見出し画像

GAROへの道はなにで舗装されているか


その4:問題なのは『学生街の喫茶店』より……(約5分で読めます)

緊急事態宣言に伴う自粛期間中。
シナリオライターである私は、作品へのヒントとして、しかるべき音楽を捜していました。
その結果、GAROと出会い、ファンになったのはいいものの、なにぶん50年前のグループです。思った以上に少ない情報を、ネットの海から拾い集める日々が続きました。

当初『美しすぎて』のB面だった『学生街の喫茶店』は、後のプレスでA面に昇格。結果的に80万枚に迫る大ヒットとなりました。
1973年は日本コロムビアが売り上げ1~4位を独占。
1位が『女のみち』、2位が『女のねがい』(いずれもぴんからトリオ)。
3位が『学生街の喫茶店』、4位が『喝采』(ちあきなおみ)でした。
ものすごいラインナップです。さぞかし儲かったんだろうなコロムビア。

ところで、すっかりGAROにはまった私がtwitterでそのことを呟くと「GAROは好きだが『学生街の喫茶店』は好きじゃない」「GAROのレパートリーの中で、あの曲だけ異質」などという声が複数寄せられました。
そうなのかな。
確かに私も『学生街の喫茶店』は知ってはいたけど、良いとは思っていませんでした。動画のコメント欄やGAROファンの方々のblogなどを見ても、まぁ好かれてないですね。
気持ちはわかります。
「メンバーオリジナルの良い曲がたくさんあるのに、なんでよりによって『学生街の喫茶店』なんだよ」ってことですよね。
ほとんどハモらないし、ギターの聞かせどころもない。
まったくGAROの良さを活かそうとしていない曲。これでいいのか?
ただ、そう思うのはすでにGAROのことを知っていた人だけで、この曲で初めてGAROを知った人にはそういう抵抗はなかったわけです。
なので、ギター青年を中心とした従来のGAROファンが離れ、かわりに、ギターやCSN(Y)に興味はないけどトミーかっこいいマーク素敵♪ と思う女子ファンを大量に獲得してしまった、ということなのではありませんか?
とにかくレコード会社側の「売り上げが欲しい」という願いは叶ったのです。


好事魔多し、のことわざ通り、この曲のロングヒットの間にボーカルが病気で入院。マークとトミーで『学生街の喫茶店』を歌っていた期間があったそうです。
当時小学生の私、二人GAROを見た記憶はありません。
そして、次のシングル候補が4曲、またもや外部作家によって作られました。ラジオで流してリクエスト数がいちばん多かった曲を採用するという試みです。
『憶えているかい』『君の肖像』『散歩』を抑えて選ばれたのは『君の誕生日』でした。
この曲もヒットチャートの1位を獲得しています。
が、当時小学生の私の記憶にはありません。
作詞は山上路夫、作曲はすぎやまこういち。
『学生街の喫茶店』と同じ布陣です。
私としては、この『君の誕生日』の方が『学生街の喫茶店』より問題作だと思います。
いや、大問題でしょ。
まず、GAROは『美しすぎて/学生街の喫茶店』の次にシングル『涙はいらない』を出しています。
マーク作のたいへん美しいバラードです。
映画『小さな恋のメロディ』(1971年・英)の『メロディ・フェア』に想を得たとはいいますが、オリジナリティに溢れた良い曲だと思います。
これは『学生街の喫茶店』に火がつくまでに時間がかかったため、通常のシングル発売スパンで次の曲を出したということでしょう。
ところがこれを出した後に『学生街の喫茶店』が大ヒットしたので、『涙はいらない』は「なかったこと」にされてしまいます。
いろいろな記事を見ても「GAROは『学生街の喫茶店』『君の誕生日』と連続ヒットを飛ばし……」となっているものが多いのです。
なんたることか。

加えて『君の誕生日』にはボーカルが参加していません。
以下はラジオでボーカルが語っていたのですが。
入院中のボーカルのもとに「新曲です」と音源が届けられました。聴いてみたボーカルは「なんだか演歌みたいなメロディラインだな」とネガティブな感想を抱きつつ、退院後に自分の声をレコーディングして足すんだろうと思ったそうです。しかし音源はそのまま発売されてしまいました。
結果的には売れたのでレコード会社はそれで良かったのでしょうが。
私もボーカルの言う通り、歌詞といいメロディといい、あまりにも湿っていて泣かせにきてるのが見え見えで、好きじゃないです。

いちばん引っかかるのが、間奏に『学生街の喫茶店』のメロディを盛り込んであるところ。
いくらなんでも!
売らんかな、過ぎませんか。
編曲もすぎやまこういちなので、かまわないといえばかまわないのでしょうが、やっぱり……ダサい。
それに、『学生街の喫茶店』に出てくる「君」と『君の誕生日』の「君」とは別人だと思うんですよ。
それぞれの歌詞から「愛しているとは気付かずに別れてしまった君」と「二人きりで店で誕生日を祝う」シチュエーションになっていたはずがないので。
別の人との愛の歌に共通のメロディを入れるかね?
でも、当時のリクエストでこれが選ばれたということは、世間がGAROに望んでいたのはこの路線だってことで。
……納得がいかない。
ボーカルの退院を待たずにレコーディングをしたり、GAROの良さを活かさない曲でも採用してしまったりと、事務所やレコード会社はGAROという逸材を全然大事にする気がないんだな、と、勝手に怒っている私なのでした。
(つづく)
(文中敬称略)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?