アメリカの絶望死

「平均余命は富裕な国々のなかで最低です。データを詳しく分析したところ、1990年代後半以降、薬物、自殺、アルコール性肝疾患による死亡率が、特定の社会層で上昇していることがわかりました。大学の学士号を持たない人々でした。私はこの広い意味で自死と呼べる死を、絶望がもたらした死と名付けました」(ノーベル賞経済学者のアンガス・ディートン氏へのインタビュー)https://www.asahi.com/articles/ASP9P3JLDP9FUPQJ004.html

さらに次のように述べる。
「米国の経済成長は、大卒層の一部にこそ成功をもたらしましたが、非大卒層には何ももたらしませんでした。非大卒の良い雇用は減り続け、賃金の中央値は半世紀以上も下がり続けています。土地や株式など資産の保有比率は90年代半ばまで大卒と非大卒で半分ずつ分け合っていましたが、今は大卒が4分の3を保有しています」

「非大卒は結婚もしにくく、子どもを持つ場合でも未婚で産み、ひとり親で育てなければならないケースが多い。見逃せないのが、心理的、肉体的な様々な『痛み』を訴える声が増えていることです。彼らが精神的なよりどころを失い、人生がばらばらに砕けていく感覚に陥った時、ましな選択肢として選ばれたのが薬物でした」

 アメリカでは黒人の平均余命がスリランカやインドのケララ州よりも低いということはアマルティア・センがしばしば言及してきたことである。それが今では白人の低学歴層にまで広がっているということである。
 社会に絶望した人たちが支持したのがトランプだった。トランプが記者会見をするとき、後ろにヘルメットをかぶった労働者が控えていた。トランプは労働者を味方にし、根強い支持を受け、いまだに影響力をもっている。
 問題は、ディートンらが主張する絶望死の問題をどのようにして解決していくかである。単にお金をばら撒くというだけでは済まない問題である。
 格差の問題は、単に所得の問題ではない。社会の分断が絶望死をもたらしているとすれば、社会の分断を修復する政策が求められる。

 今の日本も同じような状況にある。日本の選挙でこの点がどう論じられるのか注目したい。

(参考文献)
アン・ケース 、アンガス・ディートン (著)『絶望死のアメリカ――資本主義がめざすべきもの』 松本裕 (翻訳)  みすず書房  2021/1/1

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