見出し画像

ザ・ロイヤルファミリー(早見和真/新潮社/山本周五郎賞ノミネート候補作品)


<著者について>

早見和真さん

1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。『ひゃくはち』『イノセント・デイズ』以外にも、『ぼくたちの家族』『小説王』『ポンチョに夜明けの風はらませて』など多くの作品が映像化されている。他の著書に『店長がバカすぎて』『神さまたちのいた街で』『かなしきデブ猫ちゃん』(絵本作家かのうかりん氏との共著)などがある

<山本周五郎賞とは?>

大衆文学・時代小説の分野で小説・文芸書に贈られる。エンターテインメント性が高く、日本の大衆文学賞として「直木賞」の対抗馬的な立ち位置だといわれることが多いが、大御所やベテラン作家が受賞する直木賞に比べて、山本周五郎賞は中堅作家が受賞する傾向が強い。ちなみに、山本周五郎は、直木三十五賞において授賞決定後に辞退をした史上唯一の人物です。

<あらすじ>

成り上がった男が最後に求めたのは、馬主としての栄光。だが絶対王者が、望みを打ち砕く。誰もが言った。もう無理だ、と。しかし、夢は血とともに子へ継承される。馬主として、あの親の子として。誇りを力に変えるため。諦めることは、もう忘れた――。圧倒的なリアリティと驚異のリーダビリティ。誰もが待ち望んだエンタメ巨編、誕生。

<感想>

デビュー作の『ひゃくはち』と日本推理作家協会賞の『イノセント・デイズ』は映像化されていますし、また先日の2020年本屋大賞候補になった『店長がバカすぎて』をお書きになった早見さんですから、いずれかもうお手になさった方も多いのでしょうか。

早見さん自身、作家になって10年の集大成とおっしゃられる通り、圧巻のエンタメ小説でした。競馬をあまりしない私も、走る馬の美しい体躯や蹄が蹴り上げる土、その影さえも見えてくるような文体に引き込まれ、500ページの長編小説も一気に読んでしまいました。

舞台は東京。
長野で幼い頃から父親一人の手で、兄と育てられた主人公の栗須。税理士の仕事にも懸命な父の後ろ姿を見て育ちます。

「父を助けたい」思いで自分も東京で税理士になるものの、父の死後、想いに応えることないまま亡くしてしまった後悔という心の穴が、作中終始漂っています。

栗須はその後悔の念から、ワンマン社長の秘書となります。

第一部は、ワンマン社長の山王耕造と愛馬ロイヤルホープがG1制覇に挑みのめり込んでいく物語。
第二部は、耕造の遺志を継いだ息子の耕一と愛馬ロイヤルファミリーの活躍が描かれます。

競馬の世界に馴染みがなくても、語り部でもある栗須が競馬初心者の設定ですから、安心してストーリーに入っていけます。ストーリーと文章表現が素晴らしいので、レースの勝敗に一喜一憂する登場人物達と共に、自分も賭けているような錯覚を覚えることでしょう。


血統の掛け合わせや買い付け、調教などレース外で既に始まる馬主同士の戦い、諸条件を整えても最後は偶然に左右される遊戯性、勝っても癒えない馬主の孤独。その圧倒的なリアリティーには、入念に関係者から取材なさったことが感じられます。(もちろん、早見さんの競馬への愛も!)

血統は、馬だけではなく、耕造と耕一の間にも受け継がれます。二代記ならではの伏線も楽しく存分に味わいました。

早見さん自身も大学時代に競馬にのめり込んだとのこと。有馬記念で学費1年分の大金を稼いだと思えば、帰り賃もスって府中の競馬場から家まで歩いて帰った夜の甲州街道の風景がなぜかキラキラした思い出もあるそうで。

スピーディーな展開と、緻密に練られた二代記。人生に差す光はまばゆく、当然相反する影も存在する。読み通した時の余韻を、是非味わって頂きたいです。


この記事が参加している募集

読書感想文

文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです