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ソフトバンクがなぜZOZOとLINEを手に入れたか。『アフターデジタル』藤井保文、尾原和啓

コンビニの無人化は、アフターデジタルの極地のように思っていたけど、そうではなかった。無人のコンビニで顧客がどのように商品を手に取り、迷うかをデータ化することに価値があり、さらには従業員たちが新たな「体験の創出」に寄与できるようになる。安直にデジタルとは「無人」「AI」と考えてはいけない。アフターデジタルの世界では、デジタルはすべての基盤である。無意識に存在するもので、これはアナログ、これはデジタルと区別するものでもない。私たちはただ便利な手法を選びとるだけで、オンラインで注文するのかリアルな店舗にいくかというのは、ただの手段でしかない。
そして、アフターデジタルによって可能になるのは、膨大な行動データによる、より細分化された顧客体験の創出だ。これを読むと、なぜソフトバンクがZOZOやLINEを手に入れようとしてきたのかがよくわかった。2019年1月の出版だが、読むのが遅かったと後悔させられた。
著者の藤井保文さんは、中国で日本企業向けの視察ツアーを企画したりしているという。変化の最先端での知見をもとに、アフターデジタルの世界を紹介していく。アリババとテンセントがなぜすごいのか、僕はまだ全然理解していなかった。そもそも、どういう会社かすらよくわかっていない。現代のコングロマリットは、重工業ではなく、身近なサービスのありとあらゆるものを包括している。スーパーアプリという言葉は、ようやく最近、耳にして、来年のトレンドワードになるかもしれない。アリババやテンセントはまさにそれだ。すべての行動に直結するアプリの登場によって、ありとあらゆる顧客の行動がデータとなり、課題の抽出とソリューションの提示がより細密化されていく。この便利さという体験によって、さらにアプリの利用率が高まっていく。エクメペリエンス型の競争社会と提示している今後の社会ビジョンは、とてもスリリングでわくわくさせられた。

 アフターデジタル型に世の中が変わることで、ビジネスもOMOに変わります。顧客に提供する体験がよくなり、行動データが取得でき、接点に返すというループが回り、エクスペリエンスの競争社会となります。エクスペリエンス型競争社会では、エクスペリエンス✖︎行動データの変革を行うことが重要になるため、それを行うためのビジネスモデルとしてOMO型バリュージャーニーのビジネスに変える必要があります。日本におけるこの活動の肝は、「グースチームによってUXグロースハックとUXイノベーションを行うというボトムアップ型アプローチである」というのが私たちの主張です。(P190)

UXグロースハックというのは、エクスペリエンスと行動データの回収を高速で回転させる仕組みを作ること。UXイノベーションは顧客の置かれた状況の発見と、それをより幸せにするようなコア体験をいかに作るかというのが肝である。なぜボトムアップ型かというと、日本ではトップダウン型がなじみにくいから。現場の反発などがあるから、小さな成功体験を積み重ねていく手法のほうが合っている。さて、この辺りが本書の主張の要約になるが、繰り返し述べているエクスプンペリエンスの向上というのは、細部にわたるようになっているが、日本的なサービスと非常に親和性が高いと思う。マニュアルにはない顧客への奉仕の精神はとてもなじみやすいのではないかと考えてしまう。ただ、これに行動データの分析が融合したとき、とたんに動きが鈍くなる。アフターデジタルの思考をうまく融合させられるのか。


読むのはまだ遅くないと思いたい本だった。

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