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熱源(川越宗一/文藝春秋/本屋大賞ノミネート候補作品)

<著者について>
川越宗一さん

1978年、鹿児島県生まれ、大阪府出身。 桃山学院高校を経て、龍谷大学文学部史学科中退。 バンド活動を経て株式会社ニッセンにて会社員として勤めるかたわら、若桜木虔の小説添削講座を受講。 2018年に『天地に燦たり』で第25回松本清張賞を受賞して作家デビュー。

<本屋大賞とは?>

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2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。

ちなみに第162回直木賞受賞作です。


<あらすじ>

樺太(サハリン)で生まれたアイヌ、ヤヨマネクフ。開拓使たちに故郷を奪われ、集団移住を強いられたのち、天然痘やコレラの流行で妻や多くの友人たちを亡くした彼は、やがて山辺安之助と名前を変え、ふたたび樺太に戻ることを志す。
一方、ブロニスワフ・ピウスツキは、リトアニアに生まれた。ロシアの強烈な同化政策により母語であるポーランド語を話すことも許されなかった彼は、皇帝の暗殺計画に巻き込まれ、苦役囚として樺太に送られる。
日本人にされそうになったアイヌと、ロシア人にされそうになったポーランド人。
文明を押し付けられ、それによってアイデンティティを揺るがされた経験を持つ二人が、樺太で出会い、自らが守り継ぎたいものの正体に辿り着く。

樺太の厳しい風土やアイヌの風俗が鮮やかに描き出され、
国家や民族、思想を超え、人と人が共に生きる姿が示される。
金田一京助がその半生を「あいぬ物語」としてまとめた山辺安之助の生涯を軸に描かれた、
読者の心に「熱」を残さずにはおかない書き下ろし歴史大作。

<感想>

主人公は、極寒のサハリンに流刑囚としてどん底でした。そこで原住民の適者生存の暮らしぶりに触れ、人が生きることの根源的な熱に触れ、そこから希望を与えられ生き直します。

「故郷に生まれて、今生きているその人間」壮大な主題です。

過度な民主主義の問題を表面だけでなく、何にも媚びずに提示できるのは小説なんだと、読書の面白さを改めて感じます。

とにかく作者の雄大な構想の力を称えるべきでしょう。今っぽくない落ち着いた描写には樺太の自然、詩情溢れる琴の音に既視感持ちながら読み進められます。

文明が、樺太のアイヌたちをアイヌたらしめたものを削ぎ落としていきます。優れた人種が劣った人種を憐れみ教化善導するというヒューマニズムを装った支配。けれど、進んでいると思い込んでいる私達の方が、幻想の中で足搔いていることも見えてくることでしょう。

主人公は「人は自分のほかの誰のものでもない」「故郷はその土地や過去だけでない、人にも感じられること」に気づかされながら、でも「ガラスケースに展示し切り売りしているだけ」など葛藤や様々な感情を経ます。彼がいきつく先に見るものとは…!

日々の小さなことに追われ振り回されがちな現代。資本主義の中の「お金」は社会的なインフラにすぎません。

資本主義に背を向けることなく、幸福を感じるための秘訣とは何でしょうか。それは、どんな考えを持ち、どんな仲間と過ごすか、です。

このスケールの大きい物語に浸って下されば、新たな価値観、心の持ちようを得られることでしょう。

主人公の祖国ポーランドの喪失感がずっとひびきます。この本のBGMにはポーランドの祖国を想い書かかれたショパンが合います。


文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです