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#033 経験を捨てることの重要性

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私が中小企業診断士の2次試験を受験する際、特に気をつけたことの一つに、「聞かれていないことに答えない」というのがあります。

何か施策を提案する際、「自分の経験(特に成功体験)」にこだわってしまい、与件文に書かれていない自分オリジナルの案を書いてしまうと、なかなか2次試験には合格できません。
また、こうした、自分の経験・成功体験にとらわれることなく、目の前の問題に素直に対応できることは、試験だけでなく、実際の実務においても重要なように思います。

診断士2次模試の模範解答を素直に読めるか

2次試験の1ヶ月前くらいになると、TACやLECといった資格校の直前模試が行われます。ほとんどの受験生がそのような模試を受験すると思うのですが、その模範解答の内容に、なんとなく納得いかないことが多々あるようです(自分もそうでした)。

特に、模範解答に書いてあるような施策を実際にやったことがあるが、自分の経験からうまくいかなかったことがある、とか、自分はもっと工夫してこんな施策をやって成功したことがある、といった感想を持ってしまい、「こんな模範解答は駄目だ、自分の回答の方が優れている!」と考えてしまう受験生も多いようです。

これ、とても危険です。

こうした考え方に陥ってしまうと、どうしても提案が独りよがりになってしまい、先方の社長さんが求めていることに対して素直な提案ができなくなってしまいます。
特に実務研修をやっていて感じたことですが、現場の意見や現状を無視して自分の成功体験を繰り返そうとしても、実際にそれを実行するのはかなり難しく、相手に刺さらない提案になってしまいます。

具体的な例として、過去の模試の模範解答に「事業の成長のために取引先と共有すべき情報は何か」という設問に対する「材料の原価に関する情報」というものがありました。
この回答に対して、「原価情報を取引先と共有することはあり得ない」「そんなことをしたら、自分たちが製造している製品の原価率が取引先にばれてしまうので、買い叩きの口実を取引先に与えてしまうことになる」という反論がかなりあったようです。

しかし、現実の中小企業においては、材料の原価を取引先と共有するような場面もあるようです。
例えば、取引先から経営支援を受けているような場合、取引先が積極的に材料の原価低減を手伝ってくれることもあります。取引先が大手で、その下請けとして経営を行っているような会社では、特にこうした傾向が強いようです。

こうした知識は、特に普段大企業に勤めている経験しか無いとなかなか理解しにくいように思います。私自身、診断実務を通じてやっと理解できるようになってきました。
大企業の従業員としての限られた経験が、逆に現実を見えなくしてしまうという例かと思います。

「経験」を「専門知識」にしていく

実際にお役に立てる診断士になるためには、自分個人の経験や知識を、「専門家としての知識」に育てていく必要があると感じています。

専門知識と経験は違います。専門知識は、自分の経験をより一般化したものである、と考えています。
自分の個人的な経験を、実際に役に立つ専門知識に変えていくためには、日々新しい知識を得て、学び直しを行っていくことが必要です。

この「学び直し」のことを、「アンラーニング」と呼びます。

「アンラーニング」と「リフレクション」

「アンラーニング」とは、これまで自分が学習してきた知識や、既存の価値観を意識的に捨て去り、新たに学習し直すことのことを言います。「学びほぐし」などと呼んだりすることもあるようです。

「アンラーニング」とは? - 『日本の人事部』
https://jinjibu.jp/keyword/detl/538/

この、アンラーニングに必要なのが「リフレクション」という行動です。
リフレクションとは、個人が、日々の業務や現場からいったん離れて、自分の積んだ経験を「振り返る」ことを言います。

このように、意図して自分の経験を振り返り(リフレクション)、そうした経験を一旦捨て去る(アンラーニング)することができれば、過去の自分の経験にとらわれずに、相手の問題をより広い視野でとらえることができるようになると思います。

これまでとは違うコミュニティに参加することの重要性

このアンラーニング、実際にはすごく難しい。そもそも、今自分が考えていることがどのくらい過去の経験に縛られているかを、客観的な視点で捉えることはほぼ不可能と言っても良いでしょう。

そうした中で、アンラーニングに有効な手段として「異なる業種や組織の人たちと交流を持つこと」を心掛けるようにしています。
たとえば診断士の実務補習。様々な業界・立場の方々と本気で議論することは、これまでの自分の経験をリセットし、より広い視野で物事を考えるための良い経験になりました。
他にも、転職経験のある人や、普段から社外のコミュニティと交流のある人は、考え方が柔軟で視野が広いように思われます。

自分の知らない世界を見ることで、自分がいかに物事を知らないかを知ることができます。この立場に立てるようになれば、より深い提案ができるようになるのではないかと思います。

まとめ。

(1) 中小企業診断士として診断先の企業様にご提案を行う際、これまで自分が経験してきた成功体験が、逆に視野を狭めてしまい、先方にとって役に立たない提案をしてしまうことがあります。
(2) こうした失敗を避け、本当に先方にとって役に立つ提案を行うためには、自分の「経験」や「個人的な知識」を一旦リセットし、「学び直し」によって「専門家としての知識」にアップデートしていく必要があります。こうした学び直しのことを「アンラーニング」と呼んだりします。
(3) アンラーニングのためには、「リフレクション」という作業が有効です。リフレクションとは、日々の業務や現場からいったん離れて、自分の積んだ経験を振り返ることを言います。アンラーニングやリフレクションを行うためには、異なる業界や部署の人と交流を持つことが重要です。意識して普段の仕事とは別のコミュニティに参加するのが良いと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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