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VR体験は人を饒舌にさせるという発見――VR体験会レポート

「VRは体験してみないとわからない」ということを常々考えている。ここはひとつ、身の回りへの普及の第一歩として自ら体験する場を設定してみてはどうかと思い実践することにした。
しかしせっかくやるならただ遊ぶだけではもったいない。体験を通じて「欲しくなるかどうか」を調査してみよう。きっとみんな欲しくなるはずだ! ……そう思っていたのだが、思ったような結果にはならなかった。

けれどそこには、「体験すると饒舌になる」という発見があった。

1.体験会を成功させるために考えたこと

今回開催するVR体験会は初めての試み。細かな失敗があったとしても、参加者のみんなにせめて快適な体験をしてもらえれば成功だと信じ、いくつか下準備をした。

①VR体験の可視化
VRを体験するとき、一番退屈なのはおそらく待ち時間だろう。TVゲームであれば一つのモニタを複数人で見ることができるので、遊んでいない人もゲームプレイヤーに共感して楽しむことができる。しかしVRデバイスはゴーグル型なので、周りの人には何が映し出されているのかわからない。
そこで今回は、VysorというPC用アプリを使用することにした。アプリをダウンロードしたノートPCをVRデバイスと大型液晶モニタにケーブル接続することで、VRデバイスの映像を参加者全員が共有できるようにしたのだ。
参考にしたサイト:ミラともVR:Oculus GoをPC画面に表示したい!パソコンに接続する方法とは

②VR基礎講座
いきなりのVR体験。もちろんそれでも十分楽しめるとは思ったが、せっかくなら正しい知識をつけてから挑んでもらいたいと思いプレゼンテーション資料を用意することにした。
VRとはそもそも何なのか、歴史は、デバイスにはどんな機種・価格があるのか。そんな内容を20枚の資料に詰め込み、体験前に説明することにした。
最も参考にした書籍:とことんやさしいVRの本

なお会場選定には貸し会議室予約サイトを利用。ある程度の広さが確保でき、モニタ/スクリーンへの映像出力ができる部屋を予約してみた。新宿駅近くの好立地にもかかわらず、価格は1,500円/1時間に抑えることができた。
貸し会議室予約サイト:スペイシー

体験するVRデバイスは性能の違う2機種(Oculus Go、Oculus Quest)を用意。アプリは、絵画に入れる『Art Plunge』、Quest用チュートリアル『First Step』、癒し空間に入れる『Nature Treks VR』、一番人気の音ゲー『Beat Saber』の4種類をプレイすることにした。

2.「現実が色あせる」ほど楽しくてもすぐ買うほどではない――理由はキラータイトル不足

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今回の参加者はいずれも今回が初めてのVR体験という3人。はじめての体験ということもあり皆驚きが大きいようで、休憩中に出てきた言葉「現実が色あせて見える」は印象的だった。
特に人気だったのが『Art Plunge』。2次元の絵が3次元に変化するという、VRならではの体験が一様に衝撃的だったようだ。

体験会後は感想を聞く時間を設けた。そこで最初に聞いたのが「欲しい気持ちに変化はあったか?」だ。
以下①~⑦はこちらが用意した選択肢。体験前にも同じ選択肢から選んでもらい、同様に聞くことで気持ちの変化を確認しようとしたのだ。

①すぐにでも買いたい
②すぐではないが近いうちに購入予定
③価格が下がれば購入したい
④将来的にはいつか買うかもしれない
⑤欲しい気持ちはあるが、お金を出して買うほどではない
⑥欲しくない
⑦わからない

ここで一様に変化が出れば実験としてかっこよく収まるのだが、現実はそうもいかなかった。3人の結果はそれぞれ④→④、③→③、⑤→③。大きな変化が生まれたのは1人のみという結果になった。
変化がない理由を聞いてみると、「やりたいソフトがない」「デバイスばかりPRされていてソフトが前面に出てこない」。変化があった1人も「キラータイトルさえあればすぐ買うかも」という答え。

欲しくない理由として想定していたのは「価格」や「酔う」、「見た目が悪い」といった本体の性能に依存した答えだった。それが一様に「キラータイトル不足」を指摘してきたのは意外な結果に思えた。
けれどよく考えると意外でもなんでもない。やりたいソフトなど気にせずとりあえずデバイスを買ってしまう、自分のアーリーアダプター気質をすっかり忘れており、すっかり盲点になっていた。「キラータイトル不足」は明らかに今のVRの課題なのだろう。

3.VRは人を饒舌にさせるという発見

欲しい気持ちにあまり変化がない、という結果で終わるのも面白くない。そこで少しでも感想を聞こうと思い水を向けてみると……3人とも溢れる言葉が止まらない。感想戦は30分ほどを想定していたのだが、結局1時間半のあいだ話題が尽きなかった。

特に話題が膨らんだのがVRの発展によるビジネスの変化について。
「VRの臨場感は遠隔会議はもちろん、教育面などいろんなテレプレゼンスのレベルを上げるんじゃないか」
「歌舞伎みたいな伝統工芸は2次元の撮影じゃなくて、今後は3次元の保存を考えるべきじゃないか」
「ライブ会場へ行かずに最前列で見られる時代が来るのではないか」
「スポーツの練習風景がきっと一変するに違いない」
「Youtuberはいつも隣にいるような親密感を提供できるかも」「でもそれって人権問題に発展しないか?」
「VRから出てこない人が出てくるかも」「VR内で仕事ができればいいんじゃない?」「そしたら企業がVR内に広告を出すようにもなるはず!」
こういった思いもよらない提案が次々と展開。
その他にも、遊んでみたいゲームや将来の形状など、VRの将来を見据えたポジティブな会話が止まらなかった。

実はこの日一番面白かったのは、この感想戦だった。もっと大きなディスカッションを行えるよう、次はもっと人数を増やしたり、ソフトラインナップに変化を加え、また体験会開催を企画してみようと思う。


今回の体験会は、意図していた購買意欲を湧かせることはできなかった。
けれどはじめてのVR体験は意識の変化を起こし多くの発想を喚起して人を饒舌にさせる。この発見があっただけでも、大きな収穫だ。







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