『低温物理実験技法』§2.ヘリウムのリークチェック法

§2―1. ヘリウムリークディテクター
 ヘリウムディテクターは、真空中のヘリウム分圧の変化から真空装置の漏れ(リーク)を検知する測定法である[1]。質量分析装置を用いることで、高感度にヘリウムの漏れを検知することができる。作業者のスキルに依存せずに、圧倒的な高感度・高精度に素早いリーク検査ができることを特徴とする。

 磁場偏向型質量分析法では、気体分子をフィラメントの熱電子により正イオンに変換し、磁場によるローレンツ力を利用することで気体イオンの質量に応じて軌道をわける。それにより4Heイオンのみ選択的に検出部の電極版に到着させることで、電気的に4Heの存在を検出できる。

 リークディテクターに一般にヘリウムガスを利用する理由は、
・ヘリウム原子は小さいので、非常に小さい穴でも透過する(検査できる)
・ヘリウム気体は不活性で、安全である
・空気中にヘリウム気体がほとんど含まれていない(5ppm)ので、どこにヘリウムリークがあるか正確に決定できる。(バックグラウンド信号が小さい)

 リークディテクターがリークを検出すると、音やディスプレイで知らせてくれる。特に音はディスプレイを見ていなくてよいので便利である。リーク箇所に近づくと音が大きくなるので、場所の特定が可能である。

§2-2.真空リークの原因
 以下の場所が原因となりやすい[1]。
① 溶接個所。不十分な溶接やひび割れ、腐食など。
② ロウ(はんだ)付けされた結合部。不十分である場合や、腐食。
③ Oリング。壊れているか、髪などが付着している場合。
④ インジウムシール。不十分な場合がある。
⑤ 接着された接合部。接着剤が剥がれたり、劣化することがある。
⑥ 金属にある穴。グレードの低い真鍮などにはあり得るようだ。
⑦ プラスチックなどの部品。ヘリウムが透過する場合がある。
⑧ 熱サイクル。室温ではリーク検出されないが低温でのみリークすることがある。その場合は何度か温度の上げ下げすると場所の特定がしやすい。
⑨ 超流動リーク。低温でヘリウムが超流動を示すと、粘性がゼロになるためリークが起きることがある。このリークが一番見つけづらい。

§2-3.リークテストの基本
 まずは簡単な場合を学ぶ。真空容器(Heクライオスタットなど)にフレキシブル配管ラインがつながっているだけの構造を考える。

 まずは配管ラインを真空引きする。リークディテクターが使えるレベルにまで(10^-3 Pa程度)真空に引く。普通のヘリウムリークディテクターは自動でこの作業をやってくれる。

 小さなリークでも検出できるようにリークディテクターの感度レベルを設定する。通常は、10^-6 Pa l/s がよい[1]。バックグラウンドが最大値を超えないようにレンジを調整する。バックグラウンドが大きすぎるときは、真空引きをさらに行う。乾燥した窒素ガスや空気で置換しながら真空引きするとより早く済むかもしれない。

 配管ラインにヘリウムガスを吹きかけていく。特に接合部分に注意を払う。もしリークディテクターの音が大きくなることがあれば、そこがリーク箇所と疑われる。細いノズルをヘリウムガスラインに取り付けて、より詳細にリーク箇所を調べていく。

 ヘリウムガスは空気より軽いので、ヘリウムガスは上に上がっていく。従って、上から下に向かってヘリウムガスを吹き付けていく必要がある。下から上にリークチェックすると場所の特定を誤る可能性があるので注意する。

§2-4.リーク箇所が大きい場合
 次に、リークが大きくて真空度がリークディテクターが使えるほど十分に引けない場合を考える。

 ヘリウムリークディテクターを真空ポンプと並列に接続する。真空ラインを荒引きし、少しずつリークディテクターにつながるバルブを開けていく。リークディテクターが使える真空度であることを確認し、リークチェックを行う。

 別のやり方として、水やアセトン、メタノールをリーク箇所に吹き付けて確認するやり方があるが、危険を伴うので推奨はされない[1]。行う場合はポンプのガスバラストバルブを開けて、オイルへのコンタミを防ぐようにする。アセトンやメタノールは可燃性であるので、大量に使わないように注意する。液体がリーク箇所に付着したときの圧力変化を検出することでリーク箇所が特定できる。

 また、加圧型のヘリウムリークディテクター(sniffer leak detector)も使用できるかもしれない。しかし、加圧することにより危険が伴うので常用は進められない。ヘリウム回収ラインのリークチェックには有効である。

§2-5.複雑な真空装置の場合
 複雑に組み合わされた真空装置のリークチェックの場合には、部品ごとにチェックするのがよい。外した部品を、規格の違う部品で一時的にシールするには、アピエゾンコンパウンドQが使用できる。ただし、室温のみしか使えない。

 低温装置も複雑な真空装置である。液体窒素でシールドされているタイプのヘリウムクライオスタットの場合、リークチェックは室温で行った後に77 Kでもテストしたほうがよい。通常は、77 Kで大丈夫であれば4.2 Kでも大丈夫である。

 このような低温装置の場合、リークチェックは、
①断熱真空層と大気
②液体ヘリウム貯蔵層と断熱真空層
③液体窒素層と断熱真空層
の間で行うべきである。

 まず、断熱真空層を真空引きし、リークディテクターを取り付ける。デュワーの外側にヘリウムガスを吹き付け、断熱真空層のリークを確認する。

 次に、液体窒素層および液体ヘリウム貯蔵層をロータリーポンプで真空引きし、ヘリウムガスで置換する。もし断熱真空層へのリークがあれば、リークディテクターで検出できる。

 なお、ベッセルが少し動いたことによりガスが放出されることがあるので、誤認に注意する。リークディテクターのチャートモニターを利用して記録しておくとノイズとの区別が容易である。

 室温でのリークチェックを終えたら、次に77 Kでチェックを行う。液体窒素をクライオスタットに入れて予冷をし、その後にヘリウムガスで置換してチェックを行う。

 温度を上げたときにリークディテクターが反応した場合には、金属表面にトラップされたガスが放出された可能性がある。そうでなくリークがちゃんと見つかった場合には、大体のリーク箇所を特定する。液体窒素をもう一度入れ、徐々にヘリウムガスを流して置換する。リークディテクターが反応したらヘリウムガスを止め、液体窒素のレベルを測定することでリーク箇所の高さがわかる。

 希釈冷凍機インサートが挿入しているなど、より複雑な場合も同様の手法で順にリークチェックを行う。複数の層をまとめてチェックしたり、順番を考えることで手間をなるべく減らすことを心掛ける。

§2-6.超流動リーク(スーパーリーク)
 超流動リークは、2.2 K(ラムダ点)よりも低い温度でのみ見られる。超流動は粘性がゼロのため、非常に小さな穴も通り抜けられる。

 この場合、リーク箇所の特定は非常に難しい。77 Kや室温に急激な昇温をすることでリークを検出できることもあるが、いつもうまくいくとは限らない。以下の手順で確認するのがよい。

① インジウムシールの交換
ウッドメタルの接合部の修理
③ はんだ付けされた部分の修理
④ 銀ロウづけされた部分の修理
⑤ 溶接個所の修理
⑥ 真空部品の交換

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