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#040 幕張メッセのライブイベントの事例から、中小企業のAI導入について考えてみた

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こんにちは。中小企業診断士の多田と申します。

先日11月21日から24日の4日間、幕張メッセであるライブイベントが開催されました。

EXPERIENCE Vol.1 - Yahoo!チケット
https://ticket.yahoo.co.jp/special/y_experience/

このイベントが特徴的だったのは、日本で初めて音楽イベントのチケット価格に「ダイナミックプライシング」を導入したことでした。
今日はこの日本初の取り組みを起点に、中小企業にAIを導入する際の留意点についてまとめてみたいと思います。

「ダイナミックプライシング」とは

ダイナミックプライシングとは、ある商品やサービスの価格を、需要と供給の状況に合わせて変動させる仕組みのことを言います。
身近なところだとスーパーの食品売り場。閉店間際になると値札シールが貼り替えられて値段が安くなる、なんてのもダイナミックプライシングの一つだと思います。

最近特にこのダイナミックプライシングが注目されているのは、AIを導入することで、これまで価格を動的に変動させることが難しかったサービスにも応用され始めているところだと思います。

代表的な例が、上で紹介したライブイベントです。
お客さんは、このイベントのチケット購入サイトに行くと、同じ席であってもアクセスするタイミングによってその都度異なるチケット代金が提示されたようです。

今回のイベントの反響

さて、今回のライブイベントにおけるダイナミックプライシングですが、正直、良かった点よりも問題点が目についたイベントになってしまったようです。

同等チケットなのに約1万円の差…音楽イベントで採用された「ダイナミックプライシング」とは - FNN.jpプライムオンライン
https://www.fnn.jp/posts/00049129HDK/201911261238_MEZAMASHITelevision_HDK
このイベントでチケット発売直後に2階スタンド席を1万4800円で購入した男性が、イベント間近に同じような席の価格をチェックしたところ、1万円以上もの差がある3900円だったという。
音楽イベントに行った男性:
自分のすぐ近く(のチケット)がいくらぐらいなのかと見た時に、3分の1くらい。こういうことが起こるかと…もう笑うしかなかったっていうのが事実ですね。最初が高すぎたのでみんなが敬遠しまくって、これだけ値段が下がっていった感じですよね。早いもの負けでしたね。

確かに、自分の購入した値段よりも1万円も安い値段でチケットを買った人がすぐそばにいたとしたら、ちょっとテンション下がってしまうかもしれません。

ダイナミックプライシングが上手く機能している例

一方で、同じようなイベントでも、ダイナミックプライシングが上手く機能している事例も存在します。
有名なのは、早期にチケット価格にダイナミックプライシングを導入したJリーグ横浜Fマリノスの事例でしょうか。

売り上げ1割増! 横浜マリノスが“価格変動制”チケットを初導入 - FNN.jpプライムオンライン
https://www.fnn.jp/posts/00345620HDK
今回、球技場の4分の1にあたる指定席に導入した結果、観客動員数が、目標の1万人超えとなったほか、売り上げも通常の約1割増しとなった。
永井氏は、「収容人数が多いスタジアムにとっては、お客さんを増やすことができる1つのシステムだと思っていますし、転売サイトで買ってもメリットがないような状態を作れるのではないかと考えています」と話す。

ちなみに、この横浜Fマリノスの事例では、導入当初は一部の席種のみでしたが、2019年シーズンから全ての席種においてダイナミックプライシングが導入されています。
人気のある試合に関しては、多少価格が高くなっても本当にその試合を観戦したい人が確実にチケットを購入できる、空席のできそうな試合に関しては、安い値段にすることで普段余りスタジアムに行かない人が気軽に観戦できるようにする、などの良い効果が出ているようです。

ダイナミックプライシングの今後について

このダイナミックプライシング、今後様々な分野に導入されていくと思われます。

例えばコンビニのお弁当。一般的なフランチャイズ店では店独自の値付けをすることはできず、賞味期限を切れたお弁当などは廃棄するしか無かったのですが、今後は、賞味期限間近の商品を安く売ることで食品廃棄ロスの減少に繋げることができるのではないかと思います。
また、新幹線や高速道路などの交通機関の運賃を繁閑に応じて変えることができれば、年末年始の混雑が平準化されてより快適に移動できるようになるかもしれません。

AI で重要なのは、いかにデータを集めることができるか

さて、これら AI を使ったダイナミックプライシングですが、なぜ今回のライブイベントでは同じ席種で1万円も価格が異なるような事態になってしまったのでしょうか?
おそらく、最も大きな理由を一言で言うと「今回のイベントが初めてだったから」なのでは無いかと思います。

AIというのは、その計算方法を決める「アルゴリズム」と、計算の元になる「データ」の2つで構成されます。
近年、「アルゴリズム」の方はかなり研究が進み、またその研究結果を無償で公開するような取り組みも進んでいるため、かなり高度なアルゴリズムを誰でも自由に使うことができるようになってきました。
その結果、AIビジネスのポイントは、「いかにそのビジネスに使えるデータをたくさん集めることができるか」に移ってきています。
例えば、写真を見せて犬か猫かを判定するようなAIを作りたい場合、重要なのは、その写真データをどういう手順で計算処理するかでは無く、「いかに犬と猫の写真をたくさん集めることができるか」に移ってきています。
Googleなどの会社は、Web上の写真やYouTubeにアップロードされた大量のデータを、AIを進化させるためのデータ(学習データや教師データなどと呼びます)に活用しています。

今回のライブイベントでは、その価格を提示するのにAIが必要とするデータ、例えば、
・それぞれのアーティストのファンは、このイベントに対していくらくらいのお金を払いたいと思うか
・アリーナ席と2階席で、お客さんはどれくらいの価格差なら妥当だと考えるか
・いくらまで値段が下がればそのチケットを買いたいと思うか

などのデータが不足していたのではないかと思います。

しかし、悪いことばかりではありません。
今回の興行主さんは、今回のライブイベントを通じてこれらのデータをたくさん取得することができたはずです。今回取得したデータを使えば、次回同じようなイベントを開催する際には、より適切なチケット価格をダイナミックに提示することができるようになっていると思われます。

AIは、データが集まることによって進化します。
データを集める → AIが進化する → 別のイベントにも使われるようになる → もっとデータが集まる → もっとAIが進化する
といった好循環が生まれると、そのAIの進化とビジネスの拡大が実現できます。

こうした状況を踏まえると、このようなイベントは最初はあまりうまくいかないかもしれませんが、あえてそうしたリスクを受け入れ、他社よりも先にこうしたビジネスにトライしていくことの重要性が見えてきます。

中小企業がAIを導入するにあたって考えておくべきこと

前回のnoteでも書きましたが、今後は、中小企業においても、製造現場や小売店、営業などの現場で AI の導入が進んでいくと予想します。
その場合も、AI を導入することそれ自体はそんなに難しくなく、
・AIを使って何をしたいのか
・AIを使うためのデータをどうやって集めるのか

がポイントになってきます。
このあたりのサービス設計がきちんとできるかどうかが成否を決めるように思います。

自社だけでデータを集めることが難しいのであれば、同業他社で協力して、データを集めることも必要になってくるでしょう。
また、せっかく集まったデータを当初の目的だけに利用するのではなく、何か他のビジネスに展開することで更なる収益向上を目指すことも検討すべきだと思います。

まとめ。

(1) 「ダイナミックプライシング」とは、需要と共有に応じて、モノやサービスの価格を動的に変更する仕組みのことです。近年、スポーツイベントのチケット価格などに導入され始めています。

(2) ダイナミックプライシングの価格決定には AI 技術が活用されていますが、AIによる価格決定を上手く行うためには、その元になるデータをたくさん集める必要があります。何らかの分野にAIを導入する場合、他社に先駆けて運用を開始することでより早くデータを集め、集まったデータを使ってAIの精度を高めていく、という正のスパイラルを回すことが重要です。

(3) 今後、中小企業においてもAIの導入が進んでいくと思われますが、やはり、どうやってたくさんのデータを集めていくかが重要になります。場合によっては、同じ業界の同業他社で連携してデータを集めることも必要になるでしょう。また、集まったデータを当初想定していた目的だけに利用するのではなく、何か他のビジネスに活用して更なる収益向上を狙うことも検討すべきです。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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