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ワークショップにおける問いの「軌道」のデザイン

問いのデザインの第一歩は、目の前の問題に対する「まなざし」のデザインである、と考えています。

たとえば、あるカーアクセサリーメーカーが直面している「AI時代にカーナビが生き残るには?」という課題に対して、

「AIを駆使した未来のカーナビの機能とは?」と問うのか、
「未来の"移動の時間"はどんな過ごし方になるか?」と問うのかによって、

問題の解釈の仕方、それゆえの思考の切り口が変わり、結果として見えてくる景色が変わるからです。導かれるアイデアの質が、問い(まなざし)によって変わることは、言うまでもないでしょう。このように課題を捉える枠組みを再定義することを、リフレーミングといいます。以下参考。

また、スポットライトを「未来の"移動の時間"」に当てるとした場合においても、ワークショップにおいて「2050年の移動はどのようなスタイルになるだろうか?」とファシリテーターから問いかけるのと、「自動運転社会において、あなたはどんな移動の時間を過ごしたいか?」と問いかけるのとでは、参加者の受け取る印象や、喚起される思考は全く異なるものになるでしょう。もしくは、アイスブレイクで「あなたのこれまでの旅行経験のなかで、移動時間が楽しかった思い出は?」などと問うてみても、また違った視点での意見が飛び交う場になるはずです。

実際に行うワークショップのプログラムにおいて、具体的にどのような問いを場に投げかけ、どのようなまなざしを参加者と共有するかによって、ワークショップ当日に思考やコミュニケーションのプロセスは異なるものになるのです。

個人レベルか、社会・組織レベルか?

まず第一に考えなければいけないのは、参加者が自分(個人レベル)の視点で場に臨んで欲しいのか、あるいは社会や組織などのマクロな視座から思考をして欲しいのかによって、問いの設定は変わります。

この2つは相反することが多く、どちらがよいということではありませんが、問いが「社会・組織レベル」に偏ると、話し合いが「自分ごと」にならなくなっていきますし、他方で、問いが「個人レベル」に偏りすぎると、今度は社会にとっての新奇なアイデアや、組織にとっての課題解決につながりにくくなる場合があります。

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余談ですが、興味深いことに、ワークショップで扱われる問いの傾向にはファシリテーターの志向性がよく現れます。自然な状態で問いのブレインストーミングをすると、「社会・組織レベル」の問いばかりが思い浮かぶ人と、「個人レベル」の問いを考えるのが好きな人など、傾向が分かれます。

過去を省みるか、未来を描くか?

また、場のまなざしを過去に向けたいのか、未来に向けたいのか、によっても、問いのデザインは異なるものになります。「個人↔︎社会」という軸だけで問いを生成していくと、どうしても「現在」に視点が集約されてしまうため、時間軸の広がりを持つことも重要です。横軸に「過去↔︎未来」を挿入することで、問いのまなざしを以下のようにマトリクスで捉えてみます。

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個人レベルで過去に視点を向けることは、参加者の「経験」を問うことに他なりません。設定したテーマについて自分ごと化しながら、過去の経験からヒントを探ったり、価値観を共有したりする際には、この視点での問いは欠かせません。

組織や社会のレベルで過去に視点を向けることは、大げさにいえば「歴史」に目を向けることです。社会課題の解決のアイデアを考えるにせよ、組織の未来を考えるにせよ、その領域や組織が歩んできた歴史に目を向けることは有益です。商品開発や組織開発のワークショップで抜けがちな視点です。

組織や社会のレベルで未来に視点を向けることは、「ビジョン」を構想し、描こうとする態度です。自分ごと化を促す問いや、過去に目を向ける問いも大切にしながらも、商品開発や組織開発のプロジェクトでは、最終的にはこの象限に落とさなければなりません。

個人レベルで未来を考えることも、個人のビジョンとも言えますが、社会や組織とは切り離された「私はこうしたい」「こうなったらいいな」という素朴な感覚も含めるという意味で、あえて「妄想」としてみました。

まなざしの軌道を描く

実際にプログラムを設計するときは、一つの象限の問いだけで構成することはありません。最終的に「ビジョン」を考える場合においても、例えば、

自分ごと化するために、個人の「経験」を問い

個人の「妄想」を促して視点を未来に向けたた上で、

組織としての「ビジョン」を練りあげていく

..などと、複数のまなざしを組み合わせて軌道を描くことが重要です。

軌道の描き方に正解はありませんが、プロジェクトにおいて設定した課題に対して、どのような角度から思考やコミュニケーションをしていけばよいのか、ファシリテーターが十分にシミュレーションをした上で軌道を設計していくことが、ワークショップのプログラムデザインの本質ではないかと思います。

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