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大津小1女児暴行死事件から一年②

身近な大津市で起こった事件によって一人の子どもが命を亡くし、ヤングケアラーであった子どもが加害者となってから今日で一年になります。今回のコラムは一年前にSNSで発信した自分の文章から、行政は何をして何をしなかったのか、民間団体である自分たちは何をはじめて、何が出来なかったのかを振り返っていきたいと思います。

前回のコラムでは、事件より約一年後に県に提出された専門家による検証結果報告書を紐解きながら、自分が一年前にした提言なども振り返ってみました。

では今回も一年前に自分が発信した文章の紹介から。

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2021年8月11日 幸重忠孝のFacebookより(一部改変)引用

連休明けに、さっそく最初の報道が入ってきました。記事の見出しが兄の暴力についてなのですが、大事なのはそこではなく暴行が7月22日、つまり夏休みに入ってはじまっているという事実(ただ警察に連絡され、児相がふたたび介入したタイミングでもあるので、この介入失敗の可能性もありますが)。逆を言えば、学校がある間はこの妹はギリギリ安全を保っていたということです。このように夏休みは家庭に課題(貧困や虐待など)がある子どもたちには地獄の40日間となります。さらに今年と昨年の夏は、コロナの感染拡大でステイホームを国が呼びかけていることもあり、子どもが家庭外でエネルギーを発散する機会、家庭外の人が地域の子どもの変化に気がつく機会がほとんどありません(その意味では勇気をもって通告したコンビニの人たちをもっと評価してほしい)。

この3月に行ったこどもソーシャルワークセンターの事業報告会で、センターのボランティアさんたちと安田夏菜さんの児童書『おはなしSDGs貧困をなくそう みんなはアイスをなめている』の主人公である兄と妹が、もしこどもソーシャルワークセンターに来たならどうなったかを実際のセンターでのエピソードをまじえて物語形式で報告しました。

今日の報道では「少年と妹は千円の食事代だけで1日を過ごす日があった」とありました。先ほど紹介した児童書も貧困家庭でネグレクトを抱えているヤングケアラーの兄が主人公で、作中でも妹の面倒を見ているのですが、このきょうだいが夕食500円(というかお昼は給食、朝食はなし)で過ごすシーンが描かれます。本のようにうまく伝えられないのですが、子どもが少ない食費で毎日やりくりしないといけないことの息苦しさがこの本を読めばよくわかります。調理が好きだったり得意な方は、一日千円や一食500円もあれば、いろんなごはんが作れると思います。でもその調理や買い物スキルのない子どもたちは近所のコンビニに行くしかないのです。コンビニからの通告があったことを考えると、このきょうだいはそうやって毎日コンビニで買い物をする姿をコンビニ店員が目撃していて気にかけていたから通告出来たのかもしれません。これは地元ならではの話になりますが、事件のあった団地はとても急な坂の上にある団地で車がある家庭にとっては近所の安いスーパーに買い物行くことは苦でないでしょうが、車がない家庭にとってこの暑い中、重い買い物荷物をもって買い物から帰るのは苦行でしかありません。

児童書の中では、妹が切り詰めた食事の買い物中にお菓子が買いたいと駄々をこねるシーンが出てきます。お話ではお兄ちゃんが最終的には妹のわがままにつきあうのですが、もし妹に言うことをきかせようとしたなら、結局は暴力や恐怖で言うことをきかせるしかないはずです。きっと妹は痛くて、怖くて泣くでしょう。するとお兄ちゃんは余計に苛立ちます。「泣くな!」と怒鳴ってさらに強い暴力をふるうしかなくなるわけです。新聞の見出しになっている「連続で何十発も殴った」には、おそらくこのような流れがあるはずです。そしてセンセーショナルな見出しを使うなら、報道側もそのぐらいの解説もきちんとして欲しいと思います。

さて前回の投稿では、ソーシャルワーカーとしての3つのアクションを宣言しました。が、あれは中長期なアクションで、とにかく今すぐやらないといけない目の前のアクションについて、この三連休中にこの事件を受けて、こどもソーシャルワークセンターの職員とミーティングをした結果、このような危機的な夏休みの終わりと二学期のはじまりが、統計的にも子ども若者が自死につながりやすいということから、「緊急コロナ対策:一週間限定深夜のアウトリーチ活動」をこどもソーシャルワークセンターとして行うことが決まりました。日中はおそらくいろんな民間団体や公的機関もそれなりに居場所づくりや声かけをしてくれますが、深夜は相談窓口も居場所もありません。そこでこどもソーシャルワークセンターでは、昨年度から週2回取り組んでいる「生きづらさを抱える若者たちによる深夜のアウトリーチ活動」を一番危険な一週間は毎日行うことにします。センターに朝まで職員やボランティアがいるので、必要に応じて緊急宿泊支援も行えることになります。一人ずつになりますが、この苦しい夏休みを過ごしている子どもとつながりましょう!

この連休中も大津市内で起こった事件ということで、心痛めている市民のみなさんがセンターに寄付をもってくるついでに「何か出来なかったか」という思いを話してくれています。同じソーシャルワーカー仲間や子どもの居場所に関わる人たちから今回の件で傷ついているとのDMが来ています。きっとセンターやソーシャルワーカーである幸重に何か期待してくれていると思うので、今回のアクションは、それに応える意味も大きいと思っています。正直、へんなアドレナリンが出ていて、突っ走っているのはわかっていますが、身近な場所の子どもが命を亡くし、子どもが加害者になってしまった以上、やはりソーシャルワーカーとして、何かアクションを起こしていきたいと思います。

=== 以上、引用終わり ===

読み返しても、一年前に何かしなければとアクションを起こそうとしたことを思い出します。夏の終わりに行った一週間連続で深夜のネットアウトリーチは、結果として今まで細々と行っていたネットアウトリーチの質が一気にあがる機会となり、またマスコミも通して多くの人たちに、元当事者の若者の力を借りることで出来た小さな取り組みとして成果をあげることが出来ました。

その関係があるのかないのかわかりませんが、国が用意したヤングケアラー支援では、ヤングケアラー経験者によるピア活動の必要性が大きく位置づけられました。今回、こどもソーシャルワークセンターが行うヤングケアラー支援では、当事者の若者を担当職員として雇用しました。先日の7月16日に行ったキックオフイベントでは自分の子ども時代の話をしてくれて、きょうだいケンカになった時に包丁を持ちだした経験があることから、大津で起こったの事件は決して他人事ではなかったと語りました。

子どもが子どもの世話をすることについて感じるのは、面倒を見ている子と面倒を見てもらっている子と見えている風景がかなり違ってることにあります。現在、京都新聞で連載している「こどもたちの風景 湖国の居場所」からの第1話は姉の視点、第2話は妹の視点で同じシーンからはじまっているので、このnoteに連載の物語パートを投稿しているので、ぜひ見比べて見てください。

このリアルは机の上で仕事していたり、アンケートやケース記録を読んでいてもおそらく気がつかない子どもの世界で、現場に入ってはじめて見えてくる世界だと思います。だから今回行うヤングケアラー支援でもまず子どもたちが集まることにこだわっています。

では一年前の最後の投稿を紹介します。

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2021年8月21日 幸重忠孝のFacebookより(一部改変)引用

読売新聞から今まで報道各社の取材記事をまとめた総括的な記事が出されました。報道内容によると、その1やその2で危惧していた通りの児童相談所の支援内容であったことにがっかりしました。措置解除され自宅に子どもたちが戻ってから事件が起こるまで児童相談所のワーカーが亡くなった小学生や事件を起こした兄と結局一度も面談をしてなかったということです(3回の家庭訪問と5回の電話連絡はすべて母親との面談のみ)。特に7月21日未明にコンビニから警察に連絡があって警察が自宅に子どもたちを送り届けた段階でも親が不在だったにも関わらず、結局一度も子どもに話を聞いていないということに驚きました。亡くなった妹は夏休みになるまでは、学校での日々の見守りや担任の先生を中心とした声かけが効いていたと思います。しかし夏休みによってその日々の見守りがなくなりました。また高校に行ってなかった兄はまだ17歳でありながら、この4ヶ月間どこにもつながっていないということは、誰も彼のSOSに気がつかなかったということになります。

この件について、多くの人が「家に戻らず施設にいた方が幸せだった」と話しますが、兄については高校に行ってない17歳なので、基本的にはもう児童福祉施設を利用することは難しい状況だったはずです。そして日本ではこの世代をサポートする支援が本当に手薄です(大津市に関していえばほぼ皆無)。そして唯一その兄とつながりがあった児童相談所を責める声も聞こえてきますが、児童相談所のワーカーが一人100ケース近くを担当していることはあまり知られていません。最新の滋賀県のデータでは、昨年度滋賀県で児童虐待の相談対応件数は8201件、そのうち一時保護所に保護したケースは年間でたった188件。つまりこの事件は特別、手薄な対応ではなく(実際に最初の報道で児童相談所からは手続き通りに対応してきたとコメントしています)、今の児童虐待の支援は、今回の事件が起きた家庭のように、月数回の電話や訪問による見守り支援であり、特に今回の事件のように子どもの声をワーカーが聞いていないということは多々あります(というか最近のスクールソーシャルワークや児童相談所界隈では、ケース会議やスクリーニングなどが重視され、子どもと直接出会うケースワークがあまりに軽視されています)。

これから県で検証委員会がたち上がるということですが、おそらく過去の例から検証委員会の再発予防は児童相談所の機能強化という話でまとまり、職員が一人増員されるとかスーパーヴィジョン体制を強化するという結論におさまるような予感がします。もちろんそれも大事ですが、今回事件に巻き込まれた二人の子どもや家庭にとって必要だったのは、直接あたたかさを感じる人とのつながりや居場所ではなかったのかと思います。が、この手の検証委員会による再発予防でそのような提案をされることはあまりありません。そして居場所が増えても、今回の事件もそうですが、地域の民間の居場所は出会うきっかけがなければ身近な地域で苦しんでいる子ども若者がいてもサポート出来ません(実際に今回はうちの居場所にこの子どもたちがつながる機会はありませんでした)。

今回の事件は報道にも書かれていますが、おそらく夏休みに入って一週間たらずで急激に悪化して、誰も最悪の事態に気がつかなかったということでした。今、コロナの感染拡大に伴って、また一斉休校論が議論されはじめました。すでに夏休みの延長を決めた自治体や学校も出てきています。今回の大津の事件から学んで欲しいのですが、その一週間延長や安易な休校によって家庭が苦しい子どもたちがどれだけ絶望に追いやられるのか考えて、せめて休校するならその対策をきちんと講じてからにして欲しいということです(昨年度のコロナによって亡くなった子どもの数と自死で亡くなった子どもの数を考えれば感情論でなく、子どもの命を守るために優先すべき課題としてどちらが上かわかりますよね)。

そしてこの夏休み明けは、昨年以上に苦しい環境で絶望を抱える子どもたちが増える中、こどもソーシャルワークセンターでは、現在の公的支援や他の民間団体の支援が手薄な22時から翌朝6時まで緊急支援として一週間限定でオンラインサロンや緊急宿泊支援など出来る範囲での直接支援を行います。現在そのためのクラウドファンディングもスタートしています。小さな団体であるので、つながれる子ども若者の数は限られていますが、それでも夏休みのはじめに起こった大津の事件のようなことをこの夏休みの終わりに起こさないためにも、やれることをやっていきます!

=== 以上、引用終わり ===

検証委員会による報告書について、総論に関しては一年前の段階で、ピタリと言い当ててしまっている自分がちょっと怖くなってしまいますが、それだけ専門家が集まって話す対策というのは、パターン化しているということだと思っています。制度や政策はそれでいいと思うのですが、一人ひとりの子どもたちのことや取り巻く社会はパターン化された対策だけではどうにもならず、結局のところどれだけオーダーメイドで関われるかがポイントだと思っています。また外から見たら「施設や保護などの専門的な支援を受けた方が幸せ」と思いがちですが、先日来センターにくる子どもたちの声を聞いていると、施設などで生活することの窮屈さやそこで悪意のない傷つき体験をすること、「一時保護所だけは何があっても絶対行きたくない」と思わせてしまうほどの生活を子どもたちが強いられていることを、世の中の大人はもっと知るべきです。

今回のヤングケアラー支援も結局のところ国や自治体のメニューを意識しながらもオーダーメイドでモデル事業を作り上げていこうとしています。正直そこにかかるエネルギーや資金は莫大やなと思いつつ、制度に従って言われたことを粛々とした方が、仕事として楽なのはわかっているけど、それでは一年前に亡くなった小学生の妹や罪を犯したヤングケアラーの兄に対して何も出来なかった大人の一人として恥ずかしく思いますし、そこは世の中の「仕方ない」に抗い続けるソーシャルワーカーでありたいと思っています。

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