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一番キツイところでやめたら、もう二度と同じ挑戦をしないね

私のビザは2025年の春に切れるのだけど、次のビザのことで今、まあ大変な岐路にいる。選択肢はいろいろあるのだけれど、全ての選択肢にメリットとデメリットがある。どれもが、私にとってはハイリスクハイリターンだ。痛い思いをすることも、不安を抱えることもなく、異国から来た人間が簡単に市民権を得られるほど、世界は優しくはない。企業と手を繋げば数年単位の時間的制約が生まれ、自力で進めば自由と引き換えに金銭的な負担がかなり増える。永住権取得に向かっている私には、歳を重ねるごとに少しずつ不利な状況になる。

カナダは書類仕事が本当に、遅い。おまけに不安定だ。ワーホリビザの申請結果だって、受け取るまでにある人は2週間で、ある人は2ヶ月以上かかったりする。預金額が大きい人から先に審査するなど、何を基準に待機時間が変化しているのか把握できるならマシなのだけど、そういうわけでもないらしい。

「どんな人にチェックされるかによるんだよねぇ」と言われた時には、縋れる藁すら見当たらないまま、大きな不安と焦燥を抱えたままブラックホールを前にじっと耐えているしかないのである。

ビザの問題は、基本的に長期戦だ。情報収集から始まり、書類準備や手続きも「本当に先進国でしょうか?」と思うほど複雑で工数がかかる。たとえば雇用主が自分を従業員として就労ビザの配給を約束してくれても、急に政府がルールを変えたり、その年の応募者数や社会の状況によって、「まさかの事態」が訪れたりもする。どこまでも、自分ではコントロールできない渦の中に身を委ねるしかないのだ。

無事に申請を終えたら終えたで、離れたボールの現在地点がわからない数ヶ月が始まる。手のひらで弄ばれているかのように、状況も情報も毎日ころころ変りつづけるなかで、心はずっと忙しない。どんな時でも同じ強さで、自分の願いや意志を握り続けられたらいいけれど、私はそんなに強くない。

そもそも、こんな大変な思いをして日本を離れる必要はあるのか?バンクーバーってそんなに素晴らしいか?何年もここに捧げるより、今すぐ全部やめて帰ったほうがいいのではないか?

握り続けるのか、手放すのか。
コップに注がれた水がタプタプと左右に揺れて、それは次第に激しくなり、いつかは倒れて外側ごと崩壊してしまいそう。こわい。

全部手放した先のことを、想像してみる。
一番キツイところで辞めたら、きっとカナダに遊びに来ることすら、この先辛くなるんだろうね。今カナダにいて、今が一番この先の人生で若くて、今永住権に向かって手を伸ばしているところで。

掴み取るまでの距離が遠くて心折れそうでも、それでも、今が一番“近いところ”なのだ。

今辞めると決めるなら、もう二度とこの挑戦はしないだろう。今より確実に、全部が大変で、遠い距離からのスタートになるのだから。
一番キツイところで辞めたら、同じ挑戦はもう二度と出来ないね。

そう思ったらやっぱり、『ここで負けるわけにはいかない』のだ。

2023年の夏、【猛烈☆日本に帰りたいモード】の渦中にいた私も、同じことを呟いていた。

当時の私は、誰といてもまとわりついてくる(感じがする)疎外感に心をえぐられ、英語の成長速度の遅さに毎日落ち込み、友達に会いたいと泣いていたらしい。弱すぎて笑える、赤ちゃんか?

帰りたかったけど帰らなかった。けど、もし去年帰っていたら。当時の痛みに耐えかねてバンクーバーを去り、カナダを思い出すたびに苦い後味に俯いていたとしたら。

大損すぎてありえない。

2023年8月の私よ。君はこの後、ふたりの親友と出会う。まず、Joshと出会わずに日本に帰るなんてありえない。きっと、生涯ずっと大切に思い続けるし、結婚式には世界のどこにいても絶対に招待し合うだろうし、離れることを想像するだけで号泣する日が来る。恋愛も2回する。「目の保養じゃん」と思っている推しに、推されたりもする。

今の君がうっすら感じている疎外感なるものは、いつの間にか溶けて消える。出勤するたびに凹む、その職場にいる人たち全員、君の味方だよ。心の底から大好きになるよ。この後たっっくさん旅行をして、夢だった恐竜の聖地にも行けるし、NYにも行けるし、オーロラを見るし、一生忘れたくないと思う景色と山ほど出会う。お母さんをカナダに連れてくる目標も達成するよ。

君が抱えている胸の痛みは、1年後には思い出すこともできない程度のものだ。そんなところで投げ出すなんて、あまりにも馬鹿馬鹿しい。大したことじゃないから、美味いもの食べて早く寝な。


……帰りたいと思うほど、落ち込んでいたとしたって。続く道を1年歩いた今の私からすれば、思い出すことすら難しいくらい取るに足らないこと。

きっと2024年9月の私が抱えているビザの問題だって、これから待ち受けている未来の出来事に比べたら、「なんだっけそれ?」と首を傾げるくらいになる。

だから、こんなところでやめないで。一番キツイと思っているところなら、尚更やめないで。

何度も、言い聞かせて歩いていくのだ。



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