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丸い何かの中で

「トヨタ青少年オーケストラキャンプ」は全国のアマチュアオーケストラのジュニアメンバーを集めて一流の講師の先生の指導の元、一曲マスターするオーケストラ合宿だ。1985年私が大学生になる年に参加したのはその第一回で、チャイコフスキーのロミオとジュリエットを演奏した。そのキャンプが2014年に30周年を迎え、記念演奏会が開催された。そして同窓会的なものを整えて記念誌を作るというので寄稿させていただいた。ただ、30年分の同窓生がいるので、文字数制限が厳しくてだいぶ削ぎ落としたものを提出したので、シェイプアップ前バージョンを掲載したい。

以下寄稿原稿

 トヨタ青少年オーケストラキャンプ第一回目に参加しました。いろいろな素晴らしい先生に指導していただけた中でも、特に印象的だったのは、指揮者の尾高忠明さんです。
 あの時、尾高忠明さんが指揮台に立った時、オーケストラの雰囲気が丸くなったのです。ハスの葉っぱの上の水滴のように丸い何かに包まれた感じでした。これが指揮者のオーラなの?と思いました。それ以前にも尾高さんが指揮した演奏会を客席で見たことはあったし、尾高さんの指揮する曲は素敵だと思っていたのですが、オーケストラの側にいるとこんなにも感じが違うんだと鳥肌の立つ思いでした。メンバーの一人ひとりの楽器から糸が紡ぎだされて、尾高さんの指揮棒で納豆のように絡めとられていくのです。それぞれの所属するオーケストラはバラバラなのに、年齢も住んでる場所もいままでの経験も全然粒が揃っていない私たちなのに、尾高さんの指揮棒で一つにくるっとまとめられていくのです。あんな体験は後にも先にもありません。
 あれから、尾高さんの指揮を拝見するたび、オーケストラの人はあの丸い何かの中にいるんだと思うようになりました。そして、なにより、仕事の場面などで目標や気持ちの合わないバラバラのメンバーであってもひとつになって何かを作り上げていくことはできるんだと思うことができ、私の人生に無くてはならない一瞬だったと思っています。

2013年8月

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