おんべこちゃ  その1

おんべこちゃ   その1


富田林に住む祖母は我が家に来るたびにこう言った。
「道子、あんたはおんべこちゃだすなぁ。あんたみたいな子は笑いなはれ。笑ろたらどうにでもなりまっせ」。
そう言いながら手持ちの袋から瓶を取り出して、丁寧に私の顔や手に乳液をこすりつけた。 


「おかあちゃん、おんべこちゃって何や?」5歳の私は祖母が帰ってから聞いたものだ。人を誉めるということをしない祖母が苦手だった私は母に聞いたのだ。その都度、母は笑いながら優しく言った。
「可愛い、言うことや。低い鼻と小っちゃいお目目が可愛いということや」。私は嘘やとおもった。


道子は、口数が少なく人の悪口を言わない母が好きだった。だが、そんな母はあっけなく亡くなった。腰が痛いと言ったかとおもうと、二カ月後には道子の前から姿を消した。病名はスキルス癌。中学生二年だった道子と高校三年だった兄の貴志を遺し、家事ひとつできない夫忠雄を茫然とさせた。