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市民参加型ワークショップによる地域の公共図書館設計のポイント

ここ半年の間に、何件か立て続けに地域の公共図書館の設計に関わるお仕事をご依頼いただいています。ミミクリデザインと設計事務所様が連携させていただき、設計事務所様のたたき台としての設計案がありながらも、市民参加型のワークショップを2〜4回程度実施し、市民の具体的な要望やアイデアを収集し、設計に反映させるというのがプロジェクトの大きな建て付けです。

一般的に、こういったケースは「一応、市民の声は聞いて作りましたよ」という、いわゆる“アリバイ作り”のためにワークショップが消費され、残念ながら市民の意見には多くを期待しない場合が多いと聞きます。しかし幸運なことに、ここ半年で関わらせていただいたプロジェクトたちは、市民の意見を「貴重な意見」として尊重するだけでなく、設計側やファシリテーターの予想を超えるアイデアやビジョンが飛び出す創造的なプロジェクトとして実施することができました。あらためて、市民参加型ワークショップの課題と可能性について考えるよいきっかけになりました。

正直にいえば、この領域のワークショップは、企業の事業開発や組織開発のプロジェクトに比べると、プログラムデザインとファシリテーションの難易度はそう高くはありません。時間もせいぜい1回あたり2〜3時間程度のものですから、話しやすい環境を作り、多様な市民の批判的な意見をきちんと受け止め、それを建設的な提案に変えるためのプログラムとファシリテーションの用意と構えさえあれば、「楽しく、有意義な話し合いの場だった」と終わらせることはそう難しくはありません。

しかし、参加者の満足度を超えて、行政にとっても設計者にとっても創造的なプロジェクトとして意味あるものにするためには、設計に一工夫が必要です。なぜならば、「地域における、公共の場としての、図書館をつくる」というプロセスには、複数の重要な軸が混交しており、どのような軸で深掘りするプロジェクトにするかをステークホルダーと合意しておかないと、ワークショップの議論は浅く中途半端なものになってしまうからです。

特に深掘りする軸を決めないまま、「どんな図書館が欲しいですか?」というひねりのない問いを投げかけても、参加者からは「絵本を増やして欲しい」「飲食できるスペースが欲しい」「営業時間を延ばして欲しい」「駐車場を無料にして欲しい」など、具体的な仕様に関する要望が寄せられるばかりでしょう。これはこれで重要な意見なのですが、アンケートをばらまけば済む話で、わざわざワークショップを開催する意味はありません。

そもそも市民は必ずしも「本を借りる・読むため」に公共の図書館に来るとは限らず、日中の居場所を求めて利用することも想定しなければなりません。必要な[図書館機能]について検討することも重要ですが、そうした[場の公共性]を軸に深掘りをするのであれば、家や職場にはない公共の居場所(サードプレイス)としての価値や意味について考え、市民にとっての居場所性を高める施設アイデアを深掘りするのもよいでしょう。

他方で、似たり寄ったりなカフェ風の公共図書館が乱立するなかで、「この地域ならではの施設とは何か」ということを考えることも重要です。市民として、これから建てられる新しい施設によって、地域のどんな資源を活かし、どんな課題を解決したいのか、こだわりやビジョンを話し合ってもらうことは、[地域性]の高い施設を作る上では重要です。

同時に、開業後にその施設があることによって地域と市民がどのように変わっていくことが望ましいのか、長期的な[将来展望]を見据えることも重要かもしれません。市民参加のワークショップをしていると、「現在の要望・不満」ばかりが飛び交って、この長期的な視点が抜けがちだと感じる場合が多いです。(以下の写真は、架空の新聞記事形式のワークシートを用いて、施設が未来の地域に与える影響を議論しているところ)

同じ「地域の公共図書館の設計」のプロジェクトであっても、どの軸を重視しながらプロジェクトを進めるのか、またその地域の資源や課題によっても、全く異なる進め方になります。せっかく手法としてワークショップが採用されるのであれば、”アリバイ作り”に消費されるのではなく、市民の創造性が施設設計に反映される創造的なプロジェクトが一つでも増えて欲しいと思います。

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