発売になりました。これは「14歳の世渡りシリーズ」という中高生向けのレーベルの中の一冊です。僕にとってははじめての中高生向けの本になります。 どんな本かというと……ランニングとか、虫取りとか、模型とか、僕の趣味の世界を紹介して

『街とその不確かな壁』と「老い」の問題ーー村上春樹はなぜ「コミット」しなくなったのか(4月22日追記)

村上春樹の新作長編『街とその不確かな壁』を、発売当日に電子書籍で購入してKindleで一気に読み通した。結論から述べるとこの作品は近年の、というか『1Q84』の〈BOOK3〉以降の自己模倣と内容の希薄化の延長にある作品で、彼の長編の中でももっとも記憶に残らない薄弱な作品の一つになってしまっていると言わざるを得ないだろう。 僕は半年前に出版した『砂漠と異人たち』で、この村上春樹について20世紀後半を代表するパーソナリティとして扱い総括的な批評を試みた。そしてこの『街とその不確

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