へそ毛をめぐる冒険 '23
この地球上のありとあらゆる事象を僕は知っているつもりでいた。君が長い間ずっと隠し続けてきた事実を告白するその時までは────。
令和五年二月。
君の放ったその言葉が僕をひどく困惑させた。
へそに毛玉ができるだと?
言葉を失った瞬間は一番幸せなんかじゃなかった。この世界にはまだ、僕の知らない事実があったのだ。僕はそんな自分を恥じたし、動揺せずにはいられなかった。まだ見ぬ世界のことをおもった。
いったい君はワンシーズンでいくつの毛玉を生み出すのだろうか。
それは君の身体の真ん中の一番深いところで作り出されるのだろうか。
僕は君が織り成す毛玉のことをおもった。
重さは?光を放つ?浮力あるの?
それから彼ら(毛玉)のあてもない行く先のことをおもった。
彼ら(毛玉)の暗闇での孤独をおもった。
いつの日かこの世界から消えてしまう日のことをおもった。
ひょっとしたら僕の人生は、彼ら(毛玉)となんら変わりない一瞬で過ぎ去ってしまう儚いものなのかもしれない。そう思わずにはいられなかった。
だからこそ君に出会えた奇跡をおもった。
偽りだらけのこの世界でたったひとつ確かな真実があるとすれば、それは君が今年もせっせとへそで毛玉を作っていることだけなのかもしれない。
冬がめぐってくる度に君がへそで毛玉を紡ぐように、僕はぼくなりのやりかたで僕の心のずっと深いところで、はかなくて無力で、でも確かに抱えている大切な(毛玉じゃない)何かを、自分自身の言葉でしっかりと紡いでゆくつもりだ。この先にどんな未来が待ちうけていようとも。
耳を澄ますと、はるか遠くで君の身体から生まれたばかりの毛玉がふんわりとそしてしなやかに、練馬のあたりに降り立つ音が聞こえた気がした。
僕の耳だけに、たしかに。
と、思ったけど完全に空耳だったよ43歳おめでとう。
君の勇気ある告白がほんの少しでもいいから、秘密(毛玉)を抱えているみんなにとっての救いとなりますように。
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このnoteは【ドングリFMリスナーの Advent Calendar 2023】12日目の記事として書かれた。8日目はりゅうきさんでした。14日目はK..Tomomiさんです。