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吉原幸子 「瞬間」


吉原幸子 「瞬間」

海が死ぬ
けふも死ぬ
日が暮れる

月が死ぬ
けふも死ぬ
夜が明ける

時が死ぬ
けふが死ぬ
人も 死ね

惜しげなく
いくたび死んで
時がまたくる

死ぬ海の
死ぬ月の
うつくしさ

色あせず
暮れもせず
のこるなら

人だけが
醜くからう
人も 死ね


三連と最後の七連の結句、人も 死ねがあまりに呆然とさせる。ひとマスの空白は、一瞬の躊躇いか、それとも意を決するための最後のパウゼか、私はこのひとマスに一気に吸い込まれる。題は「瞬間」とある。

何度読んでも、この一文字の空白に息がとまり、そして最後に絶句する。

もう何度も何度も呼吸困難と仮借なき死の下命。美しい海と月、時がとまったままの絶対美景のなかにひとり。










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