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②キクラボonline ♯5

2021年5月1日19時に開催された、jwcm主催キクラボonline ♯5<新しい女性の音楽>の書き起こし記事です。(編集:わたなべゆきこ)

ーイベント概要ー

5月1日(土)19-21時(ドイツやフランス:12-14時)
出演:ブリギッタ・ムンテンドルフ(作曲家、FMN共同代表、ケルン音楽舞踊大学教授)、わたなべゆきこ(作曲家、女性作曲家会議共同代表)ほか
使用アプリ:zoom
言語:英語と日本語
通訳:森紀明、神沢希洋
参加費:投げ銭式(Note、Paypal)

開催に先立って

わたなべゆきこ(わたなべ):本日第五回目となるキクラボonline、初の海外ゲストとして、ドイツからブリギッタ・ムンテンドルフさんをお招きし、これから約二時間、みなさんと共にお話していきたいと思います。前半は「Frau musica nova」の活動について、後半はご自身の作品についてお話頂きます。それでは、まず最初に簡単にブリギッタさんについて簡単にご説明させていただきます。

ブリギッタ・ムンテンドルフさん、1982年生まれで、ドイツ/オーストリアご出身です。現在は、ケルン音楽舞踊大学で作曲科教授として後進の指導にあたられています。そして今回テーマとなっている「Frau musica nova(FMN)」は、ブリギッタさんとベアテ・シューラ―(Beate Schüler)さんが2020年以降芸術監督を引き継ぎ運営をされている、ということです。

今回は通訳をお二人お願いしておりまして、前半を神沢希洋さん、後半を森紀明さんに担当していただきます。それでは、よろしくお願いします。

ブリギッタ・ムンテンドルフ(B.M.):今回はお招きいただきまして、ありがとうございます。今ご覧いただいているのがFMNのロゴなんですが、当初はフェスティバルとしてスタートしました。

団体名からお分かりの通り、もともと女性アーティストに焦点を当てたグループだったのですが、それだけでなく、LGBTQ、全てのジェンダーに開かれた団体としてジェンダートピックを掲げるアーティストや、現代社会に問いを投げかけてくれる様々なアーティストを迎えています。私たちは現代音楽を境界線の実験と捉えていて、分野を横断するトランスメディア的、文化的表現、引用を用いた表現を使ったアーティストと一緒に、このプロジェクトを進めています。

FMNのアプローチは、非常に実験的、エクスペリメンタルな方法で、例えばアコースティックミュージックとエレクトロミュージックやメディアの交流などを通して、「現代音楽はここからここまで」というような境界線を作らないよう、意識的に活動しています。また「実験(Experimental)とは何か」という命題を軸に、異なるジャンルの中で「何が実験的であるか」「その分野で言う『エクスペリメンタル』」がどういう意味か」考えたり、特にLGBTQでは「トランス(越えていく)」ということが一つのキーワードでもあるので、そこをリスペクトし一緒に探求しながらステージを作り上げています。

わたしは、現在このプロジェクトをドラマトゥルグのベアテ・シューラ―と一緒に行っているんですが、彼女は様々なフェスティバルでドラマトゥルグとして活躍していて、例えばアンサンブル・モデルンとのプロジェクトであったり、KunstFestSpiele Herrenhausen※での仕事など、非常に大規模で国際的なステージプロジェクトを行っています。加えて、彼女は自身のカンパニーを率いていたりと、とてもアクティブに活動しているアーティストです。その彼女と共にお互いの知識や経験を持ち合って、FMNをオーガナイズしています。わたしは作曲家なので音楽やシーンについてはよく知っていて、彼女はどうやってフェスティバルを運営するのかなど幅広い知識を持っているので、それを掛け合わせて複合的なプロジェクトを一緒に考えています。

KunstFestSpiele Herrenhausenは、ドイツ・ハノーファーで行われている演劇と音楽のためのフェスティバル。

次に、こちらのウェブサイトにも写真が載っているFMNコアメンバー三人を紹介します。まず今説明をした、共同代表のベアテ・シューラ―、私、そしてもう一人のメンバーでプロダクション・マネージャーをしているカトリン・ヴィゼマン(Katrin Wiesemann)です。実は、主に動いているのはこの三人なんです、とても小さいですよね。イベントの時に追加で人を呼ぶこともありますが、基本的にはこのメンバーで運営を行っています。

FMNは、もともと1997年にギーゼラ・グローネマイヤー(Gisela Gronemeyer )とデボラ・リチャード(Deborah Richards)によって創設されました(ギーゼラ・グローネマイヤーはMusikTexte※というマガジンを刊行していた重要人物)。そして、その後2013年に私とEnsemble GarageがFMNを受け継ぎ、2020年以降、現在はベアテ・シューラ―と共に活動をしているわけですが、ギーゼラが行っていた「女性作曲家、Queer(クィア)の作曲家の可視化」という当初の目的の妥当性を、わたし自身も十分感じていましたし、それを汲んでまた新たに自分たちで活動を考えていくことにしたんですね。


MusikTexteは、現代音楽のための専門雑誌。1983年10月からケルンで自費出版されている。ギーゼラ・グローネマイヤーはその創設者で、現在はシュテファン・フリッケ(Stefan Fricke)が編集を行っている。

創設以来、私たちは多くの作曲家と共に歩んできました。このウェブサイトのページを見て頂くと、様々なアーティストの顔ぶれをご覧いただくことができると思います。またドイツ国営放送と協力体制を持ち、時に彼らは録音機材一式を車に積んで私たちが行うコンサート会場まで来て録音をしてくれることもあります。録音された音源は、半年後にラジオ放送で聞くことができます。ラジオで放送されることに重きを置いているのは、ローカルなオーディエンスに限らず、違う地域の多くの方々にも届けることができるからです。それは、活動の可視化にも繋がると思っています。

プログラムにはケルンをはじめ、NRW州のローカルアンサンブルだけでなく、インターナショナルなゲストが多く登場し、新作初演や再演などを行っています。ダイバーシティを大事にしているため、私たちはアンサンブルだけでなく、キュレーターをいつも外部から招へいし、プログラムを組むようにしています。

次に実際行っているプロジェクトを紹介します。去年はパンデミックがあり、いつもと違うプログラムを組む必要がありました。「Eccentric Listen」というシリーズは、一人のアーティストをメインゲストとしたオンラインプログラムで、今回はロンドンを拠点に活動しているShiva Fesharekiという作曲家/ターンテーブル奏者にフォーカスして、作家のSibylle Berg、そしてアーティストのSita Messerと共に30分のオーディオショーを行いました。

このプロジェクトをやったことで非常に手ごたえを感じて、私たちはもう一歩先に進むことが出来ると確証しました。FMNはマザーシップであり、このオーディオショーはKin (ship) だと考えることにしたんです。

Kinshipというのは、ダナ・ハラウェイ(Donna Jeanne Haraway)が提唱したもので、ジェンダーディスカッションの中から生まれた言葉であるのですが、家族、ただし血縁で結ばれた親族関係だけでなく、動物や植物、石など世界にある全てのものを家族として捉える概念です。このKinshipのアイディアに乗っ取って、わたしたちはこのプロジェクトを発展させることにしました。例えば、この「Eccentric Listen」というプロジェクトを他のパートナー機関に送り込んで、更なる機会を生み出しています。2020年にはHELLERAU(ヘレラウ)※などでも公演を行いました。

HELLERAU(ヘレラウ) - ドイツ、ドレスデンにある欧州芸術センター。ダンス、音楽、演劇、パフォーマンス、メディアアート、ビジュアルアートなどの制作・発表を広く行っている。

「Eccentric Listen」はオンラインで行われるイベントですが、コロナ禍における表現者のためのプラットフォームは必須であると考えています。

- - - 続く - - -

若手作曲家のプラットフォームになるような場の提供を目指しています。一緒にシーンを盛り上げていきましょう。活動を応援したい方、ぜひサポートお願いします!