61歳で”母”になったおばあちゃん
見出し画像

61歳で”母”になったおばあちゃん

「まさか僕のお母さんが、子どもを産むなんて!生物学上ありえないと思っていました」

そう語るのは、マシュー・エレッジさん(34歳)。 マシューさんは2015年の秋、エリオット・ドハティさん(31歳)と同性婚をしました。

画像1

子どもを授かるために養子縁組を考えた二人、最後に選んだのは、「代理母」の出産です。

しかし、まさかマシューさんの母親が「代理母」になるとは誰も想定していませんでした。

なぜなら、彼女の当時の年齢は59歳。閉経をした女性が赤ちゃんを産むなど不可能だと思ったのです。

そして、この物語にはもう一つの奇跡があります。実は、卵子の提供をしたのはエリオットさんの妹、リア(当時25歳)さんでした。

「まさに、家族全員で子どもを授かろうとしたんです。不安ももちろんあったけれど、とてもワクワクしました」(エリオットさん)

画像2

二人のカップルとその家族、彼らはどのような旅を共にし、大きな家族を育んでいるのでしょうか。そこには、数々の困難、喜び、そして人間の体の不思議が詰まっています。

妹が卵子をくれた

マシュー:僕たちの住む、ネブラスカ州はとても保守的な地域です。2015年に結婚をした時は、僕は教義に反するということで教職をクビになりました。

それでも僕たちは結婚を選んだんです。

その後、エリオットの母親ががんと診断されて亡くなったり、エリオットの妹・リアに赤ちゃんが生まれたりしました。それを見て、「僕たちも子どもが欲しいね」、と話すようになったんです。

画像14

地元には差別的な法律がたくさんあり、ゲイカップルとして養子縁組の手続きをするのはとても不安でした。そこで、代理母の出産について考え始めたんです。

代理母と、卵子を提供してくれる第三者のドナーが必要だと考えました。ドナーを見つけるためにいろいろなサイトを当たりましたが、とても高額だっただけでなく、命を買っているようで...僕たちには違和感があったんです。

※エージェントを利用して卵子提供を受ける場合、一度に2万ドル(約220万円)ほどかかるとされています。

そんな悩みをエリオットの妹・リアと、ブランチをしながら話していたら、リアが「私もやるわ、卵子をあげるわ」と言ってくれたんです。

画像3

考えてもみない方法でした。でも、考えたら僕と夫のエリオットとの間に生物学的なつながりのある赤ちゃんを授かることができる。これは素晴らしいアイデアでした。でも、本当に不思議な方法でしたね。

難航した代理母探し

マシュー:代理母を探すのも簡単ではありません。リアは自分の出産を控えていて、代理母になるのは厳しかった。

そこで、僕のベストフレンドが代理母を申し出てくれたんですが、彼女には基礎疾患があったことがわかりました。もし彼女に何かあれば、取り返しがつかない。そこでこの案は断念しました。

他に選択肢がないか、医師と一緒に頭をひねり続けました。そこで、僕は「母はできることがあれば、何でも協力すると言ってくれているんですよ」と軽く言ってみたんです。ほんの冗談のつもりでした。

画像15

まさか、母親が代理母になれるなんてこれっぽっちも考えていなかった。だって、母のセシルは当時59歳、10年前に閉経していたんです。

すると、医師が「お母さんは子宮がちゃんとあるんですか?」って真剣に聞いてきたんです。そこから、全てがガラリと変わりました。

僕の母が「代理母」

※閉経して排卵が止まると、卵子はないため生物学的につながりのある子どもは産めません。しかし、高齢であっても条件を満たせば、第三者から卵子の提供を受けて、子どもを出産することは可能です。卵子に比べ、子宮が稼働できる年齢はずっと長いためです。そうは言っても、高齢になると高血圧や心不全などの問題を抱える場合が多く、60歳を超えて代理母になれる人はほぼいません。

マシュー:母は一連の検査を受けました。驚くことに、全ての健康診断をクリア、子宮頸がん、血液検査、コレステロール値、乳房のマンモグラフィー検査なども問題なく、代理母として「完璧」だったんです。

画像16

でもそこで、一番焦ったのは僕です。母親を危険にさらすことになってしまうと不安になりました。

それでも母は「私が代理母になる」と言ってくれた。「年齢は単なる数字よ!」、なんて言ってね。

エリオット:グーグルで「高齢者の代理出産」、「この人は赤ちゃんを産める」と入力して、本当に大丈夫か調べたんです。

でも高齢の妊娠、代理出産に関する研究があまりないことに気がつきました。そこで医師を信じて、僕らの家族全員で壮大な旅に繰り出そうって決めたんです。

「30年後」の妊娠

※セシルの「代理母」への準備と共に、リアの採卵も始まりました。一度に約20個の卵子を採卵し、そのうち11個をマシューの精子と体外受精。最終的に、7つの受精卵を得ることに成功しました。

画像17

エリオット:リアは妊娠していたので、自分の子どもを出産してすぐに、僕たちのために採卵準備に入ってくれました。採卵はうまく進み、これはとても幸運でした。

画像4

マシュー:受精卵を母の体に戻す時に、失敗することも多いにあり得ました。でも、幸いなことに一度の挑戦で妊娠につながったんです。スムーズに進んだことは、家族全員にとって嬉しい驚きでした。

マラソン大会に何度も出場したり、日常的なエクササイズや、健康的な食事を続けていた習慣が良かったのかもしれませんね。

母の妊娠期間には多くのことを学びました。

ホルモン剤を使って更年期障害を改善したり、月経周期を元に戻したりすることができることには驚きました。でも、妊娠が進むにつれ、母の体で自然にホルモンが作られるようになったのです。本当に神秘ですよね。

画像5

僕たちは、科学の進歩によって家族を築ける時代に生きている。これまでの家族のつくり方の限界を超えられるようになったことは、本当にすごいことです。

エリオット:義母のセシルを、僕たちも注意深く見守りました。30年前にマシューを妊娠・出産した時とは、世間の情報量も、食べるものも全く違っていましたから。

有機野菜をもっと食べた方がいい、胎児の成長に合わせてビタミン剤を取るようにと勧めたりしました。

マシュー:家族全員で母をフルサポートしたんです。やはり、超高齢出産は体にくる。比較的安定した妊娠期だったといっても、つわりや、疲れは昔よりひどかったようです。

画像6

つらい時は、「大切な赤ちゃんを手渡す日まで、もうちょっと。頑張れ自分」と自分に言い聞かせていたようですね。母は常に気丈に振る舞っていた。母は間違いなく僕たち家族のスーパースターでした。

待望の娘が誕生

画像10

※子どもを授かりたいとマシューさんカップルが思ってから、2年以上が経った2019年3月25日、待望の娘、ユマ・ルイーズ・ドハティ=エレッジちゃんが生まれました。自然分娩で約2330グラムの元気な女の子でした。セシルさんは生みの親であると同時に、61歳のおばあちゃんになったのです。

エリオット:本当に奇跡的な瞬間でした。

画像7

ユマが生まれたとき、彼女の姿を見ただけで、「全ては君を見るためだったんだ」って気づかされました。

この旅は、全てこの瞬間のためにあったんだ、って。彼女の産声を聞いて、抱きしめたことは、忘れられません。

画像8

周りは看護師や医師がたくさんいて、バタバタしていましたが、時間が止まったようでした。周りの音が聞こえなくなったんです。

マシュー:僕も、同じです。最初に押し寄せてきたのは、途方もないほどの安心感でした。

母は無事で、ユマもちゃんと生まれてきた。「あぁ、なんてすごいんだ。みんなでこの出産を成し遂げたんだ」と。

画像9

恐怖や不安が全て消えていきました。僕はユマを愛することができる、って深く感じたんです。今までそんな感情を抱いたことはありませんでした。

大きな家族

※マシューさんもエリオットさんも、どこにでもいる家族と同じ。時には子どもに手を焼き、チャレンジと刺激に満ちあふれた日々を楽しんでいます。

マシュー:ゲイとして生きると、正直「子どもを持てない、子どもを産む能力がない」ということを突きつけられ、自己嫌悪に陥ることもあります。

でも、ユマが僕たちのところに来てくれたことで、自分がどれだけ愛が育めるのかを実感することができました。そして、自分自身をより優しく見れるようになったんです。

画像11

ユマは代理母のセシルを「おばあちゃん」、卵子提供者でもあるリアを「おばさん」と呼んでいます。リアには2人の子どもがいて、ユマからは生物学的に半分の兄弟たちになります。

だから彼らを「スーパーいとこ」と言って慕っていますよ。セシルは孫娘として、リアは叔母として姪のユマをとてもかわいがってくれています。

画像12

エリオット:セシル、リアという二人の女性の存在は、将来、ユマの大きな支えになると思っています。ユマを愛してくれる人たちの輪が、広がっていることに感謝です。彼女が特別なつながりをどのように生かして成長していくのか、とても楽しみですね。

マシュー:叔母のリアはユマに人生のもとをくれた人だと、そして、おばあちゃんは、彼女が花を咲かせるための庭を作ってくれた人だと、ユマにもう少し大きくなったら伝えてあげたいです。

画像13

ーーー

日本では第三者による卵子の提供は、非常に限られた場合のみしか行われていません。また、代理出産についても日本産科婦人科学会の会告により、日本国内では原則として実施されていません。

マシュー・エレッジさん家族の事例は、日本ではあり得ないことですが、世界ではこのような選択もあります。生殖医療の進化は、私たちの「家族」の概念の枠を超えて、新しい可能性を開いてくれているように感じるのです。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
NewsPicksシリコンバレー支局長。テクノロジー、ビジネス、カルチャーを中心に米国から情報を発信します。米国の生殖医療、その周りに育つスタートアップに高い関心があり、最前線の取材をしています。