見出し画像

読み切りを読み切る──「人外失格(モノノブ)」(『ジャンプ+ 』2020.5.29掲載)

──この世界はどうして自分が生きる為に他の者を犠牲にしなければ生きていくことができないんだろう? …って考えちゃって
…私にはそれが悲しいの        
(p.21)

勝手に読み切り漫画のレビューを書く男がいるらしい。俺ですが。

読み切りっていうのはまず面白いし、何よりもデビュー前の将来の大作家を見出すことができます。他のニュービーにマウント取り放題です。あなたはジャンプGIGA(または赤マルジャンプ、ジャンプNEXT!)を買って読んだことがありますか?ありゃりゃ、ないんですか(笑)それは残念です(笑)

大丈夫。最近は、ジャンプGIGAを買わなくてもジャンプ+(https://shonenjumpplus.com )で良質な読み切りを掲載してくれます。読者としては本当に良い時代になりました。なのでみんなも読み切りを読み切ろうね、という不定期連載企画です。

まず大前提として本作、「人外失格」について、未読の方がいたら是非とも読んで欲しいです。以下の文章は完全な蛇足であり、ただ読んでくれ!というのが書きたいだけなので。本作を読んでくれたら既に用済みのゴミクズ文章(トラッシュ・テキスト)なので。ご了承下さい。

──以下、本題です──


まず、恥の多い生涯を送ってきました──という本作と同じ書き始めの小説とは、あまり関係がありません。なので単純に本作を彩るファクターとしての役割だと思います。オシャレだね。

注視すべき点は、流麗で澱みないセリフ回しです。

──朝起きたら寝癖がヒドかったり 雨の音が悲しかったり 夕暮れがすごいオレンジだったり 寝るか寝ないかで悩んで 寝るならもう二度と目覚めなくてもいい……とか くつ下に穴があいている よく蚊にさされる 傘がない……      (p.15)

以上は本作におけるボーイミーツガールのボーイの方こと、柿蔵葉介(かきくら ようすけ)のセリフですが、このシーン、自殺する理由を「煩悩の数ほどある」と前置きした上で語るシーンです。

……めちゃくちゃ良くないですか?

これはもう、詩じゃないですか。言葉選びが非常に叙情的で、センチメンタルな気分になれる。このシーンだけで心を掴まれました。

とか思いながら読み進めると、

……でもそういうのを全部ひっくるめて そんなことどうでもいいやって 時々思わせてくれる人がいて もうその人のそばに いることができないってことが一番 僕に死にたいって思わせることかもしれないな        (p.15-16)

 これですよ。

アニメーションでもないのに、周囲の音や風景がぴたりと静止したような感覚。優れたセリフ回しには、これだけの効果がある。ボーイミーツガールのシーンとしてこれ以上のシーンはなかなか書けない。

そもそもボーイミーツガール(以下BMG)なんて、もはや作話の類型ですらありません。神話だってBMGですし、そもそも人類はBMGから生まれてます。何が言いたいのかというと、もはやBMGに至る展開そのものはドラマではなく、二人の人間性にこそドラマがあるということだから人類は皆ドラマを生きています。よかったね。

少し脱線しましたが、つまりこのシーンは本当に最高だということです。恋人もしくは想い人が死んだ、なんて安易なセリフを絶対に言わせない。このセリフがあるだけで、葉介の背後にあるストーリーを読者は考えさせられます。たった一コマで物語が二倍に膨らむということです。ヒロインのリビが突き動かされ、「人外失格」になるには十分な理由。読み切りというページの制限を捻じ伏せる迫力がある。

そこからは本記事の冒頭で引用した、海で戯れるシーンに移行するわけですが、ただただ素晴らしい。この漫画はロケーションもいい。設定的には雰囲気が暗くなってもおかしくないんですが、海の青さや美しさが、爽やかで甘酸っぱい読み口にしてくれています。

あとはもう、これこそ蛇足になってしまいますね。ヒロインの、現状からの脱却と覚悟の結露が感動的なクライマックス。これ以上語ることはできません。戦闘の終了と同時に夜明けが来て、最後のページに色がつくのも、白黒からの変化が象徴的になっており、つくづくいい作品だと思います。

画像1

▲ヒロイン、リビの印象的な瞳。こういう身体の一部が変化するタイプの表現は散見されるが、このデザインは独自性があっておもしろい

これは本当になんの根拠もない憶測ですが、モノノブ先生にはアニメーションの経験があるのではないか?と思っています。それぐらい、絵のぼかし方、動き、光の表現がいい。

彼らの旅路を応援したくなるのと同時に、モノノブ先生の今後を応援したくなる作品です。勝手ですが応援させていただきます。株を今の内に買い占めておきます。皆さんも是非一口乗りませんか?次回作、本当に楽しみにしています。


読み切りを読み切る、次回はソウイチロウ先生の「彷徨う死の神」を予定しています。できれば今の内に読んでおいてくださいね。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?