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狼と踊る男

1月20日。
福岡八女の、うちの近くのカフェのマスターが美術部の大ベテランだというのは聞きかじってたが、先日コーヒーを飲みに行ったら、市川準監督や石井克人監督らとガッツリCMやPVをやってこられた方で、映画も何本かやっておられて、気づけば閉店後も含め3時間近くお話に聞き入ってしまった。
(マスターの奥さんスンマセン汗)

※なぜかお土産に頂いてしまった、マスターが以前たずさわった作品の台本

若かりし頃のマスターが、黒澤明邸を訪ねた際のエピソードが強烈だった。

マスターが当時所属していた美術会社が黒澤明監督『乱』に関わっていたそうで、会社の使いっ走りでマスターは黒澤邸に資料を受け取りに行った。すると黒澤監督ご本人が出てこられ、渡されたのは『乱』の合戦シーンに登場する武士の兜飾りの、針金で作った原型約800個(主要キャストではない武士達である)。撮影前の準備期間の黒澤監督が、自ら一つ一つ作ったものとのこと。玄関の右側の壁には、手折り・手染めで作られた『乱』のための農民の衣装がかかっていた。これも黒澤監督ご本人の手によるものだったと。

「完成した『乱』を観たら、合戦中の武士達がつけた兜飾りなんて小さくてどれも見えなかったよ。それでも、黒澤監督はしっかり調べて、一個一個こだわって作ってたんだよ」

自分も監督の端くれで、新作劇映画を準備中だから理解できるのだが、そういった営みを通じ、黒澤監督は映画に自分を乗せていってたのだろう。
ここで、急に情けなくなってきた俺。自分の甘さを痛感したのだ。そう思わせてもらえること自体、得難い経験なのだが…。

「黒澤明の映画は、いくら大きな画面でもテレビでは観たくない。映画館でスクリーンで観たい」

というマスターの言葉、100パーセント同意である。

1月23日。
福岡市の中州にある、中州大洋という老舗映画館に午前十時の映画祭『ダンス・ウィズ・ウルブズ』を早起きして観に行く。1990年作品。

一昔前、アメリカタバコのCMによくカウボーイが登場し「アメリカンスピリット」「フロンティア」みたいな文言がコピーに踊っていた。また、この『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とほぼ同時期に、ビリー・クリスタル主演の『シティスリッカーズ』という類似したテーマの作品もあった。どちらも大ヒットしている。
1990年前後、アメリカ人の集合意識は「フロンティアスピリットへの郷愁」みたいなものを感じていたのだろうか。2020年の今、アメリカで今作のようなテーマの作品は作られる気配もなければ、作られたとてヒットしないだろう。隔世の感を禁じえない。

実はこの『ダンス・ウィズ・ウルブズ』、11歳、小学五年生の時に劇場に観に行っている。その時は、今作のテーマが持つ意味などよく理解できないままに「おもしれー!」と感じたのを覚えている。今回観てみて逆に、今作のテーマが持つ意味はよく理解できたが、「この作品どうなんだ?」と感じてしまった。

なぜ11歳の僕が、テーマは理解できないままに今作をおもしろいと思えたのか。それは、今作が安易に〈善玉 / 悪玉〉を分けて描いており、エピソードごとに勧善懲悪で、観ていて「スッキリする」からである。水戸黄門で悪代官が出てきて、罪のない人々が苦しめられる。ラストで黄門様ご一行が悪玉をやっつけて印籠を出す…あの構造と同じなのだ(スー族と対立するポーニー族、主人公ジョン・ダンバーと対立するアメリカ北軍など)。

主人公ジョン・ダンバー中尉が、インディアンのスー族と交流を深めていく映画前半はそれなりに魅力的なのだ。しかし、ダンバーがスー族に受け入れられてからの後半は、ご都合主義の安易なメロドラマが連打され、正直、観るに耐えない。〈ダンバーが髭を生やしている時 / ダンバーが髭を剃ってから〉と分けてもよいだろう。

ハリウッドの大資本では不可能だったろうが、映画前半の、一人の軍人ジョン・ダンバーとスー族が交流し、理解し合う過程のみをしっかりじっくり描いて一本の映画にすれば、とても味わい深い作品になっていたことだろう。『ダンス・ウィズ・ウルブズ』のようにヒットはしなかったろうが、より深くテーマを掘り下げることができたのではないか。後半がくっついたことで、薄っぺらな勧善懲悪のメロドラマになってしまい、せっかくの良質なテーマが誤魔化されてしまった。アメリカの先住民族のたどった運命や現状、侵略する側 / される側の心情、人間の宿業みたいなもの…それらは簡単に〈善 / 悪〉で割り切れるものではないのである。

数年前に『ウィンドリバー』って映画があったが、同種のテーマを誠実に扱いつつ、娯楽映画としてもしっかり作られた作品だった。『ウィンドリバー』を観直したくなったな。

ただ、同行者は「良かった〜」と泣いていた。おいおい汗

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金はないものが出すものぢや。あるものは出さん。

映画監督/ドキュメンタリー映画「まちや紳士録」('13)「人情噺の福団治」('16)を監督。東京・名古屋・大阪ほか各地で劇場公開/2021年春撮影予定の新作劇映画を準備中/三重県 多度ふるさと塾 世話人/土着と革新の間 info@officearigato.com

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