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#79 心理的安全性は流行なのか

~心理的安全性は,規模,仮想性,複雑性などのチームの文脈的特徴に基づいて変化する可能性がある(AC. エドモンドソン 2004)~

最近,facebook広告やシンクタンク系メールマガジンで心理的安全性に関するセミナーや研修の告知を目にすることが増えました。ところでこの心理的安全性という言葉はいつごろからHRM(Human Resource Management)で語られるようになったきたのでしょうか。

心理的安全性という言葉は,Google社が2012年に行った「プロジェクト・アリストテレス」という労働改革に関する調査で言及されたことで一般的に知られるようになりました。この調査では「チームの生産性にもっとも影響を与える要素は心理的安全性である」と結論付けられています。

ところで心理的安全性(psychological safety)という言葉自体は,1965年にエドガー・シャインが「心理的安全性は,組織で働く人々の能力を向上させるため不可欠である」と論文内で使用しています。その後アカデミズムの文脈ではあまり目立った動きがありませんでしたが,1990年代の後半から再び注目を集めるようになり,これまで多くの研究が蓄積されてきています。そのような学術的な積み重ねの上にGoogle社のリリースであることは,見逃してはならないでしょう。

1990年代後半から心理的安全性が再評価されてきたのにはいくつかの背景があると思われますが,その中で筆者は以下のようなものを仮説として考えています。

  • 右肩上がりの経済成長を期待できなくなり,成果を求める企業にに対する労働者のフラストレーションがたまりやすくなったのではないか。

  • 情報技術が発展したことにより,それまでの対面でのコミュニケーションの機会が減り人間疎外の問題が生じ始めたのではないか。

  • 価値観の多様化や国際化により組織文化がローコンテキストになり,相互理解や信頼性の構築に齟齬が生じ始めたのではないか。

現在,社内の心理的安全性確保のためのアウトソーシング・サービスのようなものも登場しているようですが,まずはなぜ自社で心理的安全性が確保できないのかの原因を特定して,それを取り除くことから始めることが肝要なのではないでしょうか。

また,AC. エドモンドソンは2014年の文献レビューで「現代の労働環境は外的・内的環境と密接に関連してパフォーマンスに直結しており,心理的安全性に環境変化や時間的変化を加味してダイナミックに捉えることが重要である。したがって今後の研究では,心理的安全性の動的な性質や影響について調べることが望ましい」としています。このように,心理的安全性はこれまでの研究蓄積を踏まえつつ,現場での知見を加えて理論を発展させてより実践的な智慧としていく必要があると,個人的には思料します。

〔こありん先生チャンネル〕YouTube配信しています@(・●・)@

#コンサルティング #人的資源管理 #HRM #心理的安全性 #組織戦略

正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html