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そんなに、成長が必要なのか?

これは339回目。資本主義と民主主義を、あなたは信じますか? 守りたいと思いますか? では、豊かさの追求や、成長志向というものを、あなたは資本主義や民主主義の価値だと思いますか?

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これは、チェコの学者トーマス・セドラチェクの言葉だ。

「資本主義と民主主義の価値は、自由であり、成長などではない。」

彼に言わせれば、現代経済というものは、「躁鬱病」なのだそうだ。景気が良くなると(相場が上がると)調子をこき、悪化してくるとたちまち意気消沈する。

それでよいではないか。わたしは仕事柄、「成長」(利益成長率、成長株等々)という言葉を便宜的に使うが、あくまで方便である。実はまったく信じていない。

成長などというものはないと思っている。進化などというものも、言葉のアヤでしかなく、実はそんなものは無いと信じている。ただ、変貌しているだけなのだ。あるいは、循環しているだけなのだ。

セドラチェクは面白いたとえを使う。

「たとえば、古代ギリシャにポリュクラテスという王がいて、その王はあまりの繁栄と幸運を享受していた。しかし、あるとき予言者がやってきて、あなたは幸せすぎます、このまま続くと神々に嫌われてしまいますよ、と忠告され、自分が持っていた大事な指輪を海に捨てることにした。」

それで万事OKかと思ったら、その後漁師から献上された魚の腹のなかに、なんとその指輪が入っていた。結局彼は、たいへんむごい最期を迎えるに至ってしまった。

この寓話からわかるのは、人間というのは、やっぱり絶頂に達したときに、そこで恐怖感を覚えるんじゃないかということだ。そこで自動的に罪を覚えて、自分自身を罰してしまうのではないか。そういう視点から、経済のサイクルも説明できるんじゃないか。」

経済恐慌や、相場の暴落というものも、そういう視点で見ると面白い。

私たちが生きているこの文明では、自分を知ろうとするとき、自分で自分を定義するときに、どうも「消費」で定義している部分が強すぎる。カネがなければ何もできないという愚かな考え方、それが人間の本性だという。

コピーライトについても、面白い指摘をする。セドラチェクは、自分が書いたコンテンツを売る。それで収入を得ているのだ。そこには、コピーライトが存在する。大事なことだ。

しかし、それならそれを消費(読む)することができるカネを持っている人はいいが、持っていない人は自分のコンテンツを読んでもらう機会がない。

しかし、セドラチェクはみんなに読んでもらいたい。これは矛盾である。

いまどきなんでも権利であり、対価である。

大事なことには違いないのだが、そろそろ成長至上主義や成長マニアの病理から脱却しなければいけないのではないか、と彼は警鐘を鳴らすわけだ。

彼のマクロ経済学の非常にユニークなところは、従来の伝統的な計量経済学とは一線を画しており、「善と悪」、つまり倫理という原動力が経済を動かしている一つの駆動軸なのではないか、と指摘した点だ。

ガラパゴスか、それともグローバルか。ひところずいぶん日本でも論争が沸き上がったが、最近ではとんと聞かれない。

論争華やかりしころには、わたしなどは「なにがガラパゴスだ。グローバルでなければ生き抜けないではないか」と言っていた。

いまでも基本はそうだが、どうも最近、ふと疑念がよぎる。

以前もNOTEに書いたことだが、日本人が一番幸せだった時代の一つが江戸時代であったとすれば、完全なリサイクル社会であり、成長の「せ」の字もなかった260年間である。

インフレ率はゼロ。絶対平和。無駄が無く、大工は一日働けば、余裕で一か月暮らしていけるほど物価が安い。娯楽や遊興は、円熟を極め、明日を心配する必要の無かった時代。

それに比べて、わたしたちはなんと徒労の情熱に追い立てられた毎日を過ごしていることだろう。 

科学は進歩するだろう。技術というものは、どんどん工夫がなされていくだろう。しかし、経済(ヒト・モノ・カネの活発化と不活発化)には進歩などないのだ。

ただ循環だけは確かに存在する。科学的進歩が見せるとめどもない成長という幻想と、人間の経済活動の循環とは、まったく別物である。

どんなに技術的進歩が続いていこうと、経済活動は、必ず熱狂と恐慌を繰り返す。

成長を経済活動の目的としている限り、人間は幸福を手に入れることはない。

しかし、資本主義にしろ、民主主義にしろ、その大前提としているのは、そもそも物質的な幸福でもなければ、永遠の成長でもない。

どんなに不幸な環境に陥ろうと、経済が不況に落ちこもうと、自由さえ確保されてさえいれば、必ず苦境を脱することができるのだ。

やはりときには、歩くのを止めて、立ち止まったほうがいいのかもしれない。そうすれば、勝手に世の中が堂々巡りしていることがわかる。


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