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*読書感想文*ブラフマンの埋葬(小川洋子/講談社)

読書リハビリ期間なので、やはりまだ静かなお話の方がいいかと思い手に取ったのが本書である。タイトルに『埋葬』とあるので、きっと静かだろうと思ったのだ。

ところでブラフマンとは何者か。実は本書にはブラフマンが何者であるかということは明記されていない。描写から小動物的な何かだろうな、という推測はできる。しかし不思議なもので、何者かなどわからなくても、ブラフマンは厳然としてブラフマンであり、それ以外の何者でもないと思わせてくれる。現にこの物語の登場人物で固有名詞をもつのはブラフマンだけである。

薄い本ではあるが、私は本書をとてもゆっくり味わった。小川洋子さんも昔から好きな作家さんである。全部を拝読したわけでは無いが、静謐な作品が多いように思う。小川洋子さんの紡ぐ物語というものを目視できると仮定してその見た目を例えるなら、今どきの言葉で言うと『透け感』と言うのだろうか。我ながらしっくりくる表現かもしれない。文章を読んでいる最中は、レースペーパーやトレーシングペーパーをそっとめくるような感覚を覚えることがあるのだ。

タイトルからして結末に関してはうっすら『そうなんだろうな』と想像を持つ方は多いと思うが、読後はやはり静かな寂しさに包まれる。おそらく『そう』であろうと予想しながら読む物語のなんと愛おしいことか。しかし読後、涙は一筋私の頬を伝っただけだった。登場人物たちの感情の描写は極力排され、読後感は読者に委ねられているようにも感じた。一時期巷で話題になった『泣ける小説』というのがあったが、というより、今も帯などで謳っているものもあるのかもしれないが、そういう作品は、作者以外の者から感情を強く押し付けられているように私は感じて、これまで手が伸びることはあまりなかった。私自身、書店や図書館勤めの中でPOPなどを作る機会も多かったが、なるべく自分の思いの丈は自分のものだけであるように努め、いかに個人的感傷表現を避け、かつ手に取ってもらえるものになるよう尽力してきたつもりだ。

やんわりとした死の空気で満たされた作品だが非常に印象的で、ふとした瞬間にブラフマンを思い出しそうな作品だった。

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