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店長がバカすぎて(早見和真/角川春樹事務所/本屋大賞ノミネート候補作品)

<著者について>
早見和真さん

1977年神奈川県生まれ。 2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。 2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。 『ひゃくはち』『イノセント・デイズ』以外にも、『ぼくたちの家族』『小説王』『ポンチョに夜明けの風はらませて』など多くの作品が映像化されている。

<本屋大賞とは?>

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2004年に設立された、NPO法人・本屋大賞実行委員会が運営する文学賞である。 一般に、日本国内の文学賞は、主催が出版社であったり、選考委員が作家や文学者であることが多いが、本屋大賞は、「新刊を扱う書店の書店員」の投票によってノミネート作品および受賞作が決定される。

<あらすじ>

「幸せになりたいから働いているんだ」
谷原京子、28歳。独身。とにかく本が好き。
現在、〈武蔵野書店〉吉祥寺本店の契約社員。
山本猛(たける)という名前ばかり勇ましい、「非」敏腕店長の元、
文芸書の担当として、次から次へとトラブルに遭いながらも、
日々忙しく働いている。
あこがれの先輩書店員小柳真理さんの存在が心の支えだ。
そんなある日、小柳さんに、店を辞めることになったと言われ……。

<感想>

『本屋大賞を狙っている本』そんな疑いフィルターは捨てて読んでください。街から本屋さんが消えていくことに、皆一応に寂しさを感じている今、書店の実情が知れるのも魅力です。小さな書店には、話題の新刊が入荷しない?版元が得りたい本に報償金付くため社員まで買う?壮大な自転車操業に陥らせているように思われる再販制度?知っておくべきですよね。作者の書店に対する愛情が根底に流れています。先の事を考えて一番追い込まれそうな30間近の契約社員を主人公にしています。無意味な朝礼、店長のうっかりミス、尊敬する先輩の退社など、彼女の多忙な日々は小さな不満や不安が渦巻いています。周りに期待して失望するその繰り返しの彼女の気持ち、男性の早見さんはどうしてこんなに汲み取れるのでしょうか?書店員という仕事にかかわらず、誰にでも当はまる筈です。店長はウザくて、行動は的はずれで、空気の読めない鈍感な人。でもどうしても憎めないんですよ。腹立たしいエピソードもあるけれど、軽やかでコミカルで、エッセイならまだしも、物語で人を笑わせるという難しさに、早見さんは挑んでらっしゃいます。
私は思うつぼにはまり、自分に起こったことじゃないですから、悲劇に同情しつつも、たくさん笑ってしまいました。

「周りの小説好きには、他者を全く想像できない、頑固なひとが多い気がしてならない」「人との距離の取り方と読書率は何かしらの因果関係がある気がしてならない。」なんて、周りを見渡したくなりませんか?自己啓発本には項目分かりやすく書かれているかもしれないけれど、自分じゃない誰かの人生を追体験できる小説こそ最高の啓発本であるはずだし、生きる上での道標であることを、彼女と一緒に再確認しながら、読み進みました。私の場合は、「感想が他の人達と違っても恐れない。けれど勝手にバイアスをかけてしまい、他人を曇った目にさせてしまってはいけない。本の評価に正しいも正しくもないもない。」と感じる彼女に自分を重ねました。「どんな仕事でも働く意味は絶対に自分自身の中にあって、自分で選びとらなきゃいけないんだ。日々の理不尽に耐えられるのは、当たり前だけど、幸せになりたいから」と行き着くまで、彼女とのどたばた、でも懸命な日々の旅にどうぞ。ラストは驚愕のサプライズが待っていますよ。


先輩の呟きに『年月を経るたびに重いものを背負わされていくし、ままらないことも増えていく。でもその状況に追い込まれれば追い込まれるほど、本が愛おしくなっていくし、今の自分を逃してくれる救いの物語が、不思議なことにタイミングを見計らったように現れるんだ。』というものがあります。私達は、子供の頃から悩みの大きさは違えども、この事を体験として知っているから、日々本との出会いを求めているのでしょうね。ドラマ化された編集者と作家の関係を描いた『小説王』も早速読みたいと思います。


文学賞候補を読んで感想を書いていきます。今後の本選びの参考にしていただけると嬉しいです