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【仮想レジアカ】チューバ・セルパンを知ろう(歴史編)no.1

この記事は「投げ銭」スタイルの有料ノートです。実質無料で全文お読みいただけます。仮想レジアカは、2020年6月に開始したオンライン上の創作実践アカデミーです。詳細はこちらの記事(文字をクリック)よりご覧ください。この記事では、仮想レジアカでチューバ・セルパンを担当している橋本晋哉さんに楽器について教えてもらいました。牛丼一杯分で、シーンをサポートしてみませんか(あなたの支援が、シーンを豊かにします)。

わたなべ:橋本さんは、チューバとセルパン両方を演奏されるということで、古楽や現代音楽の垣根を越えて、とっても面白い活動をされていますよね。でもピアノやバイオリンに比べるとチューバ、セルパンに触れる機会は多くない、だからと言って「知らないから興味がない」「作品を書くきっかけがない」というのは至極もったいない。だって同時代に素晴らしい演奏家が生きているって、作品を書くチャンスでもあると思うんです。なので、今日は楽器をまず知るためにお話を伺いたいと思います。

低音楽器の歴史

橋本:セルパンとチューバ両方ひっくるめて、リップリードの低音楽器の歴史について、ざっとお話していきたいと思います。

広く低音楽器というのは、「伴奏」という役割を担ってきたわけですが、そのため世情の変化に大きく影響を受けてきているんですね。というのは「何のための伴奏なのか」によって楽器そのものが大きく変わるからなんです。

まずヨーロッパの古い時代の音楽っていうのはもともと声楽を中心に展開していて、その中で低音楽器(トロンボーンやドルツィアン⦅ファゴット⦆)は、人の声、特に低音域を補強するという意味で使われていた。トロンボーンやドルツィアンなどある中で、出てきたのがセルパンだったんですね。それが大体16世紀後半と言われています。

セルパンの形

橋本:わたなべさんは、ツィンクという楽器はご存知ですか?

わたなべ:ツィンク?

橋本:角笛のような形をしていて、リコーダーの穴のようなものが付いた古楽器なんですが、ルネッサンス時代にめちゃめちゃ流行ったんです。そうすると、音域が異なる類似楽器が出てくるわけですけれども、音域が広がると管の長さが必要になって、管が長いと手が届かないので段々曲げていった。その結果、セルパンのような蛇状の形になっていった、ということなんですね。

教会とセルパン

橋本:セルパンはフランスの楽器と言われるんですけれども、17世紀になって、フランスの教会で盛んに取り入れられるようになったことが一つの理由です。教会のミサで、「歌のパートにセルパンを重ねるととても良い効果が出る」ということで、特に南仏のほうなんかは、どの教会でも使われているくらい広まったんですね。なので、もともとはとても教会と密接に関係がある楽器なんです(後の楽器と区別するために、教会のセルパン serpent d’église と呼ばれます)。

軍楽隊とセルパン

橋本:18世紀の半ば頃から19世紀頭にかけて、軍楽隊が出てくる歴史がありますよね。メフテルというのは、オスマン帝国とトルコ共和国で行われてきた伝統的な軍楽のことなのですが、それと対抗するようにヨーロッパでも軍楽隊を作ろうということになって、低音パートを補うものとして、セルパンに白羽の矢が立った。セルパンという楽器の需要が、教会から段々と軍楽隊のほうに変わっていった流れがあるわけなんですね。それが、フランス革命前後の話です。

色々なバス楽器の登場

このころまでは、所謂バスの音域を保っていたんです。人間のバス声部と同じような音域。楽譜で言うと、ヘ音記号の下のEから上のCくらいまで。下の音域は用法上、下加線二本下のBbまで拡大されていますが。

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19世紀に入ると、楽器編成の拡大から「より大きな音が欲しい」という要求が出てきて、ファゴットの様な形状のもの(軍隊のセルパン serpent militaire と呼ばれます)だったり、後継楽器のオフィクレイドという有鍵金管楽器が登場します。それから低音金管楽器の歴史を語る上で大事な変革として、産業革命が挙げられます。産業革命の流れの中でバルブが発明されたことで、自然倍音列に頼っていた金管楽器で半音階が簡単に演奏でき、更に大きな音が容易に得られる様になります。チューバという楽器もこの流れの中で登場した楽器なんです。セルパンの改良型、オフィクレイド、チューバという同じ様な楽器が欧州で同じ時期に重なる様に出てきたんですね。

ただ、この辺までは先ほどお話した声楽で言うバス声部と同じ音域を保っていたんです。

【ワーグナーチューバの登場】に続きます。

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