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ロス男(平岡 陽明/講談社/吉川英治文学新人賞候補作品)

<著者について>
平岡 陽明さん

1977年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経て、2013年『松田さんの181日』(文藝春秋)で第93回オール讀物新人賞を受賞し、デビュー。他の著書に『ライオンズ。1958。』『イシマル書房編集部』(ともにハルキ文庫)がある。

吉川英治文学新人賞とは?>

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公益財団法人吉川英治国民文化振興会が主催し、講談社が後援する1980年から創設された文学賞。以降年1回発表されている。受賞は選考委員の合議によって決定される。新人賞という名ではあるが、中堅の作家が候補者・受賞者の多くを占め、デビュー30年近い受賞者も存在する。

<あらすじ>
母親を亡くし喪失感抱えた40歳未婚フリーランスのライターが、73歳の元同僚と出逢い、「ロスすらも愛せばいい」と全ての人生を肯定していく物語。

<感想>

「そろそろ本当の自分の人生を起動したい」と彷徨うろすじぇねの物語ですから、暗い現実を一緒に味わわされるのかと思っていましたが、よい意味で裏切られました。彼は最初に団塊世代の元同僚に出逢い「死ぬまでにしたい10のこと」リスト作成手伝うところから始まりますが、お人好し優柔不断というより、他人にやさしくできる人だから、周りの人に恵まれていって…でもでも失恋したり婚活では苦戦しますけれどね。ユーモアで自分の繊細さを隠そうとする元上司に導かれ(つきあわされ)、長編ではありますが、それぞれのイベントごとが連作の短編集のようで、あっという間に読めてしまいました。

アスペルガーで「全てに色がついてしまう」女性、何を考えているか分からない年頃の少年、サラリーマンからヤクザライターに転職した同僚たちとの関わりの中でも、彼には悩みながらも自己肯定感を感じました。私自身、蝶のようにふわふわと曲がりながら、まっすぐ飛べない自分を疎ましく感じて、人生否定するより肯定することは何て難しいのだろうと思っていました。でもこの物語の中で彼と一緒に、 幸せ?人生楽しくするためには、あるがままの自分を受け入れありのままの世界を見つめて、自分にもまた周りの人にも噓をつかずに優しくすることができたなら、その先に自分の良いこれからの人生を送れるのかしら。と気づかせてもらえました。啓発本もよいけれど、この物語でクスッと笑いながら癒されては如何でしょうか?


ご自分がお迷いじゃない方も、どこか周囲にいそうな方のお気持ちにも触れられますもの。また、『名言集は高齢になった時頭の中が生きてきた物語で一杯で、他人の物語を読む必要性感じなくなったときに名言集で答え合わせをするんだ』とか『若い時人生は金だと思った。歳をとって何が何だか分からなくなった』とか、魅力的なキャラクターの迷言の数々もお楽しみいただきたくて。ちなみに私が涙したのは、アスペルガーの女性に母親が残した遺言の場面でした。色々な角度から様々な気持ちに触れることができるこの物語で、相手に送るだけの愛の素敵さにも、そんな大人になれればと光が見られました。

文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです