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お守りのような物語を、心の中に持っているから。

中学1年生の頃、初めて文庫本の「小説」というものに出会った。

今まで読んでいたちょっと大きめのいかにも小学生向けのイラストの入った本から、小さな文字の本になり、何だかとても大人になった感じがしたのを覚えている。

夏休みで、だけど勉強以外することがなく、友達も少なかった私はたまたま父に連れられていった本屋さんで、平積みされていた本の中から、ほんとうに適当に、手に取った本だった。

その夏、私が最初に選んだのは『夏の庭』だった。

その日から、私の世界は変わった。

本の世界へ潜り込めば、現実世界の嫌なことは全部忘れられ、深い深い物語の海でとても自由に泳ぐことができた。あまりに夢中になりすぎてそれこそ息をするのを忘れるくらい。

それ以来、私の趣味はずっと読書。

その時々で読む本は変わっていくけれど、やはりはじめて出会った本たちとの思い出は色褪せない。

あの夏、一気に読書にハマった私は1日に1冊のレベルで本を読み漁った。

『西の魔女が死んだ』『カラフル』『リズム』『アーモンド入りチョコレートのワルツ』、、

どれも同年代くらいの女の子が主人公で、女性作家さんの本が好きだった。最初にハマったのが森絵都さんだった。

もちろん今ではストーリーの詳細まで思い出せないものもある。

だけど、読んだ当時の高揚感や切なさや哀しみは、いまだにわたしの心の中のすぐに触れられる場所にある。

少女だった私は、大人になって、会社員をして、フリーランスになって、結婚して、子供をもつ親になった。

幸せではあるけれど、忙しい毎日の中で、迷うことも、苦しいことも、泣きそうになるくらい悔しいことも、やっぱりある。

そんな時、何よりも支えになっているのは、でも実はあの頃の物語なように思う。

何も現実的な解決策にはならないし、状況がリンクしているわけでもないのだけれど、ふと疲れた時に、たとえば『西の魔女が死んだ』のあのおばあちゃんの庭に、心の中でワープしたりする。そうすると一気に辺りは緑いっぱいの庭になり、明るい太陽がキラキラと皮膚に降り注ぐ。

もちろん時間にするとたった数分。

だけどそんな、お守りのような物語が、今日も私を守ってくれている。

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