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北嶋愛季に〇〇について聞いてみた(1)

「ちょっときいてみたい 音楽のはなし」第二弾は、チェリストの北嶋愛季さんをお迎えします。北嶋さんはバロックチェロと現代音楽、その両方を演奏されるなど、その活動は多岐に渡っています。約1年前にドイツ留学から帰国された北嶋さんに、今回はドイツ留学から帰国後の活動について、また現代音楽や古楽の演奏についてもお話を伺いたいと思います。北嶋愛季さんウェブサイト

——北嶋さんは、桐朋学園大学チェロ科を卒業されてから東京音大に移り、その後ドイツ留学と演奏活動を続けてこられました。北嶋さんの存在を知ったのは、確か大学時代だったと思うんですが、その頃から現代音楽の演奏会に積極的に参加していたことを覚えています。ドイツでは、トロッシンゲン音大で学んだあと、フランクフルトで一年アンサンブル・モデルンのもと研鑽を積まれ、その後も現代音楽に携わりながらフランクフルト音大ではバロックチェロを専攻するという、独自の道で音楽を追求していらっしゃいました。2017年12月に8年半いたドイツから日本に完全帰国した北嶋さんに、率直に日本の現代音楽についてお伺いしたいと思います。

前回の理恵さんの時にも出た話題なんですけど、例えばドイツで言う現代音楽のシーンって、その街ごとカラーがありますよね。ベルリンだったらベルリン、フランクフルトだったらフランクフルトのって。

その点ドイツは、連邦州立国家ということもあり、シーン自体が広く、それぞれが地方都市のアンサンブルという感覚が私はあります。(中略)そこでしか聞けないような面白いプログラムやコンサートシリーズを作り、情熱を持って来てくれる聴衆も少なからず見て来ました。
引用:渡邉理恵に〇〇について聞いてみた(3)

――実際関東で活動していて、東京ってどんな印象なんでしょうか?

東京で現代音楽を弾いている演奏家って限定されているような印象はありますね。特定の演奏家で全てを回しているような。チラシを見ると、演奏家は常連というか、「あ、この人あそこでも演奏してたな」って思ったり。そしてそれは演奏家だけじゃなくて、聞きに来る客層も毎回似ていると聞きました。プログラムが違うだけで、これって実際演奏家も聴衆も毎回同じ、なんじゃないかなって。

——なるほど。同じメンバーでツアーしているみたいな。

そうなんです。現代音楽のコンサートで、関係者や作曲家以外の、純粋に観客として来ている方がどれだけいるのかと。そこが広がらない限り、より多くの方には届かないんじゃないかと思うんですけど、正直難しさも感じています。どうやって開拓していったらいいのか、どうすれば届けることができるのか、模索中です。

——2018年秋に一緒に企画運営した北嶋さんのチェロ独奏コンサートでは、色々な方が来ていた印象があったんです。実際「現代音楽初心者です」という方もいらっしゃいましたよね。

現代音楽を初めて聴く友人が何人か来てくれましたね。こうやって少しずつでも輪が広がればいいな、と思ってます。確かに最初は難しいと思うんです、良さもわからないし、感想すら思いつかないと思うんだけど、とにかく何度か通っていく内に、少しでも興味が持ってもらえたら、と。

私はジャンルに限らず、色々な音楽に関わらせて頂いているんですけれど、現代音楽以前にクラシックのコンサートでさえも集客に苦労している現状があるわけで。そういう状況で、クラシックに親しみを持ってもらえるように工夫をして、何とかお客様を集めている。現代音楽って更に先にあるのに、そこまで足を延ばしてもらうって、なかなか難しいなっていうのが正直なところです。

——クラシック愛好家がその延長上にある現代音楽に興味を持つ、ということもあると思うんですけれど、現代アートとか演劇とか、そういうジャンルも結構近いものあると思うんですよ。そういうところから新たにリスナーを獲得できる可能性もあるんじゃないかな。

そうですね。音楽ホールだけじゃなくて、小劇場だったり、ギャラリーにもチラシを置いたりだとか、ちょっとずつでも広げていけたら良いですね。

――聞き手に関して、現代音楽の受け取られ方って国によって違うんでしょうか。例えばドイツではどうでしたか?

ドイツでも残念ながら常に満席、という訳ではありませんでした。ただ、ドイツではオーケストラの定期演奏会に新曲がさり気なく混ざっていることがあって、お客様も抵抗なく、耳を傾けていらしたような覚えがあります。年齢に関係なく新しいものに興味を持って、楽しんでいる感じはありました。

——欧州では歴史があるからこそ受け取られ方にも違いがあるのかもしれませんね。日本でもプログラムに一曲だけでも新曲を入れてみるとか、そうすることで自然に慣れ親しんでもらえたらいいですね。

はい、そう思います。

——現代音楽ってマニアックでコンサートも稀、みたいな印象もあるんですけど、実は東京に関して言えば、毎日どこかで何かしらの現代音楽コンサートが行われていて、国際的に見て演奏レベルもとても高いと思うんです。

確かに東京って本当にコンサートが沢山行われていますね、フランクフルトより断然多いと思います。

——個人レベルでは、凄まじいことを行っている方も沢山いる中で、一つ異なる点は大きな興行がないっていうことかもしれませんね。

そうですね。小さな編成に比べると、オーケストラだったり、フェスティバル、舞台もの(新作オペラやミュージックシアターのようなもの)は稀ですよね。やっぱりそういうのってお金がかかるじゃないですか、莫大に。スポンサーや公の補助なしには行えないですよね。

——文化に対する国からの予算で言うと、各国によって異なりますよね。2015年に行われた調査を見ると、日本の文化予算ってフランスの1/4にも満たないんですよね。ただそれが単純に欧州対アジアの傾向かというと、そうではなくて、ドイツはフランスに比べると少なく、例えばお隣韓国は欧州と比べても非常に高い割合で文化にお金を出しているんです。ただし、文化予算と言っても何にどれだけ出しているのか、これも各国によって異なる部分ではあると思います。

(出典:諸外国の文化予算に関する調査報告書、文化庁)

自分の体感として、ドイツは芸術全般に対してリスペクトがあって、国全体としてサポートしていこう、という雰囲気があると思います。ただ予算を見るとわかるように、ドイツの現代音楽アンサンブルがとても裕福かと言うとそうではなくて、毎回資金繰りには苦労しているんです。それでもどうやって面白いことをやるか工夫しながら行っている。なので、予算がないからあきらめる、ではなくて、少し視点を変えてシステムから考え直すっていうのは、悪くないんじゃないかと思うんですよ。
 
そういう意味でも音大で経済的なことや、音楽のマネージメントについて、もっと勉強できたら良かったな、とは思うんです。音大を出て、いざ「コンサートをしよう!」と思っても、まず何から手に付けたらいいかわからない。助成金を取ったり、スポンサーをつけたり、そういうことは若いうちから勉強しておいてもいいんじゃないか、って思います。

そうですね。私は有り難いことに、大学生の時からオーケストラの自主企画の運営に携わらせて頂く機会があり、非常に勉強になりました。
音大で学ぶべきことは沢山あると思うんですけれども、音楽家として、またそれだけではなく将来的にどうやって音楽と関わっていったらいいか、という部分についても少し触れるべきだとは思います。

例えば演奏家なら、オーケストラ奏者、フリーランス、フリーランスならどんな音楽に関わっている、どんな演奏家がいるのか、じゃあ自分はどう在りたいのか、どうやれば行きたい道に進めるのか・・具体的な例とビジョン、進む道が見える機会があれば、「漠然とした将来への不安」も軽減されるのではと思います。

また、いま音大で楽器や作曲を専攻していても、パフォーマーより例えば企画運営やステージマネージャーに向いていたり、両方出来る人もいると思います。実際ドイツでは、器楽を専攻しながらも将来はマネージメントをやりたい、と言っていた人もちらほらいました。

個人的には音楽以外の事を副業としてやるのも、もちろんありだと思います。自分がどれだけ、どんな風に音楽と関わっていきたいのかを決めるのも、個人の自由ですから。音大を出たからと言って、必ずしも音楽家一本でやっていかなければ「ダメ」な訳ではない。そうやって色々な可能性をみて、自分の道を決められる場であってほしいですね。

北嶋愛季に〇〇について聞いてみた(2)へ続きます。

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