『低温物理実験技法』§8.液化機の原理

 液化機を自作したり研究室で保有することは少ないが、その原理を知ることは、無冷媒型の冷凍機の仕組みとも通じるため重要である[2]。

§8-1. 熱サイクル
 カルノーサイクルは、最も原理的な冷凍機であると言える。カルノーサイクルは、低温側から熱量を吸収し、高温から放出するサイクルであり、これは冷凍機そのものである。カルノー効率は、(低温側の温度)/(高温側の温度-低温側の温度)で表されるため、
・低温側の温度が低い方が効率が悪い
・低温側と高温側の温度差が大きいほうが効率が悪い
ことがわかる。これは冷凍機の性質として直観に合う。

 カルノーサイクルは技術的に難しいため、異なる熱サイクルが使われる。Stirling cycleや、Gifford-McMahon cycle などが用いられる。

§8-2. ジュール・トムソン効果
 問題設定として、2つの部屋を用意し、その間に小さい穴を開ける。ガスは初めは全部左に圧力p1でいて、小さい穴から気体を右側の部屋に吹き出させ、過程の終了後は全部右に圧力p2でいるものとする。

 気体の間にはたらく力は、二つの分子間の距離によって斥力か引力かがわかれる。分子間距離が非常に小さいときには強い斥力がはたらき、少し離れたところに弱い引力(ファン・デル・ワールス力)がはたらく領域がある。気体が小さい穴を通して低圧側に吹き出されると、分子間の平均距離は大きくなる。それにより、もし分子間の平均ポテンシャルエネルギーが上がるのであれば、エネルギー保存則から分子の運動エネルギーは下がるので、気体の温度は下がる。このように両側の圧力を一定に保ちながら膨張させた時に温度が変化する現象をジュールトムソン効果と呼ぶ。

 吹き出す前の気体の温度と圧力が高いときには、分子の運動エネルギーが大きく、密度が高くて斥力領域に入っている確率が高いので、吹き出しにより平均距離が長くなると平均のポテンシャルエネルギーは下がり、ガスの温度は上昇する。このことから、温度が下がるためには初めの状態の温度と密度がある程度低くなくてはいけないことがわかる。4Heの場合は、40 K以下の低圧領域(40気圧以下)で温度が下がる領域がある。一方、窒素の場合には、600 Kから100 Kの間の低圧領域(400気圧以下)に温度降下の領域がある。この違いは、ガスに働く引力の強さの違いである。

§8-3. 液化機
 熱サイクルを利用して4Heの液化を行うには、2つの困難がある。一つ目の問題は、低温でなめらかに動くピストンは技術的に難しいこと、二つ目の問題は、低温ほど効率が下がることである。

 一方、ジュール・トムソン効果は、この2つの困難はない。可動部分は存在せず、効率は温度が低いほど大きい。しかし、4Heの場合、ジュール・トムソン効果は40 K以下でないと使えない。

 そこで、4He液化機では、断熱膨張によって高圧ガスを40K以下に冷却し、その温度からジュール・トムソン効果を使って沸点まで温度を下げる方法をとっている。なお、予冷として液体窒素を用いる場合がある。

 現在の液化機は自動運転で安定的に液体ヘリウムを生成できる。なお、日本で最初に液化機が導入されたのは、東北大学の金属材料研究所のようである。

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