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#056 プロマネのお仕事(本編6) - コスト・マネジメント(コストにもプロジェクトバッファの考え方を導入しよう)

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

本編6回目はコスト・マネジメント

# 051: 資源マネジメント
# 052: コミュニケーション・マネジメント
# 053: ステークホルダー・マネジメント
# 054: リスク・マネジメント
# 055: スケジュール・マネジメント
# 056: コスト・マネジメント ← 今回
# 057: 品質マネジメント
# 058: 調達マネジメント
# 059: 統合マネジメント
# 060: スコープ・マネジメント

コスト管理は旧来から管理されている「Q・C・D」のうちの1つなので、わかりやすい分野かと思いますが、プロジェクトの場合はその「独自性」のため過去の業務をベースにしてコストを見積もる事がどうしても難しいです。
結果、後から追加の予算が必要になることが多く、当初に予定していた予算内でプロジェクトが終了することは稀です。

「コスト・マネジメント」とは

PMBOKの10の知識エリアの中では上から4番目。

PMBOK_コストマネジメント

PMBOKでの定義は以下のとおりです。
「プロジェクトを承認済みの予算内で完了するためのコストの計画、見積り、予算化、資金調達、財源確保、マネジメント、およびコントロールを行うためのプロセスからなる。」
(PMBOK 第6版 p.24)

予算化、資金調達、財源確保、あたりは、いずれにしてもきちんとやらないとプロジェクトを進めることが不可能ですので、特に意識しなくても大丈夫なのではないかと思いますが、
・計画、見積り
・マネジメント、コントロール

あたりの進め方はプロマネによって変わってきます。
PMBOK で取り扱うプロセスも、このあたりのお話が中心になります。

PMBOKに書かれているプロセス

「コスト・マネジメント」に書かれているプロセスは4つ。

1. 「コスト・マネジメントの計画」
→ 2. 以降のコスト・マネジメントを、このプロジェクトではどう進めていくのかの計画を立て、文書化しておきます。
→ アウトプット文書: コスト・マネジメント計画書

2. 「コストの見積り」
→ 資源マネジメントの「アクティブティ資源の見積り」を参考にしながら、どれくらいのお金が必要になるかを見積もります。
→ アウトプット文書: コスト見積り、見積りの根拠

3. 「予算の設定」
→ 2. で作ったコスト見積りと、スケジュール・マネジメントの「スケジュールの作成」で作ったスケジュール・ベースラインをもとに、「どのタイミングでどれくらいのお金が必要になるか」を表現した「コスト・ベースライン」を作成します。
→ アウトプット文書: コスト・ベースライン

4. 「コストのコントロール」
→ 3. で作ったコスト・ベースラインと、実際に使ったお金の実績を比較して、差異をチェックし、必要に応じて原因の追及と改善を行います。

では、以下、これらのプロセスのうち、特に役に立ちそうなポイントについて解説してきます。

「予算の設定」 → 予備の予算を確保しておこう!

プロジェクトのコスト・マネジメントにおいて最もおこりやすいトラブルは、「後になって予算が足りなくなる」ことです。
プロジェクトは独自性の強い業務です。過去の実績が参考になりにくいため、どうしても計画時には無かった作業が見つかったり、一つ一つの作業が予定していた金額で納まらずに、最終的に予算オーバーになることが多いです。

こうした見積りの間違いはどうしても起きてしまうので、「承認済みの予算内で完了するため」には、あらかじめ予算にバッファ(余裕)をみておくことが重要です。
バッファの持ち方には、一つ一つの作業それぞれに対してちょっと多めに予算を積んでおく方法もありますが、経験上、スケジュール管理の際に紹介した「クリティカルチェーン法」に出てきたアイデアを予算にも応用することをおすすめします。
つまり、ステークホルダー、および、プロジェクトマネージャの裁量で使用することのできる予備の予算を、個々の作業とは別枠でまとめて用意しておく方法です。スケジュール管理の際に、大きなマイルストーンの前にまとまったバッファ(プロジェクトバッファ)を用意するのと似ています。

ちなみに、これらの
「ステークホルダーの裁量で使うことのできる予備」「マネジメント予備費」
「プロジェクトマネージャの裁量で使うことのできる予備」「コンティンジェンシー予備費」
などと呼んだりします。それぞれ、ステークホルダー(偉い人)のお財布、プロジェクトマネージャのお財布、を用意しておき、予備のお金をその2つのお財布にちょっと余分に入れておくイメージです。

実際の現場では、「その作業でオーバーしそうなお金は、私(プロマネ)の財布から出しましょう」とか、「もう私(プロマネ)のお財布は空っぽなので、社長のお財布から出してもらえるように交渉してみます」といった会話がよく聞かれます。

「予算の設定」 → ざっくりで良いので、費用の発生時期を計画しておこう!

コスト・ベースライン(作業スケジュールを元に、どれくらいのお金がいつ必要になるかをカレンダーにまとめた表)は、もちろん作るに越したことはありませんが、何月何日にいくら費用が発生する予定、といった詳細なスケジュールを立てるのは面倒だし、現実的でもないと思います。
とはいえ、いつお金が出ていくのか全く把握できていない状況も、それはそれで問題です。

ここでは、ざっくり1年を3ヶ月で4分割して、その4分割(四半期、とか、クォーター、とか呼んだりします)単位で、いつ・いくらのお金が出ていくかの支出計画書を作成することをお勧めします。
最低限それだけの情報があれば、資金繰りを考える上で大きな問題になることは少ないと思いますし、期末で利益を圧縮したい場合にも、どの作業を前倒しで行えば良いかの検討もしやすいと思います。

「予算の設定」 → 外注との契約は適切な大きさで行おう!

外注さんに対して、試作品の開発や、Webサイトの制作、スマホアプリの開発などをお願いする場合、一連の作業全部をまとめて発注するのではなく、開発をいくつかのフェーズに区切り、適切な大きさで契約することをお勧めします。
例えば、スマホアプリの開発を依頼する場合は、「画面設計」「iOS版開発」「Android版開発」「テスト」などのフェーズに区切って契約することで、予算の使い方が明確になりますし、作業が遅れた場合の対応もとりやすくなります。
契約の大きさとしては、概ね、3ヶ月以下にすることが多いように思います。

「コストのコントロール」 → 工数メトリクスをつけよう!

プロジェクトを管理していく上でコスト面で曖昧になりがちなのが、社員の人件費をどのようにプロジェクトに割り振るか、という問題です。

一般的に中小のプロジェクトでは、メンバーがそのプロジェクトの他に本業の仕事を抱えていることが多いと思います。
その場合、人件費は本業の方ですべて計上し、プロジェクトの費用としてはカウントしないことも多いのですが、それではそのプロジェクトにかかったはずの本来のコストがわからず、未来のプロジェクトの投資判断の材料に使えなくなってしまいます。
面倒な作業なのでなかなか実際に行うのは難しいのですが、メンバーの工数(その日にどういう作業をどれくらいの時間行ったか)を管理するツールを導入し、それぞれのプロジェクトに対してどれくらいの工数が発生したかが見える化できると良いと思います。

工数管理ツールとしては私の知る限りデンソークリエイトさんの以下のツールが最も優れていると思います。プロジェクトの規模にかかわらずお勧めです。

工数管理・プロジェクト管理ツール【TimeTracker NX】
https://www.timetracker.jp/

まとめ。

(1) 「コスト・マネジメント」とは、プロジェクトを予め承認された予算内で完了させるための一連の活動のことです。プロジェクトは独自性の高い業務のため、過去の経験が役に立たないことが多く、最終的に予算を超過してしまうことが多いです。

(2) 予算を超過しないようにするためには、ステークホルダー権限で使用できる「マネジメント予備費」と、プロマネ権限で使用できる「コンティンジェンシー予備費」を、プロジェクト開始時に計上しておくのが良いと思います。なんらかの作業で追加のお金が必要になった場合、まず「コンティンジェンシー予備費」から、それでも足りなくなった場合には「マネジメント予備費」から補填します。

(3) 予算策定時には、ざっくりで良いのでどのタイミングでどれくらいのお金が出ていくかの支出計画書を作成しておくと良いでしょう。余り細かくしすぎず、四半期(3ヶ月単位)で管理できれば実用上は十分かと思います。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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