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美味しいを求めて!「シェフの目のつけどころ」

「俺らは美味しいものを作ってるんだ。間違ったことはしていない」

いま飲食業界で話題のドラマ「グランメゾン東京」で木村拓哉さん演じる尾花が言った言葉。

これって励まされた人めちゃくちゃいると思うんですよ(僕もちょっとオワァーってなりましたし)

でもそれは誰にでも当てはまるだけじゃなくて、自分への甘えになる事も忘れちゃいけないなぁと。(特に僕なんかは注意!)

『お・い・し・い』

この言葉はとても抽象的で「料理の美味しさって単純に、目のまえのお皿の完成度だけを求めれば最高まで辿りつけるのだろうか?」

僕が初めてシェフ(厨房のトップ)になり、責任感と高揚感が交差する頃、毎日のように考えていました。

もちろん下積みの時だって、玉ねぎを切る仕事に意味を求めていたのは確かで、縦に切るのか横なのか、薄いのか、みじん切りなのか。などなど

なぜそうしないといけないのか?このあたりまえは正しいのか?それを考えなくなると「仕事」は「作業」になる。常になぜ?を掘り下げる。

この言葉が僕が若手のときから自分に対して言い聞かせてきた言葉で、料理人として生きていく中で支えになっているのは間違いないです。

だけど今でも気を抜くと忙しさに追われて忘れてしまうんですよね。そこでハッと気づける時は良いのですが、僕は弱い人間なんでこうやって書いたり、伝える(いいわけできない)状況に追い込むふことで無理やり自分を理想の料理人という「型」にはめてきました。

いまの時代、飲食業界での教育もすこーし変わってきたので昭和的な古い考えかもしれませんが僕は、この責任とプレッシャーは成長する潤滑油になるのでけっこう好きです。

そして料理人ならば料理をつくることと同じくらい、「考えて食べる」ことにも貪欲になったほうが良いと思ってます。それは高級な店に行くとかではなくて(行けるなら行ったほうが良い。自分でお金払って)自分が美味しいと思うものは、なぜ?美味しいのか自分の言葉で説明できるようにすることで料理のメッセージが明確になって、ゲストへ伝わると思うんです。

イメージとしては、味に対するインプットの量と密度を意識して脳に貯めて→言葉というフィルターに通し→技術と経験で調理する。ような感じです。

偉そうに語ってますが、今でも意識してトレーニングを続けないと筋肉と同じで、すぐ落ちます。

ちょうど最近、僕のレシピで少し話題になった『りんごのモスタルダ』があるので、今回はそのリンゴに焦点をしぼって食材としての美味しさを考えてみようと思います


まず美味しいリンゴと言われると皆さんはどんなリンゴを思い浮かべて説明しますか?

なるべく言葉にしてみてもらえると面白いとおもいます。



僕は色んな品種があるなか特に、今の時期に出回る日本でも収穫量第1位の「サンふじ」が最強だと思っています。

その理由として、僕はたくさん食べているうちに美味しいリンゴを評価する基準がありまして…

それは

見ためが、赤と黄色のグラデーションで、切ったときの感触から果肉の密度がきめ細かいのが感じられる。断面に注目すると中心には蜜がたまっていて、同時にリンゴ独特の甘い香りが鼻に抜ける。食べてみると、ストライクゾーンのせまい水分量のバランスから生まれるシャクシャクした食感。その味は優しい酸味から始まり、その酸味を包みこむよう厚みのある甘味が追いかけてくる。そして噛むごとに口の中が潤うくらいのジューシーな瑞々しさ。のどを通る最後まで、まとわりつく豊潤な香りがあるリンゴが好きです。


そして、その美味しいと感じる理由もなぜなのか掘ってみましょう。

まず見た目の、赤と黄色のグラデーション→これは葉摘みの工程で変わります。

ヨーロッパでは主流なのですがリンゴの葉は、あえて摘みません。それは葉っぱが太陽をたくさん夏に浴びて光合成することで、その養分がリンゴの実へと届けるときに「ソルビトール」という甘味成分に変化することで果肉の中に蜜がたまりやすくなるからです。しかし日本では綺麗な赤を出す為に葉を摘むことが多いです(リンゴも太陽を浴びて赤くなるから)

次に酸味と食感→これは収穫のタイミングでかなり左右します。先ほど蜜の話をしましたが、この蜜はジューシーさやシャクシャクした食感を担う大切な役割があります。僕は料理でも食感にかなりコダワリがあるのですが、オモシロイことに今度は逆で、ヨーロッパでは、みずみずしいものは避ける傾向があるようです(イタリア人に聞いたら水っぽいという理由なんですって。訳わからん!)

あとリンゴの蜜は貯蔵時間を長くとると見えなくなります。でも無くなるわけではなく、水分(蜜が)実にまわるからで見えなくなっただけで甘さは変わりません。ヨーロッパは加工する方が多いのでこの状態を好むみたいです。

更に

甘さは変わらないのに(現にヨーロッパでは蜜が多い=水分が多いのは好まない)なのになぜ?僕は噛むごとに得られるジューシーさを求めるのか。それは日本人の舌の構造や唾液の分泌量に理由があると思ってます※諸説あり

そしてこれは求めてもコントロールできなくて(それで良い)、収穫するタイミングを決める農家さん次第で状態がすごい変わるんです。

先ほど貯蔵することで密が全体的にまわるとお話ししましたが実は酸味にも影響があります。

甘味の量は収穫前で決まるのですが、水分量(蜜)にに関しては貯蔵することで食感が変化し、甘みがリンゴ全体にまわる段階で酸味はやわらぎます。でもぼくはリンゴには適度な酸があることで本来の特徴ある甘みが輝く思うんです。

(ちょっと落ち着きますね……)

なので僕の美味しいと思うリンゴを求めるには、「食感、酸味、水分量、甘さ、香り」のバランスが非常に大事です。でもこちらからは選べない(農家さんのタイミングに委ねられる)んです。


そんな僕の好きな食べ物で、条件がそろった奇跡のリンゴと出会ったときの嬉しさはホントに言葉になりません。

お付き合い頂きありがとうございました








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