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創造性とビジネス #1 創造性とは何か

こんにちは、三宅佑樹(@yuki_miyake)です。
普段はビジュアルデザインやクリエイティブコンサルティングを通じて企業のブランドづくりやサービスづくりをお手伝いしています。

連載「デザインの世界への招待状」が先日、無事完結しました。
読んでくださった方、どうもありがとうございました。

この連載を執筆している途中から、次に連載記事を書くなら「創造性」をテーマにしたいなと思っていました。

なぜなら、デザインの力を有効に活用できるかどうかということには、デザインという概念を理解する・しない以前に、「創造性の有無」がかなり大きく関係しているような気がするからです。

デザインの活用という側面に限らず、「創造性」は、時代の変化に適応し、思考を柔軟にアップデートしていくために必要な能力として、情報を大量に摂取し、クレバーになっていく消費者の心をつかむための能力として、機械に代替されにくい能力として、今、非常に重要性を増してきていると思います。

もしかしたら、すでに会社の研修などで「これからは創造性が大事だ」「創造性を身につけよう」などと言われている人もいるかもしれません。でも、「創造性って何?」「どうすれば身につくの?」「努力で身につくものなの?」という疑問を持っている方も多いでしょう。この連載がそうした疑問に対するいくばくかの答えになれば幸いです。


「創造性」とは何なのかー。

「創造性」と聞いてすぐに思いつくイメージとしては、「柔軟な発想」「前例に囚われない姿勢」「ユニークなアイデアを思いつく力」などが挙げられるのではないでしょうか。

今回の連載では以下の2つを定義としてみたいと思います。

【本連載における「創造性」の定義】
・前例に囚われない柔軟な発想ができる力、資質
・独自性の高い発想を得る力、資質

簡単に言えば、「新しい考え方を取り入れる姿勢」「普通はなかなか思い至らないことを思いつく力」です。

事前に教えられたことをテストで聞かれ、教えられた通りに答えれば「優秀」と評価される教育を受けてきた世代(私もそうです)では、創造性という言葉に苦手意識を持つ人も多いかもしれません。

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私は創造性というものは本来どんな人の中にもある程度は備わっているものだと思います。それが押し殺されるような環境に長年いればだんだんと低下していき、逆に刺激を受ける環境にいればどんどん高まっていくものだと思っています。

また、幾つかの種類の資質に分けることができて、どれかには秀でているがどれかには秀でていない、ということがあったり、一部の資質は意識次第で比較的簡単に身につくが、一部はかなり条件が整わないと身につかない、ということがあったりと、非常に複層的な性質を孕むものだと考えています。

この連載では、私が考える「創造性を構成する様々な資質」と、それぞれの資質がビジネスにおいてどんな場面でどういう価値を発揮するか、出来る限り実際の具体例を挙げながら、分かりやすく書いていきたいと思います。

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創造性研究の代表的な研究者としては、川喜田二郎氏の名前が挙げられます。「KJ法」という独自の発想法を生み出した人物として、ご存知の方も多いかもしれません。

川喜田氏をはじめ、古今東西の様々な研究者が創造性に関する著書を著していますが、今回の連載では、ビジネスパーソンを対象読者として想定し、なるべく抽象的な議論にならないようにするため、出来る限り自分の過去の経験やそれを通じて体得してきた思考を中心に、それに関連する実例をビジネス書などから引用して記事を作っていきたいと思います。


一口に「創造性」といっても、その中には幾つかの種類の資質が内包されているように思われます。

資質どうしが関係しあったり、性質が似ている部分もあったりするため、分類の仕方が非常に難しいところもあるのですが、今回は以下の図のように分けてみました。

すべての土台・前提となる3つの基本姿勢があり、その上で5つの個別能力に分かれている、というイメージです。


まずベースとなる基本姿勢の3つをご紹介します。


a. 批判的思考

:いわゆる「常識を疑う」姿勢のことです。「こうだと決まっている」ということに対して常に「なんで?」と疑うことにより、それが本質に沿っているのかどうかを確かめたり、「こうだと考えられる」という主張に対して「本当に?」と疑うことで、別の可能性や視点もあり得るのではないかと想像する姿勢です。

「批判」というと誤解を生みやすいのですが、大切なのは「建設的批判」であること。何でもとにかく批判すればいいというわけではなく、疑ってみて、それでも正しいと思ったら逆にすぐに認めることも、この批判的思考における重要なポイントです。そうでないと、ただ事態を停滞させるだけの意地悪な人になってしまいます。


b.本質的思考

:「最も大切なことは何か」を常に意識する姿勢です。本質的思考はその中に以下のような重要な姿勢を含みます。3つとも、本当は大項目にしたいくらい重要です。
b-1) 最終目的への集中:本来の目的は何なのか、に意識を集中すること。最短ルート思考や全体最適思考(取捨選択)などがこの延長として生まれる。
b-2) 長期的思考:短期的な利益に囚われずに長期的に目標に向かう姿勢。
b-3) 数値化しにくい価値への注目:数値で測定しにくいが間違いなく存在し、人の心を動かしているもののの価値を認める姿勢。


c. 新規性・独自性の追求と受容

新しいものや独自性のあるものを追求する姿勢。当たり前ですが、既にあるもの、他人がやっていることをそっくりそのままウチでもやろう、という姿勢でいる限りは創造的な発想は生まれて来ないですし、その場合は創造性は必要ありません。(※過去にやられたことを今やること、ある場所でやられたことを別の場所でやることに新鮮味や意外性がある、というケースは除く。)

また、他者から提示されたものについて、「自分が知っているものしか認めない」「前例のあるものしか認めない」という硬直した態度ではなく、新しいもの、自分の常識外のものでも、それが本質に沿っていれば取り入れる柔軟な姿勢も重要です。

この3つが、これから紹介する5つの個別能力の土台になるものだと私は考えています。


次に5つの個別能力です。これは、どれかに秀でている人が別の能力には秀でていないこともある、というものです。

1. 関係性思考力(メタ的視点)

視点(カメラ)を高いところや引いたところに持っていくことで、普通は見落としたり気づかない物事の関係性に気づく能力です。
1-1) 客観的思考:自分(自社)がやっていることを客観的に見る能力。
1-2) 複眼的思考:物事には見る視点によって複数の見え方がある、ということを常に意識する姿勢。別の立場から見たときにどう見え方が変わるかを想像する力。
1-3) 線で見る視点:歴史上の出来事や現在起きている出来事について「点」ではなく「線」の観点から(過去や未来との関係から)その出来事が起こった意味・意義について見抜ける能力(人から教えられなくても自分で考えて気づける力)。


2. 抽象化思考力

個別具体的な情報・状況から普遍的な本質や法則を発見する力。ニュートンが木から落ちるリンゴを見て万有引力の法則を発見したという、あれです(この話自体の真偽は諸説ありますが)。 1つの現象から発見できることは稀で、複数の現象の共通点や類似性から法則を発見する、ということの方が多いのではないかと思います。


3. 逆思考力

:これは自分で考えて名付けたものなのですが、裏側、逆側、隠れているところ、隠れがちな部分、とるに足らないと思いがちな部分に注目することで普通は思い至らない発想を得る姿勢、力のことです。いわゆる「逆張り」の発想もこれに含みます。


4.  結合的発想力

種類や分野の異なる情報・状況を結びつけることで新規性や独自性の高い発想を得る力。この結合的発想力は、正確にいうと「能力」というよりも「テクニック」に近いと思います。意識さえすれば、誰でもすぐに活用できるものだと思います。


5. 物語的構想力

:物語や世界観など、広がりのある独自の世界を構想・構築する力。これが出来る人はプレゼンテーションが非常に上手だったり、人を魅了するブランドのイメージを思い描くことができます。これは4に比べて難易度が高く、出来る人が限られると思います。幼少時からの蓄積によって大人になった時にすでに能力に大きな差がついてしまっているものだと思います。

今回の記事の構想を考えているときに、「センス」を創造性に入れるのか、という点で非常に悩みましたが、結局入れないことにしました。新しい発想を生み出す力や取り入れる姿勢を創造性と呼ぶとすると、「センス」はその際のクオリティに関係してくるもので、微妙にベクトルの異なる概念だと感じたためです。


最後になりますが、そもそもの前提を疑って、「ビジネスに創造性は必要なのか?」を考えてみたいと思います。

創造性は、ビジネスの成功・不成功を決める幾つかある要素のうちの1つに過ぎません。それ以外に成否を決定づける要素としては
・実行力
・情報力
(情報、戦略知識、分析力)
・資本力(資金力、ブランド力、人間関係資本)
などが挙げられるでしょう。

競合が独自に考えたことをそのまま真似して、圧倒的な資金力で競合より大規模に早く実行すれば、短期的には勝ててしまう可能性があるということです。そこに創造性は必要ないでしょう。

でも、そういう会社に最高の人材が集まるかどうか、誰もが尊敬する会社になるかといったらどうでしょうか。おそらくならないのではないかと思います。他社の後追いばかりしている会社や新しいことに挑戦できない会社に人は憧れることはないからです。

人々を魅了し、尊敬すらされているブランドを思い浮かべてみると、「いつも他社の後追いばかりしている」というイメージの会社はほとんど無いのではないでしょうか。多くは新しさを感じる挑戦的なプロジェクトを仕掛けたり、先進的な制度を導入したり、時代のトレンドをうまくつかんだデザインを採用している会社なのではないかと思います。

また、市場が縮小したときに柔軟に体制や考え方を改めて生き残っていけるか、という点でも創造性はやはり重要なのではないかと考えられます。

まとめると、短期的に経済的成功を収めるためには必要ないが、長期的に存続したり、優秀な人材を集めたり、世の中から憧れられるようなブランドを築くためには必要なもの、と言えるのではないかと思います。

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これ以上長くなると客観視ができてない、創造性の低い記事になってしまうので(笑)、今回はこのあたりで終わりにしたいと思います。

前回の連載同様、全5回くらいの構成にする予定です。今回の記事で挙げた3つの基本姿勢と5つの個別能力の中から、全部ではないですが、幾つかピックアップして、詳しく説明していきたいと思います。おそらく次回は「本質的思考」についてです。

それではまた次回、お会いしましょう!

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