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『フューチャー・ネーション』を読んで

新刊をジャケ買いして、しばらく置いてあったものをやっと読了しました。フューチャー・ネーション、国家をアップデートせよ、という、壮大なテーマです。若干個人的には、暑苦しい感じはしましたが、最初から最後まで一貫して、著者の世界国家への熱い想いが展開されます。
どんな人が作者なんだろう?と背表紙の裏ショットを見てみると・・・若い!!

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ビル&メリンダ・ゲイツ財団とは! ビルゲイツに見込まれた若手天才系?!でしょうか。ロンドン住みのお父さんがイラク人、お母さんがアイルランド人。お髭をはやしてるけど若いよね・・・と思ったら30台半ばでした。

ネット記事もありました。ゲイツ推しですね。
今はトランプなど、極右とも言えるナショナリズムの時代に、あえてグローバリズムの理想郷についての書籍は刺激的な内容です。私もコロナ禍の中で興味をひいて購入した訳で、パンデミックのような歴史上大きな転換期となる現在にインプットしておきたい考え方だと思いました。

訳者の土方さんは『サイロ・エフェクト』の方なんですね。会社のマネージャー研修の課題図書で読みましたが、研修に使われるくらいストーリーも面白く訳もよかったです。良本を翻訳される方ですね。

ハッサンさんの初の著書ということもあって、テンション高めの本なので結構な量をトラッキングしてしまいましたが、まとめながらレビューしていきたいと思います。ちょっと長めです。


「with コロナ時代」を切り拓くフューチャー・ネーション

イギリスのブレグジット(EU離脱)推進派のボリス・ジョンソン首相。
他国への避難、孤立主義、ゼノフォビア(外国人憎悪)といった主張も幅を利かせている。世界人口の半数以上がすでに世界市民という自己認識を示した。
国際政治学者 イアン・ブレマー
新型コロナウイルスは「ゴルディロックス的危機」ではないかと問いかけた。よりよい世界を構築する能力を完全に毀損するほど破壊的ではない、いわば「絶妙な加減」の危機という意味。

冒頭に"日本の読者のみなさんへ"とあるので、思わず読んでしまいます。
ちょうど世の中が、with コロナ時代になったこともあり、著者のいう国際的な社会情勢が歴史的な観点で大きな変換期であることは間違いないし、その中で世界市民というキーワードが出てきます。日本人についても言及されていましたが、少し違うような気もしました。
日本人の圧倒的な層は、昔のまま鎖国的な文化・思想・視野で生きているような気もします。私たちの世代がちょうど団塊ジュニア、親の世代が団塊世代とすると同じような感覚があると思います。何とか開国したいですが、やはり英語圏の壁があるんでしょうね。私も含めつくづくそう思います。

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Introduction グローバリズムをアップデートせよ

「国家」とは何か、ナショナリズム
アイデンティティ、重層的なアイデンティティはその下で生き続ける。
国民国家では力不足。オープン・ポリティクスを標榜し、ナショナリズムはもう古い、と訴えかける人々もいる。
コスモポリタン(世界主義的)な未来を目指そうというものだ。
人間は本能的な部族意識を捨て去ることが出来ない。「部族意識」を健全に活用しよう。

国民であったり、国家と言われるものからイメージする言葉は、ナショナリズムですが、いきなり出てくる"コスモポリタン"という言葉が聞き慣れずでした。世界主義的な未来を目指す、という視座にたった著者の熱量が早くも全開です。
ユヴァリさんのサピエンス的な感じの視点も踏襲してるのかな。
人間の本能を俯瞰的に見つつ、グローバリズムの意味合いをアップデートしたいのでしょう。

この本の3つのメッセージ。
グローバル国家は実現可能である。
反グローバリズムのうねりが高まっている原因は、現在のグローバル・コミュニティの不公平さにある。
グローバリズムは魅力的でインクルーシブなビジョンを提示することができる。

この本で提言したいメッセージは3つ。
最初なので、少々ぶっきらぼうに宣言してしまっている感じを受けましたが、今回が初の著書になるから仕方ないのかな。

フューチャー・ネーションの6原則
①「私たち」とは誰か、真にインクルーシブな定義が必要。「西洋人」という曖昧な表現を使うのは、もうやめるべき。
②グローバル国家が何を目指し、何に抗うかを明確にする必要。「持続可能な開発目標」(SDGs またはグローバル・ゴールズ)
③人々が大切にしているアイデンティティや制度が排除されたり破壊されたりしないように保護する。「国民国家」という枠組みは維持、可能な限り自立性を残し、互いに危害を及ぼさないという基本ルール以外に制約を課すべきではない。
④移民の流入を、国民が民主的にコントロールする権利を尊重。
⑤税金などの富裕層への負担の仕組み。
⑥フェアな地政学的秩序。

最初の最初にオチが書かれてしまっている感があり、この時点ではストンと落ちてきません(笑)
最後まで読むと理想のグローバル国家の定義やら、それをベースにしたルールなども納得感が出るのですが・・・。この本のタイトルにあるフューチャー・ネーションの原則です。

と、ここまでイントロ。ここからこれらを一つずつテンション高めの論述が始まります。

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グローバリストとナショナリスト

ナショナリズムが世界を変えた4つの要因
要因1  教育の普及
読み書きのできる人の割合。1960年代 42%  →  2014年  85%
要因2  「共通語」の誕生
世界人口の4分のいちが英語を理解すると言われている。
英語が最初で最後の世界語となる可能性がある。
要因3  マスメディアの登場
YouTube・Facebookは20億人ものアクティブユーザーを抱える(2018年5月)
ソーシャルメディアの普及 → 自分と同じような価値観や意見を持つ人しか交流しない。 → 「エコチェンバー現象」を増幅し、社会的分断を助長するという通説。2008年の世界金融危機以降、世論が実際に二極化し、それをSNSが顕著化させた。ソーシャルメディアにより、社会問題をめぐる議論が一段と普遍性を持つようになっている。
要因4  ホワイトカラー層の「往来」
途上国ほど「世界市民」を自認する人が多い。

この手の話は、歴史学者のユヴァリさんのホモデウスやサピエンス、ファクトフルネスのような本にも同類の数字はあったように思いますが、改めて言われるとやはり驚かされます。
やはり、要因3にあるソーシャルメディア革命によってここにある「エコチェンバー現象」をどう捉えるかが重要なポイントのような気がします。著者が言うように社会的分断を助長すると言う説は誤りで、グローバルレベルでの見える化が促進されたのだと思いました。それが結果として世論のようなものが、普遍性を持つようになったと言うことではないでしょうか。その中で様々な考え方がそれぞれ共通性を持ち、繋がってきているような気がします。
国民国家という帰属心は、ナショナリズムという意識で残りながら、様々な思想が共通化し普遍性を持つ、そのような流れが著者のいうグローバル国家の下地になってくるのだと思いました。

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ミッションを定め、敵を見きわめる

グローバル国家のミッションとは
SDGs  国連に加盟する193カ国の政府すべてが同じ目標という一致点を見出した、過去に例のない快挙。
イギリス人 NHSを国の誇り。国民健康保険。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC、誰もが適切な医療サービスを受けられる制度)アメリカは言論の自由とい武器保有権。日本では清潔さへの高い意識。

敵というと、少々過激に聞こえますが、まさに今日本でも結構なおっさんが胸にピンバッチをつけている"SDGs"こそが、世界共通の敵であり、取り組むべきグローバル・ゴールなのだということです。
確かに、193ヵ国の全ての政府が同じ目標ということは、快挙というか素晴らしいことだなと改めて思いました。
先日、知り合いのコンサルのおっさんが、『最近、エスディージーズってのが儲かるらしいでっせ!』と言っていたくらい、一般的になってきてますしね。
ちと、超真面目にSDGsを研究してみないといけないですね。
著者が言うように、世界共通の目標という意味では画一性はありますが、各国で誇りに思う軸になるテーマはあるように思います。日本が清潔さへの高い意識ってのが、ちょっと???ですが(笑)
日本国民がリーダーとなり取り組むべき、持続可能な開発目標は何なのか?考察してみるのも良いかなと思いました。


勝者のタダ乗りを許さない

世界の富の8%はタックスヘイブンに隠されている。
富の所有者が居住国の税務当局に申告しているのは20%に過ぎない。
世界のタックスヘイブンは80あまり。
イギリスのNGO「オックスファム」の調査
2017年に新たに生み出された富の80%が世界のもっとも豊かな1%の懐に入る一方、世界の貧しいほうの50%に含まれる35億人の富はまったく増えなかった。

ビルゲイツの財団にいる方が言うのだから、間違いないのでしょうが、著者がこの本で一貫していう財源は、富裕層からの税収入ということです。
タックスヘイブンが世界には80もあることすら知りませんでした。それにしても、新たな富の80%が、上位1%に入るって・・・。何ともコメントし難いあり得ない状況です。更にそれがタックスヘイブンで粉飾されて寝かされる訳です。
このような話を知ると、既に国家の仕組み、資本主義の根本的なゲームのルールが崩壊しているとしか思えません。イカサマ・カジノみたいですね。

財産税や法人税引き下げの圧力に屈し、勝者のいない「減税競争」
アメリカ、EU、OECD、G20
国際協調が進む。透明性の向上と情報共有の強化。
他の子会社との実体のない取引は非常に規模が大きく、国連の調査では国際貿易の60%を占めるほどだという。税源侵食と利益移転 。

このような理不尽極まりないものが、是正されるのであれば、グローバル国家も大有りだと読んでいるうちに思いました。
国家単位での、法律・ルール・税などが競争原理の中で、減税競争に陥るのであれば、国家よりも上の層での仕組みを考えないといけません。
ここでいう、「透明性の向上」と「情報共有の強化」は大賛成で、核戦争の脅威と同じレベルで取り組んでもらいたいテーマだと思いました。
実体のない取引についても、完全に確信犯であり、それらを助長する仕組みは全廃しないとダメなのでしょうね。
その改革を握る人たちが、ステレオタイプの西洋人なのなら、SNSの仕組みをフル活用した徹底的な"見える化"の促進なのだと思いました。
AIなどが当たり前になる中、時間の問題なのでしょうが、同様にブロックチェーンなどの新たな技術革命により仮想通貨のようなジャンルも出てきており、いたちごっこにならないように、しっかりとコントロールできるルールが求められているのでしょう。

システムを支えるルールを公平に

「自由」はルールの下に生まれる。
5つの基準
確実性、柔軟性、インクルーシブな意思決定、圧倒的多数、違いの尊重。
グローバル・ガバナンスの改革について再び議論を始めるにあたり、提案する評価基準。テニソンがかつて夢見た「人類の議会」に大きく近づく。

アメリカを始めとする西洋人が、好き勝手すること自体を「自由」だというのなら、それは間違いで、グローバル国家の自由はルールの下に生まれるべきだ!という著者の意見に共感しました。
ここでの基準は、本書に一貫して書かれている、ナショナリズムをベースにした、新たなグローバリズムの観点で考えられています。
様々な思想・価値観・意見などをインクルーシブに受け入れる重要性や、違いを認め合うことが重要だということでしょう。
その中での、グローバル・ガバナンス=ルールを考察し、「自由」も大切なのだとすると、必要最小限のものであるべきであり、成長し続ける評価基準なんだと思います。

フューチャー・ネーションへ

あらゆる人が同じ人類として、真にインクルーシブな視点を持つようにする。
国連の冷淡なSDGsアジェンダ文書を、心を打つようなミッションに書き換え、
「他者」と闘おうとする本能をパンデミック、気候変動、貧困との戦いに振り向ける。
国民国家や民主的な意思決定を尊重し、国民から国家の改革のペースをコントロールする権利を奪わない。
国際協調を通じてあらゆる財産を明らかにし、課税する。
国連をより正当性と有用性のある組織に改革する。

この文章が、何となく本全体の言いたいことを表しているなと思いました。
著者の熱い熱いグローバル国家への想いが現れています。
究極の理想家だと言ってしまえば、それまでかもしれませんが、現状の極右ブーム的な社会情勢の中で、逆に新たなグローバリズムの提言は新鮮で面白いと思います。
更に、それらを裏付けするように、世界市民のような意識がグローバルで芽生えてきている状況や、富の分配など具体的なプランを見ると、グローバル国家も夢ではないと思うようになってきました。影響受けやすいです(笑)

「全人類共通の国家」、3つのシナリオ
シナリオ1  アラブの歩み
シナリオ2  中国の歩み
シナリオ3  印パ分裂後のインド
不完全ながらも、同じ歴史と運命を共有しているという意識がある、さまざまな言語、宗教、国家に属する人々が、それぞれ固有の社会的絆に誇りを抱きつつ、一丸になって人類共通の課題に立ち向かおうとする連帯感がある。

最後は、フューチャーネーション(全人類共通の国家)ができるとしたら、人類の歴史の中からの考察でどのようなシナリオが想定されるかが、3つのストーリーで語られています。
近代史など私は全然詳しくないのですが、著者のいうシナリオ3のインドのモデルは、確かに自分の社会人生20年余りで起こったことなので理解できるような気がしました。カオス的な人口爆増の中で急速に成長しながら、マインド面でもナショナリズム的な連帯感を持っているのであれば、その中に様々なヒントがあるのしょう。


最後に思ったこと。日本人のナショナリズムについて。


この本は最初から最後まで、結構ハイテンションな感じなので少し疲れましたが、著者の熱量というか、熱い想いは伝わってきました。
10年以上前の話ですが、ある外資系企業のIT部長さんと西新宿の居酒屋で飲んでいた時、

「中村さん、日本人にナショナリズムはあると思いますか?私はないような気がしてて、みんな何考えてるんでしょうね」

と、ふざけた話の中で突然、真面目なテーマになり、居酒屋談笑ベースで結構盛り上がりました。
その当時の私は、この手の本など微塵も読んでいなかったので、正直、全くナショナリズムのような国民としての連帯感なかったので(笑)

ちょうどサッカーのW杯の時期でどこを応援するの?のような話からの流れだったので、「サッカーも日本も興味ないなー」とか話をしながら、他国に比べて日本人は熱狂的にナショナリズム剥き出しではないんじゃないかと、話をしたことを覚えています。

その時から、結構『ナショナリズム』という言葉を時折意識して考えることはあったのですが、日本は戦後アメリカの支配下の経験したし、戦後の団塊ジュニア世代に至っては、うちは仏教だけど基本無宗教?的な人も多いように思います。

自分の中で、ナショナリズムという概念は、「今、自分のメンタルがどこに帰属しているのか」というもののように感じており、そこを心の拠り所にして、メンタル安定・強い意志などがうまれるように思うからです。
ちなみに、その質問をされたお客様は、創価学会の方だったので、何となく無宗教の私よりも、ナショナリズム的な強さをお持ちだな、と感じました。

私に至っては、「アイデンティティの追求!自分しか信頼や連帯感はない!」と今でも思っているので、この手の本を読むと考えさせられるものがあるなぁと思う次第ですw



日本人のナショナリズムへの熱量はどうなんだろう、ふと考えることがあります。Wikipediaを見ると以下のようにありました。

各宗教の信者数は、文化庁『宗教年鑑』平成29年(2017年)版によると、神道系が8473万9699人(46.5%)、仏教系が8770万2069人(48.1%)、キリスト教系が191万4196人(1.1%)、諸教(神道系・仏教系・キリスト教系以外であるもの[分 1])791万0440人(4.3%)、合計1億8226万6404人となり、これは日本の総人口(約1億2600万人)のおよそ1.5倍にあたる。したがって複数の宗教の「信者」として数え上げられている国民が確実にいることになるが、一方で個々の国民へのアンケート調査などでは、「何らかの信仰・信心を持っている、あるいは信じている」人は2割から3割という結果が出ることが多く、逆に総人口を大幅に下回る数しか宗教の「信者」がいない、または「信者である」と思っていない、ということになる。(Wikipediaより抜粋)

信仰心を自覚している人の割合が2割から3割という結果が多いということは、何となく納得させられるものがあります。宗教的なものを軸にした国民国家のナショナリズムは薄いといわざるを得ません。

あと、そうなると残るは本命の政治ですが、近年の選挙投票率なども、目もあてられませんし、最近では、安倍内閣も変わり菅総理がデジタル庁やハンコ撲滅だー!とガンガン進めてはいるものの、反応はイマイチ薄い気がします。
IT系の仕事をしていて思うことは、デジタル国家が世界に既にある今、他の先進国と取り組みというかチャレンジすらしてない日本は、大きく離されている状況に危機感しかありません。
全国民が何か反応しているかというと、マスコミの煽りも悪いですが、なかなか普段ごとのGoToトラベルくらいですしね・・・。
私も含めて反省せねばですが、もっと何らかの連帯感がないと日本という国の強さが出しにくい状況なのかと思います。

若者層の関心度については、内閣府の調査を見ても、他国に比べやはり薄いですね。

日本の若者で、「今の自国の政治にどのくらい関心がありますか」に、「非常に関心がある」又は「どちらかといえば関心がある」と回答した者の割合は43.5%であった。(内閣府Webより抜粋)

このサイトは、面白いと思いました。
この手のナショナリズムのベースとなりうる要素のスコアが低いと、自分自身への自信であったりも同じように低い傾向が見られることです。
やはり、日本人のナショナリズムは薄く、総じて他の先進国に比べるとメンタル系の軸足がないために、国民性が弱くなっているように思いました。

最後に長々と書いてしまいましたが、私も昔から「究極の自己認知・アイデンティティの追求だ!」と自分に言い聞かせているという反面で、ナショナリズムがなく、それを求めているのかもしれないな、と思いました。
また、そんな感じの中で、グローバリズムというものは内気になる気質のメンタルとなって、どこか遠いもののように感じているような気がします。
この本は、そんな考察を深めさせてくれた気がしました。

©️Mahalopine

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