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#68 経営者の "Will, Can, Must"

~人間は,負けるとわかっていても,戦わねばならない時がある(福沢諭吉)~

ビジネスマンの自己実現やキャリアプランを扱うときに,Will, Can, Must はよく使われます。Will とは意思すなわち自分のやりたいことCan とは能力すなわち自分のできること,Must とは義務すなわち自分がやらなければならないこと,です。人間,Must=ねばならない ,ばかりだと窮屈でストレスフルになって仕事にやりがいを感じられなくなります。Will=やりたいことや,Can=できることを考え,これらの3つが重なっている仕事をするのが,もっともモチベーションが上がると言われています。

ところでこれはビジネスマン,特に雇用される働き方をする人が自分の仕事を考えるときに有効な手段です。ところで,「好きを仕事にする」とか「ビジネスは自分の強みの上に築け」とかは,創業起業の際によく聞かれるフレーズです。しかしながら,成長期あるいは安定期に入った企業の経営者はそれと同じ心持ちで良いのでしょうか?

これは以前,筆者が支援したレストランのケースです。レストランのオーナーは,自分の好きな音楽が生演奏で聞けるような店づくりをし,またHPやSNSによる情報発信,近隣へのビラ巻きなどの販促に力を入れました。でも売上はずっと頭打ちで伸びませんでした。何が原因だったのでしょうか?

それはそのオーナーが,顧客にとっての本質的な価値「美味しい料理が納得のいく価格で提供される」という,もっとも基本的な機能を充実させることから逃げていたからです。オーナーは大手レストランチェーンのホール上がりの方で,接客や店舗管理には長けていたのですが,料理に関しては今一つ自信が持てなかった,というのが本音です。ですから,最も本質的な価値を高めなければならないという Must を避けて,自分の好きな音楽=Will や,得意な=Can にばかり労力をかけていた,というのが経営不振の原因だったのです。

このようなケースは,意外と経営支援の現場(特に公的支援)で散見されます。これはあるフレンチの話,どう考えても料理のポーション(量)が少なく顧客は満足していないのに,オーナーシェフは「とにかく即効性のある販促策を教えて欲しい」というオーダーで経営相談を申し込んできました。申し訳ないですが,はっきり言ってそんなものはありません。クリティカルな問題を解決するという Must から逃げていては,何も好転しないのは火を見るより明らかです。現在そのレストランは,3カ月ごとの30%値引キャンペーンをタウン誌などで告知し,その時だけはお客様が来るということを繰り返しているようです。

なぜこのような話をしているかというと,今まさにコロナで世の経営者は, Must=やらなければいけないことが山積みになっているからです。しかしなぜか,この期に及んで Can=今できること,をする経営者が少なくないように思います。それは「先が見通せなくて何をやったらいいか分からないから,とにかく今できることをする」という,もっともらしい理由によってなのです。

この状況下で経営者がやることは,やらなければならない多くの課題に優先順位をつけて,歯を食いしばってひとつずつクリアしていくことなのではないでしょうか。今やらなければならないこととは,過去のやり方を捨てる,古いシステムを破壊する,イノベーションを起こす,変革創造する,といった,痛みを伴うことであり,そこから逃げたくなる経営者の気持ちも十分に分かります。しかしながら,経営者は今こそ,変わる勇気を持たなければならないのです。ここが正念場,Will や Can ではなく,経営者は Must と対峙しなければならないのです。

〔こありん先生チャンネル〕YouTube配信しています@(・●・)@

#経営 #コンサルタント #イノベーション #MUST #変革創造

正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html