中国におけるMaaSの課題と知財情報
見出し画像

中国におけるMaaSの課題と知財情報

  近年、中国の交通業界でもMaaSの発展が進んでいる。MaaSのコアコンセプトは「一键一站一票」(1回の注文、ドアツードア、1回の支払い)に集約される。この基本コンセプトを実現するためには、あらゆる交通手段を組み合わせて「統合された」交通システムを形成する必要がある。

1. 現在のMaaSシステムの概要

  現在、世界で普及しているMaaSシステムは、次の2つのモデルに分けられる。

  市場主導型モデル。市場の需要に基づいてプラットフォームが形成され、サプライヤーはプラットフォームからサービスを調達して消費者のトリップチェーンに提供する。このモデルは初期段階では開発しやすいが、プラットフォーマーとサプライヤーと間で競争が形成され、市場の混乱を招きやすい。

  政府主導型モデル。政府が有能なMaaSプラットフォームと契約を結び、そこへ交通機関の運行データを提供する。政府はプラットフォームからサービスの提供を受け、そのプラットフォームを定期的に評価するための指標を設定している。

  こうした2つのモデルが機能すると、政府の規制を通じてモビリティサービスの公平性と質を確保し、都市交通の秩序ある発展を導くことができる。海外のMaaSプラットフォームは市場主導型が多く、中国国内のMaaSプラットフォームは政府主導型が多い。例えば、北京、深圳、広州でMaaSの導入を検討した当初は、交通情報の全体的な統合を図った。

2. 中国国内のMaaS普及における課題

  MaaSの普及において最大の問題は、異なる事業体間の利害調整である。

モビリティの統合にあたり、あらゆるタイプのモビリティモデルを運営している数多くの利益団体の存在を考慮する必要があるが、これらをいかに効果的に統合するかが大きな問題となっている。現在、交通移動の分野には、主に都市交通(航空、鉄道、水上、高速道路)、都市交通(地上バス、鉄道、レンタル、サイクリング、小型車)の計9つの移動手段がある。各移動手段には、数十社の運営サービスプロバイダーが存在している。タクシー業界では、例えば、北京には合計275社のタクシー会社があり、そのうち11社がタクシーオンライン予約プラットフォームを運営している。

地下鉄とバスの間でアプリをシームレスに使用できる都市はわずかで、都市をまたいで決済を行えるところはほとんどない。地下鉄とバスの間の乗り換え割引を実施しているのは10都市のみで、こうした割引は従来のバスのICカードに限られており、複数の交通手段の相乗的な発展を促すことは困難である。

MaaSの出現により、モビリティとはもはや地点から地点への単純な移動ではなく、消費とサービスのアップグレードであることが映し出された。このトレンドは間違いではないが、このビジョンの実現は容易ではない。MaaSには多くの利益団体が関与しており、政策や法令、制度やメカニズム、信用システム、標準や規範、セキュリティやプライバシー、性能評価、発展の方向性などの面で、多くの課題に直面している。これを解決するためには、公共交通の重視、統合と接続の強化、標準化、安全性の確保、高齢者の移動への配慮などが必要であると言われている。

画像4

3. MaaS関連の特許出願状況

  上記が現在の中国国内におけるMaaSを取り巻く状況であるが、さまざまなレイヤーからの企業が、MaaSの次なるプレイヤーを目指し、関連特許出願を活発に行っている。世界の状況をみると、MaaS関連の特許出願は米国と中国から多く出願されている。特に、以下にある2021年4月30日公開の特許庁のレポートの中国から日本への出願をみると、公共交通機関であるバス、タクシー、鉄道に関する出願件数が多くなっており、マルチモーダル関連の技術区分では、中国の出願件数が最も多くなっている。

特許庁グラフ

https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210430004/20210430004.html

  本noteでは、こうした中国におけるMaaS関連の特許出願状況を簡易的に分析し、どのような企業から多く出願されているかを調べた。

  MaaS関連の特許を抽出するにあたり、中国特許庁が提供しているデータベース「PSS-system」で、IPC分類には主にG06Q、H04L、H04W、B60L(これらの小分類)を設定し、キーワードには主に、車両などの移動体に関するものや、传感器、认识、驾驶辅助、远程监控、智驾、车载、出行即服务、移动即服务、支付、认证、界面、应用软件、物联网、共享、车辆分配、打车、停车、地图、无接触、车辆位置、GPS、导航、推荐、车辆调度、交通流量、驾驶辅助、远程监控などを設定した。いくつかのパターンを作って検索を行い、出願件数が多かった企業を以下にいくつか紹介する(順不同)。

北京嘀嘀无限科技发展有限公司
阿里巴巴集团控股有限公司
ALIBABA GROUP HOLDING LTD
支付宝(杭州)信息技术有限公司
腾讯科技(深圳)有限公司
北京百度网讯科技有限公司
百度在线网络技术(北京)有限公司
广州羊城通有限公司
青岛海信网络科技股份有限公司
福特全球技术公司
北京三快在线科技有限公司
宁波轩悦行电动汽车服务有限公司
北京交通大学
西安艾润物联网技术服务有限责任公司
平安科技(深圳)有限公司
国家电网公司
北京派瑞根科技开发有限公司
维萨国际服务协会
苹果公司
華為技術有限公司
东南大学
北京交通大学
华南理工大学
同济大学
西南交通大学
北京航空航天大学
中南大学
丰田自动车株式会社

4. 嘀嘀出行(DiDi)から出願されているMaaS特許

  上記のうち出願件数がとりわけ顕著であった嘀嘀から出願された特許のうち権利化されている特許を最新のものからいくつか紹介する。

CN111523933B 一种下单概率预测方法、装置、电子设备及可读存储介质
(注文の確率を予測する方法、装置、電子機器、および読み取り可能記憶媒体)
CN111324824B 一种目的地推荐方法、其装置、电子设备及可读存储介质
(目的地推薦方法、その装置、電子機器、および読み取り可能記憶媒体)
CN111178558B 网约车订单处理方法及装置、计算机设备和可读存储介质
(タクシーオンライン予約の注文を処理する方法および装置、コンピュータ装置、ならびに読み取り可能記憶媒体)
CN110718088B  公交运行状态监控方法及装置
(公共交通機関の運行状況を監視する方法および装置)
CN108629504B 为用户提供出行服务的方法及装置
(ユーザーにモビリティサービスを提供する方法および装置)

5. 百度(Baidu)の特許出願と新サービス

  また、百度は現在、クラウドサービス、AIソリューション、インターネットの継続的な統合の流れの中で、「百度スマートクラウド」は、差別化された「クラウド統合」の競争優位性を形成し、飛躍的に成長している。IDCレポートによると、百度スマートクラウドは、AIクラウド市場において、画像、動画、NLP(自然言語処理)、人体認識など、あらゆる分野で3回連続1位を獲得している。

  2020年、百度スマートクラウド市場の影響力は、輸送、工業生産、金融などの業界で増大し続けた。インテリジェントトランスポーテーションの分野では、百度は広州とのプロジェクトの第一段階を終了し、世界初の自動運転モビリティサービスプラットフォームであるMaaSをローンチした。ユーザーは「百度地図」と百度のアプリを通じて自動運転移動サービスを予約することができ、政府の交通当局も細緻化された交通管理を実現することができる。

百度AI

6. 将来のMaaSと知財戦略

  人々がより質の高いモビリティを求めるようになると、"サービス"としての移動、Mobility as a "Service"、出行即"服务"が今後のトレンドになることは間違いないであろう。では、「1回の注文、ドアツードア、1回の支払い」の実現、煩雑な保安検査の回避、移動効率とサービス品質の向上を真に実現するにはどうすればよいか。この問いに対して「異なる交通機関の接続を成功させ、サービスの指示が不明確、管理基準が異なるといった問題を解決しなければならない」 と、中国人民政治協商会議(CPPCC)全国委員会委員で北京交通大学教授の钟章队氏は答えている。

  钟章队氏はさらに、5G、AI、データセンター、ブロックチェーンなどの新テクノロジーを積極的に採用し、新世代の総合交通情報インフラの構築を加速させることを提案した。さまざまな交通手段のフィジカル世界とデジタル世界の融合と、交通手段の共有を強化することも目標に掲げ、モバイル、無接触、インテリジェントな検査技術を採用し、都市クラスター内の交通サービス基準を統一し、交通サービスの国際化実現を目指す。これにより、フロンティアテックが交通機関と深く融合することでモビリティ体験が向上し、効率化を図ることができ、交通機関と、文化、観光、情報、エネルギーなどの産業との融合・統合が促進されるのである。

  MaaSの時代は、ユーザーに自動車を提供していた時代から、サービスの内容や利便性を提供する時代に変わりつつある。特許出願に関しても、ハードウェアの出願よりもソフトウェアの出願が多くなることが見込まれる。ユーザーの需要に応えることができ、社会効果や経済効果の高いソフトウェア特許とサービス関連特許について検討することが、MaaS知財戦略の1つと言える。こうした知財活動が、中国国内のMaaS業界の課題となっているフィジカル世界とデジタル世界の融合に寄与し、「統合された」交通システムが実現することを期待したい。

画像3


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
ありがとうございます!
石川県白山市。株式会社IPOMOEA(イポメア)代表。特許翻訳サービス、特許調査サービス(特許調査会社と連携)を提供しています。https://ipomoea.biz/