【声劇台本】声を知るもの

ジャンル:SF

登場人物
男A
男B
男Aの夢に出てきた女性(台本上分けていますが、男Aと同じ方が演じてもあまり違和感はないと思います)

本文

男A:今日はお前に贈り物があるんだ。
男B:何だ、そんなに改まって。
男A:この箱を開けてみてくれ。
男B:大きいな。人一人くらい入れてしまいそうな箱だ。
男A:きっと驚くぞ。
男B:わかった。これは……人? いや、女性型のアンドロイドか……?
男A:ただのアンドロイドじゃない。……聞くか?
男B:まあ良い、聞かせてもらおうじゃないか。
男A:感謝するよ。さぁ、始めよう。これは、俺が見た夢の話だ。夢に一人の女性が現れてな。俺に向かって、こう言うんだ。
女性:私は辺境惑星のスクラップの山の中で、遠くの恒星からの僅かな明かりを頼りに生きておりました。
私は毎日赤茶色の荒野を眺めながら、使われるかどうかわからない状態にありました。このまま朽ちてゆくのみかと思ったのですが、運良く優秀な技術者の方に見つけていただき、こうしてロボットの姿を手に入れました。ほとんど再利用されたパーツでできているので、あまり質は良くないかと存じますが、立派なオーナー様の元で働けることを願っています。
男A:それで俺は彼女に言ったんだ。「貴女のような志があれば、きっと素敵なオーナーが愛用してくれますよ」とね。……とまあ、このような夢を見てな。そのあと、なんと夢に出てきた女性そっくりのアンドロイドを見つけたんだ。これは運命だと思ってたまらず購入し、お前に送り届けたというわけだ。素敵な話だろう?
男B:それはまた。しかし、このアンドロイドは何に使うモノなんだ?
男A:歌唱用だ。歌を聞かせるために作られている。人間の声をベースとしない、完全な人工音声でな。
男B:歌唱用か。あまり聞かないな。
男A:ああ。やはり声、特に歌声は人間の肉声が優勢だ。このアンドロイドの開発者は、予算を声に回すためにパーツをスクラップの山からかき集めたらしいぞ。
男B:なるほどな。して、どうしてこのアンドロイドを私に?
男A:それは、お前ならこの歌声を理解して、良さをわかってくれると思ったからさ。他ならぬ、親友のお前にね。
男B:本当にそれだけか?
男A:おいおい、友人を疑う気か?
男B:言い方が悪かったな。謝る。
男A:それで良い。……ところで話は変わるが、俺は来月から、あの鋼鉄で出来た遠くの惑星に赴任になる。当分、帰っては来られないだろう。
男B:そんな辞令があったのか。
男A:ああ。今や宇宙連邦の政府は、一部の人間が権力を独占している。これでは、人類が地球にいた頃と何も変わらない。だが、抗う術なんてありはしないんだ。俺は政治上の争いに敗れ、左遷される。それだけだ。
男B:それを、なぜ私に?
男A:そんな悲しそうな顔をしないでくれ。何も死にに行くわけじゃないんだ。ただ——
男B:ただ?
男A:もしも俺が帰ってこなかったら、そのアンドロイドを形見にしてほしい。
男B:そんな縁起でもないことを。
男A:分かっている。俺はこんなところで終わることはしない。ただ、最悪を想定せず事に臨むことはしたくない。
男B:……。
男A:そのアンドロイドに、なぜかとても共感したんだ。一度は辺境に打ち捨てられたスクラップでも、何かの役に立つかもしれない。不思議とそう思えたんだ。だから、そのアンドロイドを俺だと思って大事にしてくれ。頼む。
男B:頭を下げないでくれ。わかった、大事にする。だから、君も体に気をつけるんだぞ。
男A:当然だ。
男B:何かあったら、すぐに連絡してくれ。私が出来ることなんて少ないかもしれないが……。
男A:恩に着る。
男B:君が打算で私に近付いたわけではないこと、私はよく知っている。君は、私の親友だからな。
男A:お前のそういう顔、何度見ても飽きないな。まあ、しばらく見られなくなるが。
男B:私の預かり知らぬところで死んだら許さないぞ。君はこの星に戻ってきて、私の右腕になってもらわねば困る。
男A :俺を右腕に……? 何をする気だ。
男B:私は今でこそ父や兄たちの補佐をしているが、無論今の地位にいつまでも甘んじているわけではない。私はいつか、兄たちに勝ってみせる。そして、この宇宙の変革を成し遂げてみせる。そのためにも、君が必要なんだ。
男A:俺が……?それはまた、随分と買い被ってくれたものだ。
男B:素直に褒められていれば良いものを。とにかく、今はまだ足場を固めている時期だ。 だがいずれ、そのときはやってくる。私は、君と二人なら成し遂げられると信じている。
男A:本気なんだな。
男B:私は冗談を言わない。
男A:その目、大学で出会ったときと変わらないな。
男B:君もな。このアンドロイドは、私がありがたく貰っておこう。
男A:大切にしてやってくれよ。未来の大統領。
男B:君が戻ってくるまで、歌声を聴いて楽しむさ。



初心者が書いてるので、あまり滑らかでないところもあるかと思いますσ(^_^;)
声劇台本は他にも2作品ほど書いてみたのですが、ひとまず本作品のみアップします。どなたか使ってくださったら泣いて喜びます。

この作品は、万葉集810〜812番歌、及び大伴旅人と藤原房前の間で交わされた書簡文のパロディです。後半はほぼオリジナルですが……。
古典文学をSFに翻案した作品をずっと考えていたのですが、ようやく形にすることができました。お楽しみいただけたら幸いです。