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稚児桜(澤田瞳子/淡交社/直木賞ノミネート候補作品)

<著者について>

澤田瞳子さん

同志社大学文学部卒業、同大学院博士前期課程修了。 奈良仏教史を専門に研究したのち、2010年に長編作品『孤鷹の天』でデビュー。同作で中山義秀文学賞を受賞。 2013年『満つる月の如し 仏師・定朝』で新田次郎文学賞受賞。『若冲』『火定』『落花』に続き『稚児桜』は4度目の直木賞候補作品なのですね。

<直木賞とは?>

正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。

直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。

週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。

<あらすじ>

歴史小説家・澤田瞳子が月刊『なごみ』で2年間にわたって連載した小説『能楽ものがたり』を単行本化。能の名曲を下敷きに創作した8編を収録。

1「やま巡り―《山姥》」/2「小狐の剣―《小鍛冶》」/3「稚児桜―《花月》」/4「鮎―《国栖》/5「猟師とその妻―《善知鳥》」/6「大臣の娘―《雲雀山》」/7「秋の扇―《班女》」/8「照日の鏡―《葵上》」。

ちなみに淡交社から直木賞の候補作が出たのは1957年の受賞(今東光『お吟さま』)より63年ぶりとのこと。


<感想>

※少しネタバレです。

能の名曲を下地とした8編の時代物短編集です。

「淡交社から出版されている能の作品」ときくと、お能の入門企画?と思いがちですよね。

私も、始めの第1章『山姥』では、先に能の内容に目を通してから読み始めました。
でもでも、第3章『稚児桜』からは、先が読みたくて知りたくて、下調べなんてしていられませんでした。


一言でいうなら『哀しく美しい』物語。


人間の俗、欲、本能、因縁などの、醜い感情が中心の物語なんですけどね、怖さまでもが美しい。

伝統芸能の、独特で趣のある美しい日本語で書かれているからでしょうか。


第1話の『やま巡り』は、子供の頃の記憶や感情を消せない哀しさを。
表題『稚児桜』の覚悟も哀しくて、勝手に想像したその美しさが、まだ目にやきついていて。
『照日の鏡』は、愛する人の記憶に残りたいと願う女性葵の上がチクリと描かれて面白くもあり。


人の売り買いもあって命が軽く扱われ、寿命も短くて、病は呪いのせいと考えられる…今では考えられないその価値観と刹那の中、繰り広げられる人々に、感情移入は……できるんです。

それでも予想できない結末の面白さと、また今の小説には珍しく、詳細に描かれていないから、行間を読む深む楽しさも味わえました。


能では、それら人間の業は、冷たく凄然とした能面に隠されてうたわれるのでしょうか?能ではどのように表現されているのでしょう。舞台も観たくなりました。

温かさ優しさで包む物語もありますのでご安心を。

澤田さんには、もっと人と歴史を描きこんだ作品が多くあるそうです。
そちらにも手が伸びること間違いなしの作品です。

また、高校生の読書感想にいかがですか?
古典の作品の人々が見えてきて、単語丸暗記がなくなるのではとも感じました。


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