見出し画像

#61 経営者の断捨離

~創業は易く守成は難し(唐書)~

10年ほど前から,片づけ方やライフスタイルを語る文脈で「断捨離」という言葉が使われるようになりました。最近ではミニマリスト的な生き方というようなニュアンスも帯びているようです。ところがモノを捨てるというのは,そう簡単なことではありません。人がモノを捨てられない理由としては,いろいろな思い出が詰まっているとか,これまでずっとあったからとか,でしょうか。

経営においても同じように,要らないものを捨てるという「断捨離」は必要です。業務改善レベルの5S活動では,モノを整理整頓する,要らないものと要るものを分ける,要らないものは捨てて要るものは定量定位置に置く,といったところです。経営戦略レベルで考えるならば,もうすでに要らない事業を切り捨てる,将来的に要らなくなる事業を無くすか減らすか変えるかする,というようなことになります。

現在,w/t コロナでの断捨離は,すなわちダウンサイジングを意味します。激烈な環境変化に耐えるためには,根元からポキッと折れないように身体を小さくして嵐が通り過ぎるのを待つ必要があります。もちろん,ただ単に待つだけでなく,昆虫の蛹のようにその間に次の羽化に向けた準備をするという意味もあります。また新規事業開発のためには,旧事業を断捨離して経営資源をスラック(余裕)化しておく必要もあるでしょう。

そうではあるものの,同じように経営者も簡単にはダウンサイジングできません。その理由としては,自転車操業をしているためダウンサイジングするとキャッシュが回らなくなる,撤退するにも撤退費用がかさみ一時的に赤字幅が拡大する,というようなことが考えられます。大きい体に慣れて業容を小さくするのが憚られる,格好悪い,などと思っているかもしれません。

ところで,撤退すればその場で赤字が▲100で確定するとして,撤退しなければ80%の確率で赤字はさらに拡大し▲200になるけれども,20%の確率で好転してなんとか赤字が解消できて±0になる,という場合,多くの経営者は事業継続を選んでしまうようです。期待値として考えるならば,撤退する場合は▲100,撤退しない場合は(▲200×80%)+(±0×20%)=▲160であり,確率論的には今撤退したほうが有利だということがわかります。しかしながら,目の前の▲100というサンク(埋没)コストを捨てるということができず,もしかしたら逆転できるかもという根拠のない希望的観測の方に目を向けてしまうのだそうです。

「見切り千両損切り万両」とは,江戸の昔から相場の世界で使われている言葉です。ダメなものをダメと見切って,使ったお金を惜しまずにさっさと損切りして次に備える。コロナ禍の現在,経営者はその決断力が試されているのかもしれません。

〔こありん先生チャンネル〕YouTube配信しています@(・●・)@

#経営 #コンサルタント #断捨離 #損切り #ダウンサイジング

正しいことより「適切なこと」に重きをおく,プラグマティックな実践主義コンサルタントです。経営の鬼門はヒトとカネ,理屈ではなく現実を好転させることをモットーとしています。 お問い合わせは,https://prop-fc.com/mail/mail.html